News:ニュース速報 2002年7月12日 06:27 PM 更新

メモリ+スイッチング機能を持つスピン・トランジスタに道筋 産総研と科技団

次世代不揮発性メモリ・MRAMを高性能化できる「スピン・トランジスタ」の開発につながる新TMR素子を世界で初めて開発。Natureに発表した

 独立行政法人の産業技術総合研究所(産総研)エレクトロニクス研究部門と、科学技術振興事業団(科技団)はこのほど、メモリ機能とスイッチング機能を併せ持つ「スピン・トランジスタ」の開発に道筋をつける新TMR(トンネル磁気抵抗)素子を開発した。成果は7月12日付け米科学誌「Nature」に掲載される。


新型TMR素子の電子顕微鏡写真

 TMR素子は、次世代メモリとして期待されるMRAMに利用される不揮発性メモリ素子。MRAMはDRAM並みの高速性を持ちながら、電源を切ってもメモリ内容を保持する不揮発性を備える次世代メモリとして期待され、米IBMや米Motorolaなどが開発を進めており、早ければ2004年にも量産を開始する計画だ。

 TMR素子は磁性体としてメモリ機能のみを持ち、現状のMRAMはTMR素子と、スイッチング機能を持つトランジスタなどの半導体とを組み合わせている。この場合は半導体LSI上にTMR素子を作成するため製造プロセスが複雑になる上、集積度も限られてしまうなどの問題があった。

 産総研と科技団は、スイッチング機能も持つTMR素子「スピン・トランジスタ」の実現に向けた研究に着手。強磁性金属(コバルト)の単結晶薄膜上に、厚さ3ナノメートル以下と極めて薄い非磁性金属(銅)の単結晶層を積層した「単結晶ナノ構造電極」を作製、同電極を使用したTMR素子を世界で初めて開発した。


従来型TMR素子(左)と新型TMR素子の構造

 同電極では、一方向を向いた電子スピンだけが銅のナノ膜に閉じこめられ(スピン偏極状態)、スピン偏極した量子井戸準位を形成する。これによりスピン・トランジスタの実現に必要な「スピン偏極共鳴トンネル効果」が発生、同効果により磁気抵抗が巨大な振動を起こすことを世界で初めて発見した。

 同効果は極低温下でも成功例がなかったが、新TMR素子はこれを室温で実現した。スピン・トランジスタの実用化に道を開き、半導体トランジスタが不要なMRAMや、新たな不揮発性論理素子の開発も期待できるという。また電子スピンの干渉効果を固体中で制御する技術は、量子コンピュータへの応用面でも注目されるとしている。

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