News 2001年8月31日 11:55 PM 更新

IDF Fall 2001を振り返って――原点に立ち返ったIntel

徒なスピード競争の終焉を宣言し,Intelはどうするのか。開発者向け会議「IDF Fall 2001」で得られたその答えは,「原点回帰」だった。人々が望むものを作れば,会社も事業も低迷から回復させることができる。同社は,そう信じたのだ。

 「I believe business will come back when we get some product that people want to buy(私は信じている。人々が欲しがるものを作ることができれば,事業は復調すると。)」

 世界中から4000人以上を集めた「Intel Developer Forum Fall 2001」の席上,Intelの関係者は,頻繁にこの言葉を引用した。これは米国の発明家Charles Kettering氏が,1929年から続く世界大恐慌にあえでいた1933年に残した言葉だ。Kettering氏は「成功の99%は,過去の失敗の上に築かれる」「失敗するはずがないと信じて行動せよ」など,数々の名言を残した人物でもある。

 Intelは今年春のIDF以降,世界的な景気減速の中で,いかにして前進するかをテーマに開発者に語りかけてきた。春のIDFでは「景気が後退する今こそ,次の景気回復の波に乗るために投資を行うべきだ」と,開発者に促していた。

 振り返ると,ここ数年のIntelは,マスマーケティングに偏った戦略を採り続けてきたように思う。たとえば昨年9月に掲載した「トップベンダーとしての自負とは?──米Intel副社長兼ディレクター,Anand Chandrasekher氏インタビュー」で,Intel副社長のChandrasekher氏は,ノートPC用プロセッサに対するデマンドは,あくまでもクロック周波数の上昇にある,と発言している。

 しかし,改めて述べるまでもないように,モバイル市場にはさまざまな利用形態がある。技術進化の方向がひとつだけでは,そのすべての領域をカバーできない。プロセッサに当てはめると,クロック周波数の上昇は,エンドユーザーが体験する他の要素(サイズ,重さ,発熱,バッテリ持続時間など)の犠牲を伴う。

 市場が異なれば,そして,同じ市場でもユーザーの利用形態が異なれば,求められる製品が違ってくる。それは当然のことだ。以前のIntelは,こうした利用形態ごとに特化したマーケティング展開を行うのが得意な会社だった。それが,最近ではライバルとの競争や市場拡大の中で見えなくなりつつあった。今回のIDFではそれが本来の姿に戻ったとも言える。

 たとえば前述したモバイル向けプロセッサの場合,以前は消費電力の上限を決め,新しいプロセッサがそれ以下になるまでは,モバイル向けプロセッサとしては販売しなかった。ノートPC全体としての価値を高めるため,そうした施策が必要だったからだ。

 もちろん,プロセッサの速度が現在より速くなる必要がない,というわけではない。サーバ市場にはItaniumやFoster,デスクトップ市場にはPentium 4,ノートPC市場にはモバイルPentium 4とBaniasといったように,市場ごと,また同一市場でも異なり利用形態に向けては,異なる製品を提供していくという意味である。

 さまざまなニッチが存在する中で,すべてのニッチに対して同じプロセッサで対応するこれまでのやり方は,効率の面ではいいかもしれない。また,マスマーケティングでは,ひとつの利用形態だけがビジネスとして有望という結果になるのかもしれない。

 しかし,PCの売り上げペースを取り戻すためには,エンドユーザーが本当に欲しいと思う製品を提供する必要がある。本当に欲しい製品とは,それぞれのユーザーのニーズに即した製品であり,そのためにはプロセッサも多様でなければならない。

 IntelはPC業界を牽引できる数少ないリーダーであることに疑いはない。そのIntelが,自らの原点に立つというのであれば,それは業界として歓迎すべきことだろう。戦略の転換を素早く行ったIntelだが,それが実製品に反映されるまでには時間がかかる。2003年,あるいは2004年を見据えて,長期的にその成果に注目してみたい。

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[本田雅一, ITmedia]

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