News 2001年7月12日 11:55 PM 更新

Bluetoothの「ペン」で綴るBluetoothの現状(2)

実用化へ向けたいくつかの課題

 まず第1の問題は,「価格」だ。内部のチップや基板を実際に製造しているのはEricssonで(Anoto社はEricssonから15%の出資を受けている。残る85%はC-Technologies),日本側のライセンシーの努力でコストダウンできる部分は少ない。そして,ご存知のように現状ではこのチップがまだかなり高い。

 「現時点でこのペンを製造すると,販売価格は300ドルぐらいになってしまう」(パイロット新商品営業開発部長・斎藤純一氏)。これではもちろん売れない。「1万円以下で販売できるようになるのが必須条件」(同)だ。

 第2の問題は「太さ」だ。ペンの中にはBluetoothのチップや画像処理プロセッサ,電池などが詰まっており「チップサイズがまだまだ大きい」。実際,見たところでは,日本人の標準的な手のサイズでは,やや持ちにくさを感じるレベルだ。


三菱鉛筆のuniデジタルペンのプロト。太めをデザインで上手に隠しているが……

 2つの問題はいずれもチップの低価格化・小型化待ち。小型化の方は「2年後ぐらいなら小型化のメドが立っている」(同)。低価格化の方も,Bluetoothが普及しさえすれば2年後に目標価格を割り込ませることができるだろうが,最近のBluetoothの状況を見ると,こちらの方は不透明かもしれない。

 しかし,最大の問題は,この「Bluetoothでできるようになること」を,実際のユーザーメリットにどう結びつけるのかだ。

 たとえ,1万円を切ったとしても,ペンとして考えれば,決して安くはない。また,充電作業などの手間も必要になる(現時点では1日1回程度)。紙も特殊な印刷が必要になるので,「通常の紙よりは2-3割高くなる」という。

 こうしたマイナス部分があっても,それでもこのBluetoothのペンを使うことにどんなメリットを見出せるのか−−。それには,ペンで書いたものが,Bluetoothで携帯電話やPCに飛ばせる,というだけではちょっと弱い。

 以前,武藤工業が日本アイ・ビー・エムと共同で,手書きした文字を「WorkPad」に入力できる電子メモパッドを出したことがある。だが,必ずしも成功しなかった。面白い発想だったが,いざ使ってみると,「できることのよさ」よりそれを持ち運ぶ手間や入力にまつわる手間が上回って,いつしか使わなくなってしまったのだ。

 もちろん,このテーマの重要性は,ライセンス供与を受けるパイロット,三菱鉛筆の担当者たちも十分承知している。通信販売の記入や病院の電子カルテ化など,さまざまな使い道を探っているようで,「良い使い方があったら,むしろ教えて欲しい」とも話していた。また,年末からAnotoやVodafoneなどによるネットワークでの運用実験も始まるとかで,その結果待ちという面もあるようだ。

 デモ見る限り,その技術はすごく魅力的に見える。そして,うまく使えば,きっと素晴らしいことができるだろう。しかし,その間を繋ぐ輪が,まだ見つからない。それはデジタルペンの問題であり,また,Bluetoothの問題でもある……。

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[中川純一, ITmedia]