News 2001年8月27日 11:58 PM 更新

MITの講義を無償で提供――宮川繁教授がWeb上でストリーミング配信

マサチューセッツ工科大学(MIT)の宮川繁教授は,録画した講義をWeb上でストリーミング配信する実験を開始した。ブロードバンド時代のメディアや教育の在り方を探る今回の実験は,無償で提供される点と,Web上で受講するためのサポート機能が特徴だ。

 マサチューセッツ工科大学(MIT)の宮川繁教授は8月27日,録画した講義をWeb上でストリーミング配信する実験を同日より開始すると発表した。Web講義は,宮川教授のホームページ上で無料で受講することができる。


MITの講義をWeb上でストリーミング配信する実験を行う宮川教授

 宮川教授は,理論言語学やニューメディアに関する研究の国際的な権威。今回無料配信するコンテンツは,同教授がMITで今年9月から開始する新しい講義「メディアの活用と教育およびその市場(Media,Education,and the Market Place)」の要旨を,前もって10〜20分にまとめたもの。また,3Com創始者のDr.Robert Metcalfe氏をはじめ,クリントン政権時代の大統領顧問やMITディレクターなど著名なゲストスピーカーを招いて講義を収録し,宮川教授のコンテンツと同様にダイジェスト版を作って配信する。

 MITは今年4月に「オープンコースウェア構想(Open Course Ware,OCW)」を発表している。OCWとは,MITの講義資料をインターネット上で無料公開するプロジェクトで,2002年秋よりスタートする予定だ。MITは今後10年間で,全教育課程におよぶ約2000科目の資料を公開していくと発表している。宮川教授によると,今回の試みは「OCWの一部ではないものの,OCWにふさわしいアイデアを盛り込んでいる」という。無料でWebサイトで配信していく今回の試みは,基本理念としてはOCWと同じで,その意味でOCWに先行する実験といえる。

 Webサイトの構築は,富士ゼロックスの技術協力によって実現した。同社は,ビデオ配信サーバなどプラットフォームと支援技術を無償で提供している。米国と日本にそれぞれ映像配信用サーバを立てて,アクセスポイントを設置。「ストリーミング映像の受信は,56Kbps程度で十分可能」(富士ゼロックス)だという。


アクセスポイントは米国と日本に設置している

 富士ゼロックスが構築したWebサイトには,「映像スライス表示(Slider)」「映像サマリー表示(Manga Display)」「音声テキスト検索(Voice Search)」という3つの新システムが盛り込まれており,さまざまな機能によってWeb上からの受講をサポートしている。

 まず映像スライス表示は,Sliderによって見たい場所から講義の再生が行える。各ゲストスピーカーごとに略歴を添付してあり,講義に関する参考文献がリンクされているのも特徴だ。


見たい場所から再生が行える映像スライス表示

 また,講義の詳細を確認したい時に役立つ機能が,映像サマリー表示だ。別名「Manga Display」と呼ばれるこのシステムは,まさにマンガのコマ割りが行われるがごとく,講義を自動的に分割していく。講義の内容が,マンガの1ページを見ているかのように一覧できるというわけだ。


マンガの1ページを見るような一覧性が特徴の映像サマリー表示

 講義内容は,キーワードによる検索も行える。この音声テキスト検索(Voice Search)機能は,例えば「Technology」と入力すると,Technologyという言葉を話している可能性がありそうな場所を検索して列記してくれる。音声認識エンジンはMediaDrive製の英語版を使用している。

 宮川教授が無償提供する講義は「高速ネットワークが普及するブロードバンド時代には,どのような社会が出来上がるか」という内容で,今後我々が直面する問題を考えていこうというもの。ブロードバンドが普及した時の3つの観点「メディアの存在」「教育(学校にに限らず,広義での教育)」「ビジネスチャンス」について,講義を展開するという。

 全てが無償で行われる今回の取り組みだが,宮川教授はこのような実験を通じて,日本のユーザーから何を得ようとしているのか。

 「日本とアメリカを選んだのは,ブロードバンド普及する上で日米が技術的な面での実験に最も適していると考えたから。高速通信が普及したときの教育のあり方を,これからのブロードバンド社会を担う小中高校の若い人から意見を聞きたい。今まで私はアメリカの若い人から意見を聞いてきた。今回の実験を通じてこれから日本の若者と意見交換をしていきたい」(宮川教授)。

関連リンク
▼ MIT内の宮川教授のWebサイト

[西坂真人, ITmedia]

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