News 2002年2月26日 00:58 AM 更新

「ネットワークバイオ」とはいったい何か

「ブロードバンド時代の新しいバイオの形」──ソニースタイルドットコムは「ネットワークバイオ」をそうアピールする。だが,ダウンロード販売やWebメール機能といった搭載機能だけを見ると,格別新しいとも思えない。なにが「新しい」のだろうか?

 ソニースタイルドットコム・ジャパン(SSCJ)が2月27日より,デスクトップPC「ネットワークバイオ」を発売する。

 同社が販売する省スペース型PC「バイオJX」(PCV-JX10GN)をベースにしたモデルで,ネットワークサービス用の専用アプリケーションを搭載している。ユーザーは,アプリケーションのダウンロード販売や,Webメールを利用することが可能である──。

 こうした仕様だけを見てみると,「ネットワークバイオ」という名称は少々,大げさのようにも思える。「Hotnetorkサービス」と呼ばれるネットワークバイオ専用のサービスが用意されるものの,ハードウェア自体はバイオJXだからだ。例えて言うなら,テレビ番組録画ソフト「GigaPocket」を搭載したバイオを,「テレビバイオ」と呼ぶようなものである。

 もっとも,SSCJはPC業界に広く普及した「ブロードバンド対応」(多くの場合,NICを標準装備しているに過ぎない)という言葉の火付け役でもある(2001年3月7日の記事参照)。マーケティング戦略の巧みさにかけては他の追随を許さない。今回の製品にしても,「バイオJX ネットワークエディション」などと呼ぶよりは,「ネットワークバイオ」としたほうが,ユーザーへのインパクトが強いことは間違いない。

 では,「ネットワークバイオ」というネーミングは,マーケティング戦略に過ぎないのだろうか。

 それは違う。単なる営業上の都合と見るのは,あまりに皮相な見方だ。「ネットワークバイオ」という名称の真の意味を解く鍵は,SSCJの佐藤一雅社長が,これを「成長する製品」と表現したことにある。

 実は,ソフトウェアのダウンロード販売や,Webメール機能といったサービスを含むHotnetworkサービスは,「ユビキタス・バリュー・ネットワーク」の実現に向けた「最初の一歩」なのである。

ユビキタス・バリュー・ネットワーク

 ユビキタス・バリュー・ネットワークという言葉を覚えているだろうか? これは,ソニーの安藤国威社長が昨年のCOMDEX/Fallで披露した新コンセプトで,あらゆる情報機器がネットワーク化するユビキタスネットワークの上に,今までにない楽しみやサービス,そしてビジネスモデル(つまり付加価値)を乗せてしまおうというものだ(2001年11月13日の記事参照)。

 ネットワークバイオの発表会には当の安藤社長も姿を現し,「ネットワークバイオは,ユビキタス・バリュー・ネットワークの1つの答え。このコンセプトは,全世界のソニーが動いている最も重要なプロジェクト。ソニーの浮沈がかかっていると言っても過言ではない」とSSCJを強力にアシストした。

 ユビキタス・バリュー・ネットワークの観点からすると,Hotnetworkサービスの中でそれに該当するのは,「LinkGarage」(ベータ版)というソフトウェアである。グローバルIPアドレスを持つPCであれば,同ソフトのWebメール機能を使ってiモードへの通知機能などを利用することができる。

 当初はWebメール機能だけであるが,佐藤社長は「今後,AV関連の機能を追加していく」予定だという。GigaPocketと連携した機能を示唆する担当者もいた。正式版のリリース時期は未定だが,Hotnetworkサービスの中核となるのは間違いないだろう。

 また,ダウンロード販売についても,ソフトウェアベンダーから賛同の声明が寄せられている。「ブロードバンドの新たな活用を体現させてくれることを期待」(アドビ システムズ),「セキュリティ製品群を取りそろえ,新しいネットワークバイオを使ったライフスタイルを応援します」(シマンテック),「私たちはこれを待っていました」(ジョルダン)といった具合だ。

「ネットワークバイオ」は何を指すか?

 このほか,ISPや回線事業者もネットワークバイオへの協力姿勢を示すなど,業界をあげてネットワークバイオを盛り上げているようである。

 だが,ここで疑問がわく。各方面がそれだけ大きな期待を寄せているのに,なぜ,バイオJXにHotnetworkサービスを組み合わせて,「ネットワークバイオ」などとチマチマやるのだろうか? バイオユーザー全体に向けてHotnetworkサービスを提供する仕組みを作ったほうが,ユーザーだけでなく,賛同するソフトウェアベンダーやISPにとってもメリットが大きいはずだ。

 だが,これには,そうもできない事情があるようだ。ソニーのある担当者は,「ゆくゆくはそうしたい」としながらも,「現状では,ユーザー管理の問題などがあり,一気に大勢の利用者が流れ込んで来たときに対応できない。ネットワークバイオでは,その辺りのノウハウを蓄積したい」と話す。

 「ネットワークバイオは,新しい試みであり,必ず成功するという確証はないかもしれない。だが,ユビキタス・バリュー・ネットワークのコンセプトは,5年後,10年後に大きな成果となって現れるはずだ」(同担当者)。

 ネットワークバイオという名称には,大きな狙いが秘められている。だが,それがバイオJXに縛られている限り,同社の目指す「革命」を起こすことができないのも,また事実だ。この名称が,特定のハードの頚木を逃れ,もっと大きなカテゴリーを示すために使われたとき,はじめてその可能性が生まれるだろう。

関連リンク
▼ ソニースタイルドットコム・ジャパン
▼ ソニー製品インデックス

関連記事
▼ “新しいビジネスモデル”――ソニーが「ネットワークバイオ」発表
▼ 「ユビキタス バリュー ネットワーク」と「FEEL」――ソニー・安藤氏が描いた未来図

[中村琢磨, ITmedia]

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.