News 2002年4月12日 11:31 PM 更新

「ユニクロのトマト」のライバルはドットコム企業?

有機野菜販売サイトのオイシックス。単なるB2Cのドットコム企業かと思われがちだが,昨今の健康食品ブームを受けて,大いに注目を集めているのだ。あのユニクロのトマトとも関係あるとか?

 オイシックスという会社を覚えているだろうか? 一昨年の6月,有機野菜販売サイトを立ち上げたベンチャー企業である。ネットバブル崩壊の最中ということもあり,記者会見ではB2Cのドットコム企業に対する厳しい質問があったことを記憶している。

 最近,そのオイシックスの名前をよくテレビや雑誌で見かけるようになった。ビジネス誌はもちろんだが,女性誌にもその名前が登場している。昨今の健康食品ブームを受けて,健康指向のオイシックスの事業が評価されているようだ。さらに,「ユニクロ」を運営するファーストリテイリングが,永田農法のトマトの販売に乗り出すことも,この業界に注目を集める要因になっている。

食品流通に革命を

 オイシックスの高島宏平社長は,有機野菜のネット販売を始めた理由について,「食品流通業界のシステムには疑問を抱いていた」からだと説明する。「とにかく,売れるか分からないものを作っている。生産者は,消費者の顔なんて見ることはできない。おかしなシステムだった。インターネットの登場は,そのシステムの破綻を加速させるだろう」(高島社長)。

 「オイシックスがB2Cのドットコム企業と言われても仕方ないが,自分では食品業界のベンチャー企業だと思っている。ネットやメールは単なるツールにすぎない。だが,この業界にとっては非常に大きな影響力を持つ」(同氏)と話す。

 オイシックスでは,「生産者と消費者の間の情報遮断をなくす」ことをコンセプトに掲げ,両者の橋渡し的な役割も担っている。例えば,生産農家の詳細な情報をホームページ上で紹介するとともに,契約している1000の生産農家に対し,消費者からの意見をフィードバックしているという。

 「良い意見も,悪い意見も,生産者に伝えるようにしています。消費者が生産者に興味を持つように,生産者も消費者の意見が気になるものです。ただ,こういうことにはあまり慣れていないので,ちょっとオブラートにつつんだりはしていますが(笑)。これまで,メーカーのバイヤーは値段のことしか気にしていなかったが,消費者の声を聞くことで,生産者はどんなものを作ればいいのかイメージできるようになったと思います」。

 オイシックスの売上げは,月間4000〜5000万円。30代の主婦を中心にユーザーを増やしている。「粛々とやってます」(高島社長)と控えめなコメントだが,オイシックスはネット販売のほかに,牛乳販売店(130店)や酒販売店(店)と提携。流通経路の拡大にも積極的だ。

 「家庭までのラストワンマイルということで,一時コンビニが注目されたことがあったが,現実には家庭とつながってはいない。同じ理由で,ガソリンスタンドも却下した。やはり,食品を扱うなら,慣れているところがいい。家庭に食い込んでいる生協も,最近は野菜の品質が良くないと言われており,口コミで着実に“Oisix”ブランドのユーザーは広がっている」(高島社長)。

 とはいえ,オイシックスがここまで順風満帆にやってきたわけでもない。高島社長は,「食品業界についてはほとんど素人だったので,何も分からなかった」と立ち上げ当初を振り返る。

 「あるとき,干しイモの大量受注が入ったんですね。生産農家に問い合わせたら全く問題ないと言っていたのに,実際にはイモを干し切れず,遅配することになってしまった。干すはずの日に雨が降ってしまったのが原因でした。基本的なところでは,配送時にトマトが潰れてしまうというのもあった。いろいろ苦労しました」(高島社長)。

ユニクロのトマトとオイシックスのトマト

 高島社長は,オイシックスを立ち上げる前,マッキンゼー日本支社に努めていた。奇遇にも,ファーストリテイリングの常務にマッキンゼー時代の上司がいた。その縁で,食品事業担当の柚木治事業部長とも意見交換することがあるという。

 ファーストリテイリングは,肥料と水を極限まで減らす農法で知られる永田農業研究所と契約し,トマトやコメを販売することになっている。オイシックスにとっては強力なライバルとなりそうだが,両者のやり方の違いについて,高島社長はこう説明する。

 「ファーストリテイリングは,カジュアルウェアと同じ方式を食品ビジネスに持ち込んでいる。永田農法に限定して商品を大量生産すれば,コストを下げることが可能になる。反対にオイシックスでは,コストはかかるが,農法は限定していない。われわれは,消費者の“目利き”であり,その時々で一番おいしいと思われるものを消費者に紹介するのが役目。会社の名前が名前だけにここは譲れません」(同氏)。

 ファーストリテイリングの参入を「マーケットが拡大する」と歓迎する高島社長だが,この影響でオイシックスに思わぬ話が舞い込んだりもしている。「ファーストリテイリングに刺激を受けて,このビジネスに参入したいという企業からいっしょにやらないかと誘われたりしますよ。丸ごと買い取りたいとか。もちろん,ファーストリテイリングと何かやることだってあるかもしれません」(高島社長)。

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[中村琢磨,ITmedia]

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