News 2001年7月4日 11:57 PM 更新

狙うはラストワンマイルのWinner――インフィニオンの「10BaseS」

光ファイバーと家庭やオフィスを結ぶアクセス回線――俗に“ラストワンマイル”と呼ばれている部分をどうつなげるかという問題には,ADSLや電灯線,無線LANなど多くの選択肢がある。そのラストワンマイルに新たな選択肢が登場した。

 半導体メーカーのインフィニオンテクノロジーズジャパンは7月4日,既存の電話線を利用してEthernetベースのデータを対称速度13Mbpsで送受信する伝送技術「10BaseS」の説明会を行い,日本市場での販売戦略を語った。

 10BaseSは,一般的なLANプロトコルであるEthernetと,現行で最高速のxDSL技術であるVDSLとを結び付ける伝送技術で,Infineon technologiesが特許を有する。すでに製品出荷は今年1月より行われており,Cisco SystemsやExtreme Networksなどが10BaseSを採用した製品をリリースしているほか,全世界で50社以上のメーカーで10BaseSチップセット搭載の製品設計が進んでいるという。


10BaseSチップセットを使った評価用VDSLモデムボード

 電話線(公衆回線)という既存の銅線インフラを介して,標準Ethernetデータ伝送を提供することができるというのが,10BaseSの最大の特徴だ。上り下りともに13Mbpsの対称方式と,下り22Mbps/上り3Mbpsの非対称方式がある。既存の各種電話サービス機能とも併用できるため,同じ電話回線を使ってEthernetデータと電話,ISDN,PBXとが共用できる。

 この技術は「Ethernet over VDSL」と呼ばれる新しいDSL技術を用いたもの。Infineon technologiesが開発した10BaseSチップセットは,下りチャンネルを上りチャンネルから分離し,さらに両チャンネルを電話信号から分離するために,周波数分割多重化(FDM)方式を採用している。そのため,10BaseSモデムにはスプリッタが組み込まれる。PCと10BaseSモデムは,LANケーブルで接続。このモデムを既存の電話線を介してセンターの10BaseSスイッチに接続し,そこから光ファイバーなどの,より高速な回線を通じてインターネットに接続できるのだ。

 会場では10BaseSシステムで既存電話線にイーサネット伝送を重畳し,ビデオサーバーからの映像を伝送するデモンストレーションが行われた。


既存電話線でビデオサーバーからの映像を伝送するデモ

 もう1つの特徴は,Ethernet LANの拡張として利用できる点だ。10BaseSブリッジを介することで電話線がLANケーブルの役目を果たし,最大10MbpsのLAN接続を実現する。10BASE-Tでは最大100メートルであった伝送距離が,10BaseSでは既存の銅線インフラを使用しながらも1.2キロメートルという長距離伝送を実現できるという。電話線でブリッジ間をつなぐため,高価なLANケーブル(カテゴリー5など)をルーターを介して延々と敷設しなくてもよくなる。1.2キロメートルという制約はあるものの,本社に隣接する別棟へのLAN敷設といったニーズに効果的なソリューションだ。

 今回の10BaseSソリューション説明会は,半導体メーカーがエンドユーザーに向けてアナウンスするという異例の発表スタイルだ。この件について同社コミュニケーションアンドペリフェラルズ事業部営業部の小林三千夫部長は,日本市場における同社戦略「カスタマーズカスタマーアプローチ」を掲げた。


コミュニケーションアンドペリフェラルズ事業部営業部の小林三千夫部長

 「従来,我々半導体メーカーは機器メーカーに対してのアプローチに重点を置いていた。しかし,10BaseSのようにエンドユーザーが関心を持つような製品に関しては,機器メーカーだけでなくその先の通信業者や不動産会社,ビルメンテナンス会社などにもアプローチするのが今回の戦略」(小林部長)という。通信業者や不動産会社に直接アプローチすることで,その先のISPやコンテンツプロバイダを通じて最終的にエンドユーザーに強く訴えかけるというのだ。

 「メーカーやベンダーだけでなく,カスタマー向けにアナウンスすることで,結果的にユーザーの生の声が聴ける。新しい技術なので,意見を反映することでより良い製品につながる」(同社広報)。

 この戦略で,ホテルやマンション,病院,学校などMTU(Multiple Tenant Units)/MDU(Multiple Dwelling Units)市場約4000万世帯をターゲットとしている同社だが,「実際にいくつかの案件が,この戦略によって成約に結びついている」(小林部長)。

 ブロードバンドの波に乗って,ラストワンマイル競争も熾烈になっている。10BaseSと同様に既設の公衆回線を利用する例としては,先日,沖電気工業が発表した,電話配線を利用する「構内ADSLソリューション」などもある。FTTHが実現するまでの数年間,ラストワンマイルで何を選択するか。ユーザーの意見に耳を傾け,本当に使いやすいソリューションを提供できるところが,ラストワンマイルの勝者としてチェッカーフラグを受けることができるのだろう。

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[西坂真人, ITmedia]

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