News 2001年9月14日 10:39 PM 更新

ネットの即時性が生かされなかった米国テロ報道

 本当にたいへんなことが起こってしまった。言うまでもない。米国の同時テロの話だ。犠牲になった方々とその遺族の方々に対して,心からお悔やみを申し上げたい。

 ぼくらは,事件の詳細をいろんなメディアを通じて知り得ているわけだが,やっぱりこういうときには,テレビが一番頼りになるんだなと痛感した。

 事件の翌日,駅の売店で夕刊3誌をまとめて買ったら,おばちゃんが「今日は,新聞がよく売れるのよ」と言っていた。事件が起こったのが,日本時間の22時前後なので,朝刊には,情報が錯そうしていた時点でのニュースしか間に合わない。ある程度整理された情報を手に入れられる最初のメディアは翌日の夕刊だったと思う。

 締め切りに左右される新聞メディアに対して,インターネットはどうだっただろうか。多くのニュースサイトは極めて重く,更新の頻度もさほどではなかった。これでは,映像付きのニュース配信などまだまだ先の話だなという印象だ。

 もちろん,インターネットは,今回の事件でも大活躍したらしい。固定電話や携帯電話のトラフィックが集中し,自由に通信ができず,外部との連絡や,正しいニュースが入手しにくいマンハッタンにおいては,電子メールやインスタントメッセージがずいぶん重宝されたようだ。米国内を横断するバックボーンにも影響は無かったようなので,インターネットはきちんと機能していたわけだ。

 もっとも,犯行の連絡のために,インターネットが使われていたなんて報道を聞くと,ちょっと憂鬱な気分になってしまう。もともとは,軍事目的のために研究されていた色が強いインターネットだけに皮肉な話ではあると思う。

 しかし,何といっても,今回は,テレビというメディアの強力さを思い知らされた。間違っている情報,デマ,噂,その訂正,正しい情報,すべてひっくるめて,リアルタイムの映像付きで放送できた。あの日は徹夜でテレビを見ていた方も少なくないと思う。

 オリンピックなどは,同時並行的に複数の会場で複数の種目が競われる。これをテレビというメディアで報道する場合は,どうしても漏れができてしまう。だから,リアルタイムのオンデマンドで,自分の興味を持つ競技の経過や結果を知ることのできるインターネット上のニュースサイトや,オリンピックの公式サイトは,実に便利だった。

 しかも,トラフィックに関する動向があらかじめ予想できるので,アクセスの多いサーバの負荷分散を行う“ラウンドロビン”といった仕掛けも作りやすい。同じIPアドレスを呼ばれても,世界中に分散するIXごとに別のサーバに対してルーティングさせ,あたかもひとつのサーバが答えているように見せかけるというこのシステムなど,今のDNSの仕組みでうまく動いてくれるかどうか分からなかったにもかかわらず,いわば博打的な思い切りで運用され,それが成功している。

 今回の事件のように,一カ所で何かが起こっているということを,広い範囲に知らせるためには,一台のWebサーバにトラフィックが集中するような仕組みではうまくいかない。一般のユーザーが見たいものは,たったひとつ。あの2つのビルが,今,どのような状態にあるのかということだけだからだ。

 マルチキャストがあるじゃないかというような意見もあるだろう。でも,突発的な事件に,こうした手だてをとることができるかどうかというと,それは難しい。予定されていたイベントではないのだ。

 インターネットが提供できる「即時性」とは,どういうことなのか。今回の事件を経験したインターネットメディアは,そのあたりを,再考して欲しいと思う。生活を豊かにするメディアとして,今のインターネットが,ワンランク上に到達するためには,避けては通れない課題だと思う。

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[山田祥平, ITmedia]

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