News 2001年6月29日 09:13 PM 更新

デジタルテレビが普及しない理由

出足好調と伝えられたデジタルテレビだが,ここにきて出荷台数はめっきり落ち込んでいるようだ。期待の大型商品だったはずだが,なぜつまずいているのだろうか。

 BSデジタル放送がスタートした昨年12月には,単月で17万台と出足好調だったデジタルテレビの出荷台数が,今年4月には2万4000台にまで落ち込んでいる――。

 このデジタルテレビの現実は,東芝デジタルメディアネットワーク社技師長兼パーソナルマルチメディア開発センター長の甲斐実氏が,東京ビッグサイトで開催された「組込みシステム開発技術展」のキーノートスピーチで明らかにしたものだ。デジタルテレビとSTBの累計出荷台数も,今年3月末までで59万台と振るわない。


デジタルテレビとSTBの出荷台数の推移

 デジタルテレビは当初,NHKや業界団体が「1000日1000万台」を声高に訴え,3年で1000万台の普及を目指していた。しかし,いざフタを開けてみると「惨憺たる状況」(甲斐氏)だ。

 今のところ公的には,1000日時点(2003年8月27日)のBSデジタル放送が視聴可能な世帯数を963万世帯と予測(BSデジタル推進協会と野村総合研究所による「BSデジタル放送の普及予測調査」)し,業界目標をほぼ達成できるとしている。2003年度末では,約1200万世帯に普及すると,さらに風呂敷を広げている。

 しかし実情は「会合を開くなど,業界あげて対策を検討している」(甲斐氏)というように,デジタルテレビの普及は思うように進んでいない。あまりの低迷振りに,業界でも深刻に受け止めざる得なくなってきた。


東芝デジタルメディアネットワーク社技師長兼パーソナルマルチメディア開発センター長の甲斐実氏

 甲斐氏によると,ある放送局関係者が行った別の講演会で「デジタルテレビが普及しないのは,チューナーなどデジタル放送機器の価格が高いからだ」という話があったという。確かに,チューナー内蔵タイプのデジタルテレビで20万円後半〜30万円台,チューナー単体でも7万〜8万円という価格は,広く一般家庭に普及するにはまだ高い。

 このようなコンテンツ制作側の言い分に,甲斐氏は「メーカーの側から言わせてもらうと,放送内容をもっとよくしてもらいたいというのが本音」と反論。このようにギクシャクするメーカーと放送局の関係にも,デジタルテレビの普及が進まない一端が見え隠れする。


日本のデジタルテレビ放送の課題

 甲斐氏はまた,今後のデジタル放送の課題として「多様すぎる選択肢」を挙げる。2003年末には,デジタル放送の選択肢としてBSデジタル,広帯域CSデジタル,地上波デジタルと3通りのメディアが並ぶ。提供される放送も,HD放送,蓄積型放送,双方向データ放送,モバイル放送など多岐にわたる。受信機も,全てのデジタル放送が楽しめる万能型から,専用型,共用型,選択型,移動体受信用携帯端末などが考えられる。

 これでユーザーが迷わないといったらウソだろう。

 「デジタルテレビの最新動向と将来への展望」というタイトルで行われた甲斐氏の講演では,国内デジタル放送の概要が,最新技術から規格,著作権問題にわたって一通り紹介された。現時点での「デジタルテレビを取り巻く環境」はよく分かったが,タイトルに掲げられた“将来の展望”は講演から見えてこなかった。本来協調すべきメーカーと放送局との足並みの悪さや,専門家ですらバリエーションの多様化を課題に挙げる日本のデジタル放送の将来に,期待よりもむしろ“不安”が募った。

 甲斐氏は講演の最後に「デジタルテレビを中心とした新しいホームマルチメディア時代に一歩踏み出したが先は長い。しっかり将来を見据えて準備しよう」と締めくくった。

 なるほど,デジタルテレビはまだまだ「将来」のものなのだ。

[西坂真人, ITmedia]

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.