News 2001年12月31日 02:53 AM 更新

次世代光記録デバイスは「2003年」に間に合うか

脚光を浴びる記録型DVD。だが,その普及もままならぬうちに速くもポストDVDの座を巡る次世代光記録デバイスの開発が急ピッチで進んでいる。どうやら2003年の地上波デジタル放送の開始にあわせ製品化したいというのが各社の目論みのようだ。

 ポストDVDを狙う次世代光記録デバイスは,今年に入り各社から技術発表や試作機のお披露目が相次ぎ,その仕様が見えてきた。基本的な仕様は各社ともほぼ同じだ。

 記録用のメディアは,大きさがCDやDVDと同じ120mm,保護層の厚みが0.1mmというもの。光源には,波長「405nm」前後の「青紫色レーザ」を採用する。

 既存のDVD規格と比較してレーザの波長を短くすることで約2.6倍,レンズの開口数(NA)を0.6から「0.85」とすることで約2倍,合計約5.3倍,23GB以上の記録容量を実現というものだ。転送スピードは,DVD規格の約3倍にあたる「35Mbps」前後を実現したものがほとんどである。

 次世代光記録デバイスの規格は,現在のところ,ソニーが中心となって提案している「DVR-Blue」,松下電器産業が中心となって提案している「HD-DVD(仮称)」の2つの規格がある。もちろん,これらの規格は,研究開発レベルなので,最終的な仕様に沿った製品というわけではない。

 現在でも,各社から様々なものが発表され,松下電器産業からは,多層記録を利用し,50GBの記録容量を実現する試作機がすでに発表されている。転送スピードに関しても,TDKやリコー,三菱化学などから,100Mbpsオーバーのスピードの達成が報告されている。

デジタル放送時代の記録メディアを目指す

 次世代光記録デバイスの使用用途は,いずれもデジタル放送時代の映像記録メディアにある。この条件を満たすため,発表された試作機は,多くが記録層に相変化材料を採用した書き換えメディアが使用され,記録容量や転送レートは,すべてBSデジタルや地上波デジタル放送を2時間以上録画できるだけスペックを実現している。

 つまり,23GB以上の記録容量とは,デジタル放送で採用されている24Mbpsの転送レートで2時間以上録画するために最低限必要な容量であり,35Mbpsという転送レートは,録画/再生時のマージンを考慮し,最低限このぐらい必要だろうといった点から導かれたものである。

 もちろん,これだけのスペックを実現することから,次世代光記録デバイスは,映像記録メディア以外にもPC用のデータ記録メディアとしての使用も想定されていることは間違いない。

 また,次世代光記録デバイスを現実に使用するためには,変調方式やエラー訂正方式にどういったものを採用するか,論理的な仕様(アプリケーションフォーマットなど)をどうするかなどの細部を決める必要がある。

 この点についてDVD規格策定のリーダー的存在であった松下電器産業では,「もちろん,業界で統一を図り,オープンな規格にしたい」とする。DVD規格では,規格の統一がなされたかのように見えたが,現実には,DVDフォーラムとDVD+RWアライアンスとが対立するという状態である。

 規格が複数乱立してしまうと市場が混乱し,その普及に大きな影を落としかねない。幸いなことに,DVR-BlueとHD-DVDは,現在の試作機を見る限り,物理的な仕様は大変近いものとなっている。両者が,歩み寄る余地は十分あると考えることができるだろう。

 さらに,同社では,「次世代光記録デバイスでも,できればDVD規格を応用する形で規格化を行いたい」とし,「映像のリアルタイム録画用の規格と再生専用の規格で互換性を持たせるなどの配慮も行いたい」とする。

 確かに,DVD規格を応用すれば,開発にかかるコストも一から規格化を行うよりも安価にすむ。加えて,短時間で規格化が行えるというメリットもある。

 また,DVD規格では,再生専用のアプリケーションフォーマット,DVD-Videoとリアルタイム録画用のアプリケーションフォーマット,DVD-Video Recording Formatで再生互換性がないという問題点ができてしまった。次世代光記録デバイスでは,この経験を生かし,よりユーザにとって便利でかつ解りやすい規格を策定したいということだ。

 また,同社では,DVD-Videoが普及してきていることもあり,次世代光記録デバイスを採用した製品では,「DVD-Videoの再生機能もサポートした製品として発売したい」とし,加えて,「価格も現在のDVDレコーダ程度のもので発売したい」ともいう。

 これは,メーカーとして,再生専用のDVDプレーヤが音楽CDの再生をサポートした製品が主流だったように,次世代光記録デバイスでも,DVDの再生サポートはほぼ必須の条件と考えているということでもある。価格についても,あまりに高すぎる価格では,普及に時間がかかりすぎるということである。

目標は,2003年の製品化だが,問題点も多い

 次世代光記録デバイスの製品化は,現在のところ地上波デジタル放送が開始される「2003年」を目標に開発が進められている。これは,既存の記録型DVDでは,記録容量が少なく,デジタル放送の録画を行うことは事実上役不足だからである。もちろん,次世代光記録デバイスを採用したレコーダを,デジタル放送のキラーアプリケーションにしたいという思惑も,当然あるはずだ。

 しかし,青紫色レーザーを使用する次世代光記録デバイスの開発は,次の問題点が指摘されており,実際にその目標が達成できるかは微妙なところだ。

 もっとも大きな問題は,波長405nm前後の青紫色レーザの開発が遅れていることである。SONYなどが試作機に採用していた純粋な405nm前後の青紫色レーザは,まだ寿命が短く,実際の製品レベルで使用できる状態にはないといわれている。

 ある技術者の話では,常温で発振させた場合,「100時間程度」しかもたないという。加えて,現状のサンプル価格も高すぎる。

 松下電気産業が開発したSHG(second harmonic generation)方式の青紫色レーザは,波長820nmのレーザーを使用して「410nm」の波長を作り出すというものだが,SHBの回路を必要するため,高出力レーザの開発が難しい,将来的な小型化が純粋な青紫色レーザよりも難しいのではないかという問題点が指摘されている。

 SHGレーザは,レーザの寿命という点については問題ないといわれており,日亜化学のもつ特許に抵触していないため,製品化が行いやすいというメリットがある。現状では,純粋な405nm前後の青紫レーザよりも実際の製品化については,障害が少ないのではないか,とする技術者もいる。しかし,SHG方式の青紫色レーザも,前述の問題点があるため,量産化にはまだ時間がかかる。

 松下電器産業では,小型化については,「SHG回路の分,確かに多少大きくなるが,それほど大きな問題ではない」とし,価格についても,「純粋な青紫色レーザでは,ノイズ対策用の回路設計が難しく,全体的なコストでは,それほど変わらないのではないか」と話す。だが,高出力化については,課題も多いようだ。

 具体的な仕様が見えてきた次世代光記録デバイスだが,物理フォーマットや論理フォーマット(アプリケーションフォーマット)の規格化,レーザの開発などまだまだ,クリアしなければならない課題が多い。

 2003年に製品化を行うためには,遅くとも来年には統一規格の策定にむけ具体的に動き出す必要があるが,それ以上に,レーザの開発が間に合うかどうかが鍵となる可能性が高い。

[北川達也, ITmedia]

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