News 2002年6月20日 11:59 PM 更新

“宇宙天気予報”が必要な時代

ハイテク社会の中で、放送/通信衛星など宇宙を利用したシステムが活躍しているが、“宇宙の嵐”によってシステム障害を引き起こすといった問題も発生している。そして今、これを予測する「宇宙天気予報」が注目されている

 ハイテク社会の中で、放送/通信衛星など宇宙を利用したシステムが活躍している。しかしこれら“宇宙のインフラ”が、宇宙環境の擾乱(宇宙嵐)によって、システム障害を引き起こすといった問題が発生している。そして今、このような擾乱を予測する「宇宙天気予報」が注目されている。

 6月19日に行われた通信総合研究所(CRL)の研究発表会の中で、CRL電磁波計測部門の菊池崇氏から、宇宙環境の変動を予測する宇宙天気予報への取り組みが紹介された。


CRL電磁波計測部門の菊地崇氏

 太陽からは、プラズマの風(太陽風)が毎秒400キロメートルで常時吹き荒れている。地球が大きな磁石となっているということは、小学校の理科の授業で習ったことだが、この地球の磁場が太陽風によって、あたかも彗星のように吹き流されているのだ。放送・通信などに利用されている周回/静止衛星は、このように太陽風によって磁場が影響される磁気圏を飛んでいる。

 太陽風が磁気圏に到達すると、磁気圏や電離層に閉じ込められているプラズマが、大規模な運動を引き起こす。「この結果、磁気圏内では地磁気嵐が発生し、これが衛星の障害原因となる放射線帯を形成する。また、地磁気嵐によって極域にはオーロラが発生し、電離層には強い電流が流れる」(菊池氏)。


衛星は、このように太陽風によって磁場が影響される磁気圏を飛んでいる

 「1989年3月のオーロラ大発生時には、カナダで送電線の大トランスから火災が発生し、9時間にわたって停電して100万人が影響を受けたという事件があった。これは、オーロラによって電離層に100万アンペアにも達する電流が流れ、地上の送電線に大容量の電流が誘導されたため。日本でも、オーロラ発生時にはかなり強い電流が流れているという調査結果が報告されている」(菊池氏)。


1989年3月のオーロラ大発生時には、トランス火災も発生

 そのほか、旅客機が地上との交信に利用している短波に影響したり、人工衛星の電気系統が壊れるという事故が、地磁気嵐や太陽フレアの放射線によって発生している。電磁層の乱れによって電波の強度・位相に激しい変動が起こり、カーナビの測位に支障をきたすことも分かっている。

 「北極回りの国際線などでは、頭上にオーロラが輝くと放射線量が増えて被曝の心配も出てくる。旅客機のクルーへの安全基準が必要だという声が欧米で上がっている」(菊池氏)。

 このようなことから、太陽活動や太陽風による地磁気嵐の予報――つまり宇宙天気予報の必要性が高まっているのだ。

 CRLでは、太陽望遠鏡で黒点を常時モニタしているほか、パラボラアンテナで太陽風を直接観測。オーロラを衛星写真によって観測するNASAのシステムも利用して、オーロラの状況も常時監視しているという。


CRLの宇宙天気予報活動

 「同じような研究をしている世界中の宇宙観測ネットワークとの連携も行っている。太陽と地球を横から見れる地点に衛星を打ち上げ、太陽風による磁気圏の乱れを解析しやすい位置から観測しようという計画も進んでいる。現在でも位置測定や放送通信などで、宇宙空間を利用したシステムが使われてが、人類がどんどん宇宙に出て行く時代が今後訪れた時に、宇宙天気予報の価値も高まってくる」(菊池氏)。

 実は、CRLによる宇宙天気予報の情報開示は、Web上ですでに行われている。正式なホームページ名称は「太陽地球環境情報サービス(http://hirweb.crl.go.jp/index-j.html)」。太陽活動や地磁気活動の予報・警報、太陽フレアや地磁気嵐の速報、太陽黒点相対数、地磁気指数などの情報が毎日提供されている。CRLでは、これら宇宙天気予報が電話で聞ける「宇宙環境情報テレホンサービス」も行っている。

 「オーロラが発生しやすい冬季になると、多くの日本人がオーロラ見学ツアーに出かけている。宇宙天気予報をチェックすれば、いつ頃オーロラが発生しやすいかを予測することができる。将来的には、宇宙天気予報が一般ユーザーにも広く利用されることを期待している」(菊池氏)。

 近い将来、TVをつけると、TVキャスター志望のお天気お姉さんが、笑顔を振りまきながらこんな放送をしているかもしれない。

 「ピッポッポ。今日の“宇宙天気予報”をお知らせします。先週から太陽活動が活発になっていましたが、昨日になって太陽表面に多くの太陽フレアが発生し、強い放射線の影響で宇宙嵐が吹き荒れています。今晩あたりから地球上でも電磁層嵐に見舞われ、ところによって、衛星放送が見えなくなったりカーナビの誤作動が発生するでしょう。オーロラはキレイに見えそうです。なお、宇宙旅行に出かける方は、放射線対策を万全にするなど注意が必要です――。以上、CRLの提供でお送りしました」。

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[西坂真人, ITmedia]

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