News 2001年8月24日 11:59 PM 更新

IBMのブランドマーク戦略に思うこと

 ブランドイメージのさらなる浸透のために,IBMがブランドマークプログラムを導入するそうだ。同社のテクノロジー製品が搭載されたコンシューマ向け電子機器が対象で,その栄えある第一弾は,任天堂が9月14日に発売を予定しているGAMECUBEになるという。ご存じの通り,このゲームコンソールには,IBMのカスタムデザインによるPowerPCプロセッサが搭載されている。

 「IBM Technology」というそのブランドマークは,GAMECUBEの外箱に印刷され,購入したユーザーは,必ずそのマークを目にすることになる。今後,このマークは同社のテクノロジー製品や特許を採用しているPDAや携帯電話,セットトップボックス,デジタルカメラ,ゲーム機器などに,広く登場するはずだ。


IBM Technologyのブランドマーク

 IBMの戦略は,Intel Insideロゴでお馴染みの,インテルが打ち出したマーケティング戦略によく似ている。Intel Insideロゴは,今年の春に10周年を迎え,パーツのひとつに過ぎなかったプロセッサのメーカー名を,誰でも知っているブランドとして認知させることに成功している。

 IBMブランドを知らないユーザーは,この記事の読者にはいないと思う。だが,GAMECUBEの購入者は,それほど強烈なブランドイメージを持っていない可能性もある。そういう意味では,未来のお客さんをIBMブランドに誘導するためにも,これは意味のある戦略だといえる。

 皮肉というか,偶然というか,Intel Insideロゴの入った初めての広告は,IBMが1991年4月に,ウォール・ストリート・ジャーナル紙に掲載したものだったらしい。その後,テレビやラジオでも頻繁に目にするようになり,今では,5秒に一回は,世界中のどこかで,Intel Insideのあのサウンドロゴメロディを聴くことができるという。

 このIntel Inside,日本語では「インテル,入ってる」になっている。どなたの仕事なのかは寡聞にして知らないし,インテル社内にも,すでに記録が残っていないそうなのだが,天才的なコピーだと思う。

 意外な話をすると,Intel Insideのロゴプログラム,実は,日本のインテル,すなわち,現在のインテル株式会社が生みの親なのだ。憶えておられる方も多いと思うが,インテルジャパンはかつて,「Intel in It」というキャッチフレーズを使っていた。その際,「インテル,入ってる」というコピーも同時に使われていたのだ。1989年の話である。Intel Insideに先行すること2年,平成の幕開けの年のことだ。

 日本で初めて,すなわち,世界で初めてこのコピーが使われた広告は,東芝の「DynaBook J-3100 SS001」のものだった。「みんなこれを目指してきた!」という,F1レーサーの鈴木亜久里が出ていた広告と言えば,ああ,あれかと思われる方も少なくないだろう。この広告に目をつけたインテルコーポレーションが,コピーにリファインを加え,現在の「Intel inside」ができたというのが,経緯なのだ。

 それはさておき,GAMECUBEにIBMのロゴがつくのなら,Xboxにも,Intel Insideのロゴがつくんだろうか。XboxのエンジンはPentiumIIIだけれど,インテルは今,Pentium4の普及に懸命だ。となると,どうなのだろうか。Xboxに関しては特にアピールすることはしないという話を以前聞いたのだが,今回,これもインテルに問い合わせてみたところ,マイクロソフト次第だというコメントが戻ってきた。

 ちなみに,インテルのロゴプログラムは,それを採用したメーカーに,はっきりとしたメリットが生じようになっている。たとえば,一度サウンドロゴを使えば×円,箱にロゴが印刷されれば×円と,インテルからメーカーにファンドとして支払われるといった具合。かなり明確なものなのだ。

 一方,今回のIBMのブランドマークの場合は,あくまでも,OEM先に対してお願いするというのが原則。すなわち,IBMのテクノロジーを使っていることを「誇示」することで,OEM先がメリットを得られるという判断から,双方が合意した上で,このマークが使われることになる。そこには,お金のやりとりは一切ないというから,このあたりはインテルのプログラムと大きく性格を異にする。

 空前のIT不況が叫ばれる中で,PCの売れ行き不振は,想像以上に深刻だ。そんな世の中だからこそ,IT出身といってもよい,これらのロゴマークが,いろいろなコンシューマ機器に進出するのだろうか。

 この連載も,今回で,100回目を迎えることができた。タイトルは,ぼく自身が考えたものだが,そこからかけ離れた話題も多かった。それでもこれまで続けられてきたのは,愛読してくださった読者の方々のおかげだ。この場を借りて感謝したい。今後とも,叱咤激励をいただければと思う。

[山田祥平, ITmedia]

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.