News 2001年7月31日 01:00 PM 更新

モバイル向けの新チップセット「i830」は暴れ馬?

モバイルPentiumIII-M発表に伴い,インテルは新チップセット「インテル830」を発表した。ハブアーキテクチャを採用するなど,モバイル向けでは意欲的な製品だが,それだけに業界関係者からは「暴れ馬だ」と言う声も聞こえてくる。

 インテルは31日,モバイルPentiumIII-M(Tualatin)を発表したのに伴い,同CPUの「性能を最高に引き出す」(同社)新しいチップセット「インテル830チップセット(i830)」を発表した。


モバイルPentiumIII-Mに対応した新チップセット「i830」。他の「8xx」チップセットと同じくハブアーキテクチャを採用したチップセットだ

 これまで「Almador」というコードネームで呼ばれてきたこの新しいチップセットで,インテルは従来の「ブリッジアーキテクチャ」に代わって,Intelが最近「8xx」チップセットで採用している「ハブアーキテクチャ」を採用,より高速なデータの処理と伝送を行えるようにしている。

 しかし,ノートPCの開発メーカーに聞くと,この「i830」はなかなかの暴れ馬で,モバイルPentiumIII-M搭載のノートPC開発にてこずる最大の要因になったようだ。

ハブアーキテクチャを採用

 830の基本的な仕様をおさらいすると,メモリはPC-133MHzのSDRAMをサポート,最大で1GBと従来の倍のメモリを搭載できる。RDRAMはメインメモリとしてはサポートされず,また「PC-100のSDRAMをサポートする計画はない」(同社)。これはすでにPC-133とPC-100のメモリの価格差がなくなっており,今後のメモリはPC-133が主流になるとの判断からだ。従って,今回のモバイルPentiumIII-Mを搭載した各社のノートPCはいずれもメモリにPC-133 SDRAMを採用,従来のノートPC用メモリとの互換性はなくなっている。

 ハブアーキテクチャの採用で,チップセットはNorth Bridge/South Bridgeという構成ではなく,代わって「Memory & Graphics Controller Hub(グラフィックスコントローラ)」と「I/O Controller Hub(I/Oコントローラ)」の2つのハブで構成されるようになる。従来のブリッジアーキテクチャではI/Oバスを共有していたが,個別のI/O処理を行うようになり,バンド幅も従来の2倍の266Mb/secに拡張されている。

 このうち,グラフィックスコントローラでは,3つの選択肢がある。そのひとつが今回発表された「830MP」で,これは外付けグラフィックスだけをサポートする。AGPは4Xないし2Xだ。

 それ以外は「今年後半リリース」(同社)で,高性能3D機能搭載の内蔵グラフィックスないし外付けグラフィックスをサポートする「830M」と,内蔵グラフィックスのみをサポートする「830MG」がある。

 後者はバリューPC向けという位置付けで,同じ内蔵グラフィックスでも高性能版の830Mとは「世代が異なっている」という。ただ,グラフィックスの外付け・内蔵に関わらず,単一のアーキテクチャを提供したことで,単一のドライバで対応することが可能になり,メーカー側は共通のチップセットを使用,製品開発時の認定評価にかかる時間を短縮することができるようになったと,インテル側ではそのメリットを強調している。

 一方,I/Oコントローラ(「ICH3-M」)はPCIバスやUSBなど,I/Oまわりのハブとして機能する。こうした構成を採ったことで,高速な周辺機器のデータ転送を個別にコントロールすることができる。これに加え,リアルタイムのデータ処理のプロトコルが「ストリーミングビデオでコマ落ちしないレベル」に高機能化されており,快適なマルチメディアアプリケーションの動作がノートPCでも可能になった。

 実際のI/O機器では,まずUSBが最大6ポート(2ポート×3)サポートされている。ただし,USBは2.0ではなく1.1で,2.0については「将来的にサポートする」と述べるに留まった。他にPCIバスインターフェイス,LANインターフェイス(LAN/HPNA)が内蔵されており,IDE(ATA66/100×2),Audio/モデムなどのインターフェイスも,I/Oコントローラが持っている。

 このI/Oコントローラは,「拡張版インテルSpeedStep」や「DeeperSleep」をフルサポートしており,自身についてもLowPowerモードを持って,消費電力を低減できる。

仕様は魅力的だが,安定までには時間が必要か?

 このようにノートPCとしては統合的で,意欲的な仕様のチップセットだが,それだけに問題も大きかったようだ。830チップセットは基本的には815チップセットの後継だが,830ではデスクトップ用のチップセットが投入されず,本来,ノート/デスクトップ兼用だったチップセットが,ノート専用になってしまった経緯がある。

 しかも,従来のブリッジアーキテクチャからハブアーキテクチャへの変更,I/Oコントローラの「ICH-2」から「ICH-3」への切り替えなど,全面的な仕様変更になっている。このため,成熟度の点でまだまだの面があり,メーカー側のノートPCの開発者に聞いても,この830チップセットの取扱いに手を焼いたという話が多かった。実際,この面で製品開発がかなり遅れたメーカーもあり,モバイルPentiumIII-Mのリリース自体,若干後ろにずれ込んだと言う話も聞こえている。

 また,現時点でリリースされたノートPCを見てみると,最先端の省電力技術を使っている割に,意外とバッテリー駆動時間が伸びていない。これはひとつにはグラフィックスなどの処理を行わせるベンチマークテストでは,「拡張版インテルSpeedStepテクノロジ」など,今回搭載された新技術が生きてこないと言う面があるが,それ以外にも「現時点の830チップセットはモバイルPentiumIII-Mの省電力性能をまだフルに生かしきれていない面がある」という指摘が複数のノートPC開発者からあった。

 インテルではこの「830チップセット」プラス「モバイルPentiumIII-M」でミニノートからA4ノートまでのすべてのノートPCに対応させる考えのようだ。ただ,グラフィックスを内蔵させると電力消費が意外と大きいと言う噂も聞かれ,すぐさまフルラインアップでの登場には難もあるようだ。

 期待は大きいチップセットだが,その本来の性能をフルに出すには,いま少し成熟に時間がかかるかもしれない。

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[中川純一, ITmedia]

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