News 2002年5月24日 10:44 PM 更新

凸版印刷が描く“電子ペーパー”のロードマップ

電子ペーパー実用化の有力技術を持つ米E Ink社に多額の出資を行い、同事業に注力する凸版印刷。24日に行われたデジタルコンテンツ産業研究会では、同社の電子ペーパー事業の取り組みとその将来像が語られた

 電子ディスプレイのように動的に書き換え可能で、紙のように薄く・軽く、インクで書いたように読みやすい――“電子ディスプレイ”と“紙”の良さをあわせ持つ次世代の表示媒体「電子ペーパー」は、4月に催された「東京国際ブックフェア2002」でも来場者の大きな注目を集めていた。

 そのフェアで展示を行っていた1社が凸版印刷。5月24日に行われたデジタルコンテンツ産業研究会では、同社情報・出版事業本部の佐々木知哉氏が、電子ペーパー事業への取り組みとその将来像を語った。


凸版印刷情報・出版事業本部の佐々木知哉氏

 電子ペーパーは、多くの企業がさまざまな表示方式を研究しているが、同社が採用したのは米E Ink社が開発した「マイクロカプセル型電気泳動方式」という表示原理。E Inkの電子ペーパーに関するテクノロジーについては、ZDNetでもたびたび取り上げている(関連記事を参照)。


マイクロカプセル型電気泳動方式の表示原理

 「MIT出身者が設立したE Inkは、大手電機メーカーに比肩する開発力を持ち、2001年の1月には世界トップレベルのディスプレイメーカーであるPhilipsとも提携している。E Inkのマイクロカプセル型電気泳動方式は、電子ペーパー商用化に最も近い、有力な技術と判断した」(佐々木氏)。

 同社は昨年5月にE Inkへ500万ドルの出資を行い、電子ペーパーの共同開発を明らかにした。今年2月にはさらに2500万ドルの追加出資を行って提携を強化。この2回の出資によって、同社は電子ペーパー用カラーフィルタの独占開発・製造権と、電子ペーパーの重要な構成部材である「前面板」の量産体制確立を同社が行うという権利を得た。また、前面板を日本企業および日系企業向けに戦略的・優先的に販売できるようになった。これを見ても、電子ペーパーにかける同社の意気込みが伝わってくる。

 E Inkとの提携の狙いについて佐々木氏は「それぞれの強い分野をあわせて、電子ペーパー市場の創出をはかるため」と語る。確かに同社には、電子ペーパーの量産にあたって、これまで培ってきたコーティングやクリーン化の技術が生かせるという製造面での強みがある。また販売面でも、業界シェア1位を誇る同社の液晶ディスプレイ用カラーフィルタの販路を、前面板の販売の際にそのまま流用することができる。

 「電子ペーパーをどのように使っていくかという用途面でも、これまでの印刷業で多数のユーザーを抱えている当社は、ユーザーが潜在的に持つ電子ペーパーの需要を把握できるポジションにいるのではないかと自負している」(佐々木氏)。

 同社が手がける前面板は、プラスティック基材の上に透明電極を張り合わせて、その上に電子インクといわれるマイクロカプセルをコーティングして作る。この前面板がE Inkの電子ペーパー技術のポイントとなるわけだが、これに液晶パネルのようにたくさんの電極のスイッチ(TFTなど)を搭載した「背面板」が必要となる。この前面板と背面板を組み合わせることによって、初めて電子ペーパーになるのだ。

 「背面板の開発は電機メーカーが対応する。第1世代の電子ペーパーは、現在の液晶パネルのようにガラス基板を使った背面板となるだろう。背面板の基板をプラスティック素材の柔らかなものにしていくことで、丸められるようなフレキシブル性を持った電子ペーパーが可能となる」(佐々木氏)。


電子ペーパーの前面板

 佐々木氏によると、2003年の夏頃にガラス基板の背面板を使った硬い(曲がらない)タイプの“第1世代電子ペーパー”が登場してくるという。「第1世代は数社が製品化を予定している。フレキシブルに曲げられる電子ペーパーらしい第2世代は、2005年頃になるだろう。現在、多くの電機メーカーで、プラスティック素材を使ったTFT基板の開発が行われている」。

 佐々木氏は、電子ペーパーを使った電子出版用途のロードマップも示した。それによると、2003年夏頃登場する最初のモデルでは、モノクロ2値で160〜200ppi程度の表現力しかないため、文字中心の文庫/新書/単行本といった小型の書籍がコンテンツとなるという。

 しかし、2003年末〜2004年初頭になると4〜16階調の表現ができるようになり、コミック/専門書/教科書といった絵や写真が入った出版物も電子ペーパーの用途対象となる。そしてフルカラー化が実現する2004年半ば頃からは、週刊誌/情報誌/写真集などにも電子ペーパーが広がっていくとロードマップでは予測している。

 「もしかしたら、電子ペーパーは我々の本業である印刷事業を脅かす存在になるのかもしれない。しかし、我々はもともと、著作物を紙という媒体に固定して複製するというビジネスをやってきた。その意味では、電子ペーパーも我々印刷会社の本業であるという意識で取り組んでいる」(佐々木氏)。

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[西坂真人, ITmedia]

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