News 2001年9月7日 11:59 PM 更新

IntelとAppleの「よい知らせ」

ほんの少し前なら,投資家たちはこんなニュースには酷く失望しただろう。一方は,「そんなに悪くはない」という知らせ,そしてもう一方は「便りがないのはよい知らせ」というものだった。

 ほんの1年ほど前だったら,決算が「予想を上回りそうにない」というだけで,株価は暴落したものだった。だが,それも昔の話。次にどんなに酷いニュースを聞かされるのか,ビクビクしている投資家たちにとっては,今ではどんなことでも慰めになる。

それほど悪くなかったIntel

 米国6日の市場終了後,Intel(Nasdaq:INTC)のCFO(最高財務責任者),Andy D. Bryant氏が今四半期(7-9月)の業績見通しを発表した。内容は,煎じ詰めて言えば,“若干悪そう,だが予想の範囲内”だった。

 同社の第3四半期売上高の従来予測は62億ドル〜68億ドル,というもの。Bryant氏はこの点について「中間値を若干下回りそう」と答えた。前年同四半期は63億3000万ドルだったので,この最新の見通しが正しければ,ほぼ前年横ばい,ないし若干の増収となる。

 この数字をどうみるべきか――。同社をフォローしているアナリストたちの予測数字を,Thomson Financial/FirstCallが取りまとめている(これはウォール街の実質的な公式予測として機能する)が,そのコンセンサス値は64億1000万ドル。とすれば,予想とほぼ同水準,あるいはほんのわずか上乗せできるレベルだ。一昔前なら「平凡」の一言で片付けられていただろう。

 だが,市場はそう見なかった。実はウォール街では,同社の見通し発表を今週のビッグイベントと見ており,そこでどんな酷い数字が発表されるのか,戦々恐々としていたのだ。もし同社の売り上げが酷い数字なら,同社のCPUを使うPCメーカーの業績も悪いし,同社に製品を納める半導体製造装置メーカーの今後にも期待が持てない。もしそんなことになったら,米株式市場の「底割れ」は必至――だったのだ。

 投資家たちはすでに心の準備を進めており,6日の通常取引では,Intel株は5%近くも下げた。これはバッドニュースの前に売ってしまえ,という投資家心理の表れだ。アナリストたちも,6日朝の段階では,予測の下限程度までには,売上見通しを修正するだろうとコメントしていた。

 そうした心理からすると,Intelのこの数字は十分に安心すべきものだった。「7月と8月の業績には満足している。日本での需要減が唯一の驚きだった」というBryant氏の言葉は,今の投資家には,神の福音にも等しかったに違いない。同社の株価は6日のアフターマーケット取引でわずかながら上昇し,7日のプレマーケットでもその流れを維持している。経済統計などで悪材料が出ていることを考えれば,健闘と呼ぶに値する展開だ。

 もっとも安心するのはまだ早い。というのも,同社の7-9月の四半期の売り上げは,PCメーカーでクリスマス商戦向けの製造が本格化する9月中旬以降に集中しているからだ。無論ある程度の傾向はつかんだ上での6日の発表だが,Bryant氏も「リスクはまだある」とアナリスト向けの電話会見で述べている。でも,今の投資家には,そんな話は聞こえない,聞きたくない……。

便りのなかったApple

 一方,AppleのCFO,Fred Anderson氏は,投資銀行 Salomon Smith Barneyが主催したテクノロジー・カンファレンスに出席,そこで業績見通しについて,新たな情報を“提供しなかった”。

 「もし我々からなにもニュースがなければ,それは明らかによいニュースだ」(Anderson氏)。

 まあ,確かにそうだろう。同社は,リテイル部門が今年度第4四半期には損益トントンにまで回復し,2002年度には若干ながら黒字転換するという見通しをすでに発表している。先般公表されたセールス部門の人員削減(同社は全体では人員増と述べている)を含め,投資家は,この見通しがいつ下方修正されるかと,ヒヤヒヤしていた。

 そして,Salomonのカンファレンスでは,下方修正の“匂い”を嗅がされるのではないかとの懸念が根強かった。それが,Anderson氏は明確なコメントこそ拒否したものの,“現状維持”のニュアンスは十分感じ取れたのだ。その上,リテイル拡販や技術開発,自社株買いのために手持ち資金を投じたり,直営店の店舗展開でも積極策を講じていくことを示唆したりしている。店舗や現地法人を閉める話,事業計画の見直しばかり聞かされている投資家からすれば,これは信じられないほど“良いニュース”である。

 翌7日の午前中の段階では,市場はさほど大きな反応はせず,前日の引け値から,ごくごくわずかに値を戻している程度。しかし,それでも今の市場環境で見れば,CFOの会見の後で値を下げないのは悪くない話だ。

ぬか喜びのMicrosoft

 最後に,投資家をぬか喜びさせた会社の話をしよう。それはMicrosoft(Nasdaq:MSFT)だ。

 同社CFOのJohn Conners氏は,ボストンで5日に開催されたSG Cowen主催のカンファレンスに出席,同社の2002年度(2001年7月-2002年6月)の見通しは,7月のアナリストミーティング開催時から変わっていないと語った。これは売上高が288億〜296億ドル,1株当たり利益が1.91〜1.95ドルになるというものだ。

 ポイントは,これが単に「変わっていない=新しい見通しはまだない」ということなのか,それとも「この見通しを再確認(confirm)したのか=実質的に見通しの更新になる」ということなのかだ。今の業界事情からすれば,後者であれば“かなり良いニュース”だ。

 そして投資家たちはそう受け取った。かくして5日のMicrosoft株は相場全体の流れに逆らって,終値ベースで1.64ドル高の57.74ドルと,3%ほども上昇した。

 しかし,その翌日,AppleのCFOが出席したのと同じカンファレンスに出席したConners氏は,つれなかった。見通しを再確認したのか,という問いに対する同氏の答えは「ノー!」だったのだ。6日の株価は一転,1.72ドル安の56.02ドルまで下げた(7日は司法省が分割要求を取り下げたことで,わずかながら上昇している)。

 かくしてMicrosoftの株主は,再び宙ぶらりんな状態に置かれている。彼らは当面,同社からどんな見通しが示されるのか,ヒヤヒヤしながら過ごさなくてはならない。

 さて,そこで質問――。Microsoftの株主と,Motorola(Nyse:MOT)の株主はどちらが幸せだろうか。ちなみにMotorolaは6日,これまで前四半期に比べて5%の増収になると見ていた第3四半期の売り上げが,横ばいに終わりそうであること,そして,損失が1株あたり5-8セントの間になりそうであること(ウォール街では5セントと見ていた)を発表した。

 悪いニュースがあると怖れていたMOT株の株主は,それが現実になってしまったのだ。6日の市場で株価は2ドル強の急落,13ドル台まで落ち込んだ。同社はついでに2000人規模のレイオフも発表している。

 だが,こんなニュースでも,MOT株の株主たちは,悪いニュースの「程度」がわかったことで,少しは心の平安を得たようだ。7日の午前中の取引では,ほんのわずかとはいえ,14ドル前後まで値を戻している。「悪いニュースが出てしまったこと」さえも「良いニュース」(いわゆる“悪材料の出尽くし”だ)。それが今の現実なのである。

[中川純一, ITmedia]

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