News 2002年3月4日 01:45 PM 更新

コピーコントロール機能付きCD――問題点は何か?(2)

 というのも,音楽CDは,もともとCDSのようなコピーコントロール技術を施すことを考慮して設計されたわけではないからだ。それを規格から外れたものを設計することで,ある意味強引に導入しようとするのが,CDSなどのコピーコントロール技術である。

 このため,専門家によると「音楽CDのような技術は,もともとを技術的保護手段を講じるといってもそれほど多くの手段がない。しかも,基本的には,(過去に出たものを含めて)すべての音楽CDプレーヤーで再生できるように設計する必要もあるという制限もつく。これを考えるとどうしても強力なプロテクトを施すことができない。技術的保護手段を施したとしても,簡単にクリアされてしまうだろう」というのである。

 CDSというコピーコントロール技術は,現在のところCDS100,CDS200という2種類がすでに発表されており,第1四半期中には,新たなCDS300という技術がリリースされる予定になっている。

 エイベックスが採用すると予想されているのは,このうちCDS200の最新バージョンCDS200.0.4かCDS300のいずれかである。CDS200.0.4または,CDS300のどちらかを採用して作成されたコピーコントロール付きCDは,すでに海外で採用されており国内でも入手可能できる。

 実際に筆者もCDS200.0.4または,CDS300のいずれかを採用したとみられるCDを購入し,テストを行ってみたが,一部のCD-ROM/DVD-ROMドライブを使用することで,リッピングを行うことができてしまうことを確認している。

 それも,多少再生時間が狂っていてもよければ,特別なライティングソフトではなく,一般的なソフトでもリッピングを行えてしまう。本来,パソコンでのリッピング行為を禁止するために設計されたものであるにもかかわらずである(参考までに言えば,テスト結果は,完全にコピーできるものから,一部のデータが抜け落ちてしまうもの,事実上ハングしてしまうもの,そしてまったくできないものまで様々であった)。

 このため,筆者がテストしたものと同じ技術を採用したコピーコントロール付きCDをエイベックス社が販売してしまうと,パソコン用のCD-R/RWドライブメーカーやソフトメーカーは,「違法行為」が行えるものを販売している可能性があるということになってしまう。

 確かに,現行法では,それがドライブやソフトの欠陥であることを知らずにたまたま使ったらできてしまったのというのなら,問題にはならない。しかし,結果として技術的保護手段を回避することができると“知った”上で,上記のようなソフトやドライブを使い複製を続けると,それは著作権法違反ということになる。

 もちろん,それは,ドライブを設計・製造しているメーカーや,パソコン用のCD-R/RWドライブで使用するライティングソフトを開発・販売しているメーカーも同様だ。特にパソコンを使用する場合は,ソフトウェアを使用しない限り,リッピングや書き込みを行うことができないため,ドライブとソフトはセットで考えられる可能性が高い。

 この件について,ソニーでは,「CD-DA規格に準拠したハードを製造しており,それ以外の仕様については機能を保証できない。」とした上で,「技術的保護手段の回避という考えについては,歴史的な流れから,再生機がこれを回避する意図をもって製造されていないことは明らかであり,CD-DA規格が策定された後に登場した技術に関して,再生などがたまたまできてしまうことはあり得る」という。

 また,あるソフトメーカーでは「あくまでレッドブック(CD-DA規格)に準拠したものを作成することを前提として開発を行ったものであり,これを回避するという目的で開発を行っているわけではない」とした上で,「ソフトとしては,CD-R/RWドライブに対して,コマンド(命令)を送り,結果として,オーディオトラックのデータが送られてきてしまう。そもそも,どういった情報がくれば,それが技術的保護手段が施されたものと判断できるのか,わからないし,(現時点で)その情報も公開されていない。従って,現状では,対応できるかどうかも含めてまったくわからない」と言う。

 言い換えると,ソフト側としては,例えば,コピーコントロールが施されたCDだという情報を読み取るすべを教えてくれ,そうしない限りなにもできないし,何もわからないというわけである。

 ドライブを設計しているメーカーとしても同様。あくまで,規格に準拠したものを設計・製造しているにもかかわらず,規格外のものが登場したわけだ。当然,規格外のものであるから,ドライブ側としても,その挙動がどうなるかというのはわからない。間違ってリッピングできてしまうこともあるだろうし,できないこともある――と言うしかないだろう。

技術的保護手段の有無が焦点――販売側は,どうクリアしていくのか

 エイベックス社がコピーコントロール付きCDを販売するにあたっての,もっとも大きな問題は,著作物に「技術的保護手段」が施されているかどうかが争点になることだ。技術的保護手段が施されていなければ,元々,何も問題はない。今まで通りなのである。

 また,DVDのようにきちんとコピーコントロール技術を考慮して規格化が行われ,販売が行われているのであれば,機器側でもきちんとコピーコントロールが行えるように設計されているので,やはり話は簡単である。

 しかし,今回の対象は,コピーコントロール技術などを考慮していない時代に規格化行われた音楽CDである。これに対して,技術的保護手段を導入すれば,様々な問題が起こることは,ある意味あたりまえと考えることできる。

 しかも,著作権法では,技術的保護手段の有無が問題となっており,これによって,規格通り設計・製造したものが,“違法複製ができる機器”としてみなされてしまう可能性まで出てくる。

 そうなると,パソコン用のCD-R/RWドライブを販売しているメーカーやライティングソフトを販売しているメーカーや,メディアを販売しているメーカーはどうなるのだろう。せっかく頑張って市場を大きくしてきたのに,販売が激減し,大きな打撃を受ける可能性まである。

 しかしその一方で,音楽業界がこれ以上の違法複製の増加を懸念していること,そして音楽関係者がこれによって利益を得,新たな創作活動を行えるということも,また事実である。そこにこの問題の難しさがある。

 今確かなのは,コピーコントロール付きCDが市場に受け入れられるためには,ここまでに挙げたような数多くの問題を,着実にクリアしていく必要がある,ということだけであろうか。

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[北川達也, ITmedia]