News 2002年4月2日 08:33 PM 更新

実力派歌手も絶賛――新世代カラオケを生み出す新音源をタイトーなどが開発

 高音質を保ちながらリアルタイムで生演奏の再生・編集・分析ができる電子音源の新技術を,タイトーなどが開発した。この新音源をカラオケ機に搭載することで,従来にない機能を持った“新世代のカラオケ”を作り出せるという。

 タイトーは4月2日,アナログ・デバイセズ,日本コロムビア,マサチューセッツ工科大(MIT)のBarry Vercoe教授らと共同で,高音質を保ちながらリアルタイムで生演奏の再生・編集・分析ができる電子音源の新技術を開発したと発表した。この技術を使った新音源を業務用通信カラオケ機に搭載することで,生演奏を忠実に再現しながら音程やテンポが自由に変化させられたり,歌い手に合わせた自動伴奏,音楽性を理解した歌唱力採点といった従来にない機能を持った“新世代のカラオケ”を作り出せるという。

 現在,業務用カラオケのシステムは,MIDI音源を使った「通信カラオケ」が多い。通信を利用することで,最新の楽曲を求めるユーザーのニーズにも素早く対応できるほか,カラオケの楽曲ソフトをその都度ダウンロードするため,カラオケショップはLDなどカラオケソフトの在庫リスクから解放される。MIDIは,音楽1曲あたりのデータ量が数10Kバイトと非常に少ないため,通信で送るのにも好都合なのだ。

 その一方で,生演奏が収録された音質のよいレーザーカラオケには,今なお根強いファンがいるのも事実だ。カラオケによく行く人なら分かるだろうが,テンポや音程を変えられる機能がついた通信カラオケは,シングルCDなどに収録されているカラオケやLDカラオケと比べて,音質が今ひとつよくない。

 このように,通信カラオケは音楽の音程やテンポを変化させることはできるが,もともとある音源を音色や音程などのデータ手順に合わせて演奏しているだけなので音楽の表現力に限界がある。一方,CDやLDといったパッケージカラオケは,生演奏を使えるので高音質で表現力豊かな音を出せるが,テンポを変えることはできない。音程はなんとか変化させられるものの,電子的なエフェクト処理を使うため,音質を大きく損なってしまうという欠点があった。

 今回発表された新音源は,良好な音質と表現力を保ちながら,音程とテンポがどちらも変化させられるという“通信カラオケ”と“レーザーカラオケ”のメリットを生かした機能が特徴となっている。

新音源のルーツは17年以上前に開発されたCsound

 この新音源の基本技術は,実はMITのBarry Vercoe教授が17年以上も前に開発した電子音源プログラミング言語「Csound」がベースとなっている。MIDIがハードウェア上の音源を使って演奏するのに対して,Csoundはプログラミングで音を生成するため「ソフトウェアシンセサイザー」とも呼ばれている。

 それでは,なぜ今まで実用化されなかったのだろうか。

 どんな音でも生成できるというCsoundの自由度の高さは,その代償としてプログラミングが複雑となり,ユーザーが扱いにくくなるというデメリットをもたらしていた。さらに80〜90年代のテクノロジーでは,複雑なプログラムをリアルタイムで演算処理できるチップがなかったこともあり,研究機関や大学での研究レベルでの利用にとどまっていた。  「90年代後半になって高性能なデジタルシグナルプロセッサ(DSP)が登場し,技術的には実用化のめどがたっていたが,ハードウェアシンセサイザーの方がローコストにできる点や,高い自由度ゆえの扱いにくさからカラオケシステムなどへの応用は見送られていた」(同社)。

 今回,高性能で低価格なアナログ・デバイセズの32ビットDSP「SHARC」を使うことで,処理時間の短縮とコスト面の課題をクリアした。同社が試作した新音源のボードには,SHARCが3個使われている。さらに同社は,Csoundの処理時間を大幅に短縮した「Extended Csound」をベースに,従来のMIDIデータを少し変更するだけで流用できる新音源への応用技術を開発した。


試作された新音源のボード


アナログ・デバイセズのDSP「SHARC」を3個使っている

 新音源の実用化にあたって,もう1つ忘れてはいけないのが“ブロードバンドインフラの普及”だ。「今回の新音源は“ブロードバンド対応”。ハードに組み込まれた音源に音色や音程などのデータを送ればいいMIDIに対して,生演奏らしさを表現するためのデータも送らなくてはいけない新音源では,データ量が1曲あたり3Mバイトとなる。ADSLやFTTHなど大容量伝送が可能なインフラが整ってきたからこそ実現できた」(同社)。

 発表会場では,石原裕次郎の「夜霧よ今夜もありがとう」をカラオケ楽曲例にして,新音源と従来のカラオケシステムの音質の違いが説明された。  「夜霧よ〜」はイントロの渋いサックス演奏が特徴的だが,通信カラオケで使われるMIDI音源ではいかにもシンセサイザー的な“打ち込み音”になってしまっている。一方の新音源では,サックス演奏者の息使いまで聞こえてくるような原音の雰囲気がしっかり表現されていた。MIDI音源のように,音程やテンポを変えることもでき,変化させた時の音質劣化もほとんどみられなかった。

 このほか新音源では,マイクから入力した歌とガイドメロディとを比較分析しながらリアルタイムに歌唱テンポの変化を検出し,自動で演奏テンポを調整する「テンポフォロー機能」や,歌の音程やリズム,抑揚といった“音楽的な正当性”を評価できる「歌唱力採点システム」が搭載されている。  「従来の採点システムは,いかにガイドメロディと同じように歌っているかで得点が決まっていたが,新音源では“こぶし”“しゃくり上げ”“ビブラート”といった歌唱技術の評価ができるのが特徴となっている」(同社)。

新音源の音に,実力派歌手も絶賛

 今回の発表会では,特別ゲストとして歌手の森山良子さんが登場し,新音源を使ったカラオケのデモンストレーションが行なわれた。ヒット中の10分超に及ぶ名曲「さとうきび畑」は時間の都合上(?)で披露されなかったが,森山さんは新音源の演奏をバックに「この広い野原いっぱい」「思い出のグリーン・グラス」「あなたが好きで」の3曲を熱唱した。


新音源のカラオケで熱唱する森山良子さん

 歌い終わった森山さんは新音源について「カラオケの打ち込みっぽい音ではなく,1つ1つの音がクリアでエモーショナルが感じられました。グッとくる情感は,私達が普段歌っている生演奏のニュアンス・臨場感をよく表現できていると思います。気持ちよく歌えました」と語った。


「情感がよく出ていて,気持ちよく歌えました」(森山さん)

 この新音源は,今夏に市場投入予定の業務用カラオケ機のほか,ゲーム事業や携帯電話のコンテンツ事業,ISPと共同でのブロードバンド用コンテンツ事業,楽器メーカーと提携してのPC用シンセサイザーボードやDTMボードへの応用などが検討されている。

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[西坂真人,ITmedia]

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