News 2002年7月11日 11:07 PM 更新

「速く打てて疲れにくい」キーボードの秘密――東プレのRealforce 106

自動車用プレス部品メーカーが作るPC用キーボードが、マニアの間で話題となっている。独自の円錐バネ機構を採用した静電容量無接点方式のキーボードを作る「東プレ」。同社の担当者に話を聞いた

 「東プレ」という会社をご存知だろうか。この自動車用プレス部品メーカーが作るPC用キーボードが、キーボードにこだわりを持つユーザーの間で話題となっている。

 同社は1935年に自動車用プレス部品の製造開発メーカーとして創業。自動車産業は将来エレクトロニクス分野になっていくとのビジョンから、独自エレクトロニクス技術の研究開発にも力を注いでいた。キーボードへの取り組みはその中の1つで、1983年からスタートした。

 同社のキーボードは「信頼性が高い」「故障しない」「操作性がいい」という特徴から、金融機関の業務用や計算センターでのデータ入力用、流通/交通/医療/放送機器向けといった業務用各種入力専用機としての採用が多い。特に金融機関での利用率が高く、銀行の窓口用として使われているキーボードでは同社の製品が約70%のシェアを確保しているという。

 同社電子機器部営業1課長の西貝英雄氏は「キーボード上には富士通やNECといった採用メーカーのロゴがあるだけなので、同社の製品かどうかはケースを外して中を見ないと分からないが、現在、国内のシステムメーカー18社24工場にキーボードをOEM供給しており、OEM向けとしては常時50種類以上のキーボードを用意している」と語る。中には、高速な入力が要求されるキーツーディスク向けキーパンチャー専用の高速打鍵用キーボードというのもあり、国内計算センターのほぼ100%がこれを使っているという。

 このように、いわゆるデータエントリー向けの業務用キーボードでは確固たる地位を築いてきた同社が、初のコンシューマ向けモデルとして昨年7月に発売したのが日本語106キーボード「Realforce 106」だ。PCの周辺機器でも安価な部類となったキーボードとしては、もはや“破格”というべき1万6800円という価格ながらも、秋葉原の取り扱いショップでは入荷後すぐに完売してしまうという人気ぶりをみせている。


アキバの取扱店では、入荷後すぐに完売という人気の「Realforce 106」

 その人気の秘密が、業務用で培った「速く打てて疲れにくい」キーボードの機構だ。

 一般のキーボードの動作原理は、キーの押下でシート状の電極を押し付けることでスイッチを入れる「有接点メンブレン方式」が主流。しかし同社のキーボードは、コンデンサの原理を応用した「静電容量無接点方式」を採用している。これは、キーを押下させることによって基板上の固定電極と可動電極との間に静電容量が形成され、この容量が一定のレベルに達したところでスイッチが入るという仕組み。キーを下まで押し抜く必要がないのだ。完全Nキーロールオーバー対応なので、高速入力時の同時押下も全て入力される。


円錐バネを使った静電容量無接点方式の入力部構造

 同社電子機器部開発課長の浅野護氏は「静電容量を使った無接点方式自体は以前からあった原理だが、当社の独自機構は可動電極に円錐バネ(コニックリング)を使った部分。従来の可動電極にウレタンを使う方式では押下に荷重が必要だったが、円錐バネだと荷重の影響がほとんどなくなる。そのため、キータッチを自在に設定することができる」と、同社独自の仕組みを説明する。


キーの内部パーツ

 一般のキーボードでは、キーの押下に必要な荷重が50〜60グラムのものが多いが、この方式では20グラムや30グラムといった軽いタッチのキーを作り出すことができる。また、普通は全てのキーが同じ荷重となっているのだが、この方式では円錐バネを覆うカップラバーを違う弾力のものに変えるだけで、キー1個1個の荷重を変更できる。例えばRealforce106では、主要部分が45グラムだが、力が弱い小指で押下するキーは30グラムに設定されている。

 「軽いタッチで打鍵できるため、女性ユーザーにもファンが多い。またキーの形状も、指の動きに合わせて列ごとに異なる“ステップスカルプチャータイプ”を採用しおり、高速打鍵が自然に行える」(浅野氏)。


指の動きに合わせて列ごとに異なる“ステップスカルプチャータイプ”を採用したキー形状

 このようにRealforce106は、少々値が張ること以外は非常に魅力的なキーボードなのだが、あまり表舞台に出てこないのはなぜだろうか。

 「コンシューマ向け製品の投入は、当社にとってトライアルの要素が強かったため、生産体制が整っていなかったというのが正直なところ」と浅野氏。Realforce106は、最初の半年は当初の目標通りに販売が推移していたものの、昨年末頃からこのキーボードの使い勝手のよさが口コミで広まり、今年に入ってからは当初予定していた販売数の数倍の引き合いがきているという。「OEM製品の合間をぬって生産するため、まとまった数が用意できなく、現在のところ数百台単位でしか出荷できない状況」(浅野氏)。

 キーボード関連のネット掲示板では、増産を求める声や、キーボードのバリエーションとしてASCII配列やテンキー無しタイプの要望が上がっている。今後、コンシューマ向け製品の生産体制強化やラインアップの拡充の予定はあるのだろうか。

 「現在の引き合いが、一部のマニアだけからのものなのか、それとも本当にこのようなキーボードを求めているユーザーからの声なのかは、あと半年ぐらいRealforce 106の販売状況を見てから結論を出したい。その上で、(引き合いが続いていたら)増産やバリエーション強化も検討したい」(浅野氏)。


同社電子機器部の浅野護氏(左)と西貝英雄氏(右)

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▼ 東プレ

[西坂真人, ITmedia]

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