News 2002年3月15日 09:48 PM 更新

人類の持続的な発展に貢献――地球シミュレータが稼働

地球温暖化,異常気象,地殻変動,大気汚染。「地球変動予測を実現することは,人類の持続的な発展につながる」――宇宙開発事業団などが運用を開始した「地球シミュレータ」には大きな期待がかけられている。

 3月11日,宇宙開発事業団,日本原子力研究所,海洋科学技術センターは,多目的スパコン「地球シミュレータ」(ES:Earth Simulator)の運用を開始した。ESは,当時の科学技術庁が1998年度にスタートした同名の計画の一環で,“バーチャル地球”を作り出すことで地球温暖化やエルニーニョ現象など,地球規模の環境変動を解明・予測するのが目的。NECが,3法人と協力,システム開発部隊から半導体開発部隊まで,延べ1000人を動員して5年がかりで開発・納入した。総費用は400億円にのぼる。


体育館のような外観をしたシミュレータ棟。地球シミュレータ施設は,計算機が格納されるシミュレータ棟,冷却施設棟,データ解析などを行うシミュレータ研究棟から構成される

 ESは,海洋科学技術センター横浜研究所内のシミュレータ棟(3250平方メートル)に設置。NEC製の1CPU当たり8GFLOPSのベクタープロセッサ8個を1ノードとし,640ノードを接続。プロセッサは0.15μメートルの銅配線プロセスで製造され,約6000万トランジスタを集積している。動作周波数は500MHz/1GHz。


シミュレータ棟内部には,計算ノード用きょう体(140×100×200センチ)が320台,結合ネットワーク用きょう体(120×130×200センチ)が65台収まる。海洋科学技術センターのWebサイトには,施設内を一望できるFlashアニメも用意されている。ちなみに,ESのピーク性能(40TFLOPS)はNEC製スーパーコンピュータ「SX-5」の320機分に相当するという

 計算ノード内のメモリは16Gバイト,システム全体では10Tバイトを装備する。NEC製ベクタースパコン「SX」シリーズ用に開発されたUNIXベースOS「SUPER-UX」を超大規模システム向けに強化・拡張して使用する。プログラム開発環境として,自動ベクター化・自動並列化を行うFortran90/HPF/C/C++コンパイラなどが利用できる。

全球的な高解像度シミュレーション

 海洋技術センターでは現在,ESを使って,「高解像度海洋テストシミュレーション」ならびに「超高解像度全球大気循環モデルによる大気シミュレーション」のテスト行っている。


 上の画像は,世界標準の海洋モデル「MOM3」をESシミュレータに最適化したコードで生成したもの。全球ではなく,日本付近が拡大されているが,日本南岸の赤い筋で表わされた黒潮の蛇行のような現象や,三陸沖の黒潮系の暖水と親潮系の冷水との混合域がはっきりと解像されているのが分かる。

 また,175ノードを使えば,10年間の海洋変動のシミュレーションが約1.6日で実行できるという。「全球規模でこのような微細構造の特徴が出るのは画期的なこと」(地球シミュレータセンター長の佐藤哲也氏)。

 「今までの計算機では,全球的なシミュレーションでこうした渦を高精度で表現することはできなかった。海洋変動のシミュレーションにおける中規模渦の解像は専門家の間でシミュレーションの向上に大きなインパクトを与えるだろう」(同氏)。

 ESに,海洋大循環の解明に向けた成果を期待する佐藤氏だが,ESが本領を発揮するのは,全球大気大循環モデルを用いたシミュレーションでだという。テストシミュレーションでは,全体の半分の320ノードを使って実行性能14.0TFLOPSを記録した。ちなみに,海洋技術センターでは「世界最速」としてESを紹介したが,その後,すぐに東京大学の天文シミュレータ用スパコンがピーク値でESを2割上回る性能を記録した。しかしながらこれについては,「GRAPE-6は天文シミュレーションに特化して重力計算を効率的に行うために設計されているので,ピーク性能に近い性能を出すことができる。ESとは性格をことにするものだ。ただ,汎用的なスパコンについては,ピーク性能ではなく,実行性能で比べたほうがいい」(地球シミュレータセンター利用支援グループの新宮哲氏)と話す。


水平解像度約10キロでの降水のもととなる大気中の水蒸気量(比湿)の850hPa面(高度1500メートル付近)における分布。冬季北太平洋上に見られる発達した温帯低気圧を特徴付けるT字型の前線構造,それにともなう降水帯,寒気の吹き出しにともなうスジ状の構造が再現されている。現在のシミュレーションは水平解像度100キロのものがほとんどだという


水平解像度10キロのシミュレーションの各格子点上での降水量。かなり高解像度だ

 佐藤センター長は,このシミュレーション結果について「あくまでも現実に起きているような現象を高解像度・高速で再現できる可能性を探る試験的な実験である」と控えめな見解を示しながらも,「それでも,現象がかなり現実的に再現されており,今後,異常気象や気候変動にかかわるさまざまな大気現象のメカニズム解明や予測可能性の研究に役立つだろう」と意気込みを語った。

 また佐藤氏は,ESのターゲットとして,長期気候変動予測の高精度化,気象災害予測の高信頼化,日本付近の地殻/マントル挙動の解明,地震発生過程の解明などを挙げた。

シミュレート結果をどうする?

 見てきたように,ESの特徴は圧倒的な性能を背景に,高解像度のシミュレーションが行える点である。ただ,高解像度であるがゆえの問題もあるようだ。

 利用支援グループの新宮氏は,ストレージの容量不足を指摘する。「大気のシミュレーションをデータ処理しようとすると,1日分でも数十Gバイト級のデータになってしまう」(同氏)。

 ESのストレージには,キャッシュとして使用するシステムディスクが450Tバイト,データ保存用のユーザーディスクが225Tバイト,ならびにバックアップ用のカートリッジテープライブラリ(CTL)が1.5P(ペタ)バイトがある。「速度の問題から,CLTではなくディスクのほうを増やしたい」(同氏)。

 ただ,新宮氏によれば,単純にディスクの絶対量を増やせばいいというわけでもないようだ。「これだけ高解像度のデータを全部そのままとっておくのは現実的ではない。どんなデータがどういった形で必要なのか。また,どういった形のデータにニーズがあるのかなど,保存方法だけでなく,活用方法も含めてアイデアを出していかなければならない。今後の検討課題だ」(同氏)。

3月15日付けの記事において,新宮哲氏のコメントに一部事実とは異なる部分がありました。これを修正するとともに,関係者の方々にご迷惑おかけしたことをお詫び申し上げます

 

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[中村琢磨,ITmedia]

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