News 2002年5月27日 07:07 PM 更新

Exif PrintとPIMの違いを強調するキヤノン

キヤノンが、JCIA(日本写真機工業会)でのExif 2.2(Exif Print)策定の背景や、PIMとExif 2.2の関係について、マスコミ向けに説明会を行った

 喧嘩を仕掛けているわけではないだろう。しかしキヤノンにしてみれば、圧倒的なシェアを背景にしてエプソンがデジタル画像の“囲い込み”をPIM(Print Image Matching)で行っているように見えるのかもしれない。

 キヤノンはこのほど、JCIA(日本写真機工業会)でのExif 2.2(Exif Print)策定の背景やPIMとExif 2.2の関係についてマスコミ向けに説明会を行った。

 Exifはデジタルカメラ撮影時の様々な情報を含む画像フォーマットを定義した規格で、JIFF JPEGと非圧縮RGB TIFFベースの画像に、標準化された様々なタグが付加されており、解像度やサイズ、色域、露出、感度、測光モード、撮影日、メーカー名、機種名など、多岐に渡るデータが収められている。

 このExifは、デジタルカメラで強い影響力を持つJCIAで策定されているため、世界的にも標準フォーマットとして認知されており、多くのフォトレタッチソフト、画像ビューアあるいはOSが対応している。例えば、Windows XPでデジタルカメラ画像のプロパティを開き、[概要]タブをクリック。[詳細設定]ボタンを押すと、詳しいExifデータを参照できる。

 そのExifの新規格であるバージョン2.2を策定するにあたって、エンドユーザーが自動的に写真を出力する際、高品質の印刷結果を手軽に入手できるような仕様が新しく追加された。Exif 2.2にExif Printの名称が与えられているのは、追加された仕様の多くが印刷に関連したものだからである。キヤノンiプリンタシステム開発センターの坂上渉氏によると、そのコンセプトは「いい絵はそのままに、撮影者の意図を反映し、ミスショットを救済して、シーンに適した好ましい絵を印刷すること」だという。

 これまでも画像に対して自動処理を行うことで、より好ましい絵を初級者でも簡単に手にできるようにしようという試みは行われてきた。エプソンの「オートフォトファイン!」は特に広く知られているし、キヤノンは「オートフォトパーフェクト」という機能をプリンタドライバに組み込んでいる。またアプリケーションレベルでも自動補正機能が付いているものが多い。しかし、画像データを分析し、処理を自動的に選択して処理を行う場合、意図に反して良い画像を悪くしてしまうケースも出てきてしまう。

 そこでExif Printでは、カメラ内に撮影者が設定したカメラの情報を記録し、その情報を参考にして自動処理を行うことで、撮影シーンに合わせた最適な印刷が行えるようにした。

 例えば、露出モードがマニュアルだったり、露出補正を行っていたり、オートブラケットを使用している場合は、撮影者が露出を意図的に制御している可能性が高いため補正を行わず、自動露出の時のみ露出最適化処理を行う。ホワイトバランスに関しても、同様の思想で自動処理が行われている時のみ色カブリの補正処理を行う。

 さらにストロボのオン/オフ情報を利用し、オンの時には白飛びを改善したり、全体のコントラストや背景の明るさなどを改善・補正する。風景モードでは、よりカチッとした風景を実現するためにコントラストや明るさのレベル、色補正、彩度強調などを行い、逆に人物では肌色が美しくなるように補正しつつコントラストを最適化する。また夜景モードでは、暗い部分を抑えたままで明るい部分の強調を行うといった自動処理を行えるようになるわけだ。

 逆にカメラ側がプリンタに何もしないように指定する個別画像処理フラグもタグとして存在する。このタグはカメラが意図した色にしたい場合、もしくはExif対応フォトレタッチソフトで編集した時に立てられ、プリンタはこのフラグがあると自動処理を行わない。  このほか、Exif Printによって以下のような処理が可能になる(将来の可能性も含む)。

  • 被写体距離レンジ――撮影シーンと組み合わせて正しい撮影モードを推定するとともに、ストロボ発光の有無などと組み合わせて正しい露出補正を行う。
  • 被写体位置範囲――被写体周辺を重点的に画像解析し、逆光時の露出補正を最適化する。
  • 光源種類――ホワイトバランスタグと組み合わせて、正しい色補正を行う。
  • 露出時間――スローシンクロ時の処理最適化や、長時間露光時のCCDノイズ処理を最適化。
  • デジタルズーム倍率――設定によりジャギーやノイズ除去処理を行う。
  • 彩度/コントラスト/シャープネス――カメラ側の設定に合わせ、行き過ぎた補正を行わないように考慮する。
  • GPS情報――地域ごとに色を変えたり、時刻を利用して昼夜の処理アルゴリズムの変更、日付により季節ごとの色最適化処理をおこなう。

 キヤノンはすでに3月にExif Print対応の印刷ソフト「Easy-Photo Print」をリリースしており、エプソンも6月初旬に公開予定の「PhotoQuicker」の新バージョンで対応する。またダイレクトプリント対応機では、富士写真フイルムがTA方式のExif Print対応フォトプリンタ「Printpix CX-400」を出荷予定で、キヤノンも6月発売のPIXUS 895PD/同535PDでExif Print対応を行う。JCIAでの規格だけに、デジタルカメラベンダーが積極的に対応していくことも容易に想像できる。


キヤノン製デジカメのExif 2.2対応状況

 このほか、Exif 2.2では記録色空間としてsYCCを採用することも盛り込まれた。YCCとは明るさと色度(Cr、Cb。それぞれ赤色度と青色度)で表現される色モデルで、JIFF JPEGは内部的にYCCを用いている。sYCCとはRGBモデルに展開したとき、sRGBとマッチングするように設計された色空間のことである。

 sYCCはそのまま展開してsRGB空間にマッピングすると“桁あふれ”を起こす。このため、sRGB空間に収めるために「丸め処理(クリッピング)」が行われてしまう。つまり、sYCCはsRGBよりも遙かに広く(Adobe RGBよりも広い)、sRGBでは表現できない色を含んでいる。しかし、Exif Print対応印刷ソフトは元の空間がsYCCで記録されていることを前提に、丸めを行わずに色処理を行うため、sRGBの色域外も印刷可能になるのである(ただし、ドライバ側もExif Printに対応している必要がある)。

 このように、メリットばかり見えるExifPrintは、確かに消費者にとって、より良い写真印刷環境に近付くための最初の一歩だろう。しかし、インクジェットプリンタに詳しい読者は、Exif Printに近い位置付けのもう1つの規格を憶えているだろう。エプソンのPIMである。

 PIMはExif Printに盛り込まれているタグに加え、プリンタ側の色域情報も標準化し、さらに印刷時に利用できると思われる非常に多くのタグを定義した規格だ。エプソンはPIMを自社製品に組み込むとともに、他のデジタルカメラメーカーにも対応を呼びかけてきた。さらに、ライバルであるキヤノン製プリンタ側でも(プリンタの写真印刷能力をより引き出すために)PIM対応するように働きかけた。


Exif2.2 と PIMの違い

 しかし最初のPIMはExifタグのメーカーノート(自由に情報を記録する場所)を用いて情報を記録していたため、JCIA内で「1社が独自で決めた規格は望ましくない。決めるならばExifの標準仕様として決めるべき」との意見が噴出し、JCIAで企画案を持ち寄ることになったというのが、これまでの大まかな経緯である。

 JCIAメンバーのあるベンダーによると、ここで問題となったのはPIMがエプソンのローカル規格(実際にはオープン仕様だったが、とらえ方によってはローカルとも言える)であったことに加えて、情報の投げ手であるカメラ側の規格ではなかったこと、出力機器の仕様に依存性があったことなどだ。こうした大前提を満たす規格として、Exifの仕様改訂をキヤノンが昨年の8月にJCIAに申し入れ、エプソンもPIM推進の延長で提案の意志を表明した。

 2001年9月7日にキヤノン、エプソン両者の提案概要説明が行われ、仕様検討を行う分科会を設立。第1回の分科会は2001年9月13日に行われたという。ここでキヤノン側が提案したのが、現行Exif Printとほぼ同じ内容の仕様、エプソン側が提案したのが今年2月に発表されたPIM IIとほぼ同じ内容の仕様だった。


Exif 2.2最終合意案

 その後、10月2日、10月24日と仕様審議が行われたが、その内容の多くはエプソンの提案に対する審議がほとんどだったとキヤノンの坂上氏は話す。「彼らの提案は現実的なものではなかった。そして11月6日の分科会を経て、11月22日にエプソンは提案の大半を取り下げた(坂上氏)」


エプソン提案の審議結果

 坂上氏の話は、それ以外にも様々なものがあるのだが、このような経緯を今、このようにしてプレス向けに話す背景には、エプソンが取り下げた仕様を2月末にPIM IIとして発表したことにあるようだ。坂上氏は「これではダブルスタンダードだ。業界としてより良い印刷結果を求める規格としてExif Printを推進していく上でも、ダブルスタンダードであってはならない。しかもデジタルカメラ側で実効性のあるPIMタグが指定されているケースは非常に少ない。これはエプソン製デジタルカメラでも同じ」と主張する。

 キヤノンの主張はすべて正論である。もっとも、JCIAの中での発言力が小さいエプソンの立場で言えば、必ずしもPIMのやり方が間違っていたとも言えない。もしキヤノンがエプソンとともにPIMを推進する立場を取れば、おそらくPIMがデファクトスタンダードとなり、JCIAでもPIMをベースに規格化が進んだかも知れない。Exif PrintとPIMの最も大きな違いは、プリンタの規格として印刷条件を規定しているPIMに対して、カメラ側の規格として策定されたExif Printという点だが、ユーザー側の視点で見ると同じような効果を持つ2つの規格にしか見えない。

 つまりエンドユーザーから見れば、簡単に美しい印刷結果が得られれば、その手段は問わないと言える。しかし激しいシェア競争を繰り広げる企業にとってみれば、スタンダードの主導権争いは死活問題だ。インクジェットプリンタでの圧倒的なブランドロイヤリティの高さを誇るエプソンだが、その一方で写真業界でのキヤノンという存在の巨大さに悩む同社の姿も垣間見える。

[本田雅一, ITmedia]

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