News 2002年8月8日 10:52 PM 更新

高容量化が求められる二次電池――トップシェア企業の取り組みは?

エレクトロニクス機器の高機能化が進むにつれ、二次電池の高容量化が求められている。また次世代のエネルギー源として「燃料電池」も注目されている。二次電池トップシェアの三洋電機が、事業説明会で二次電池市場の動向や同社の取り組みについて語った

 充電することで繰り返し使える二次電池は、今やエレクトロニクス機器には欠かせないものとなっている。特に持ち運ぶことを前提にしたモバイル機器では、二次電池の性能が商品価値を左右するぐらい重要なパーツだ。ニッカド、ニッケル水素、リチウムイオンとさまざまなタイプの二次電池があるが、携帯電話やノートPC、デジカメなど、より高性能なスペックが求められる情報機器では、高容量で軽量なリチウムイオン電池が主流となっている。

 しかし、エレクトロニクス機器の高機能化が進む中、二次電池にもより高いエネルギー密度が求められている。また、従来型の二次電池とは違う次世代のエネルギー源として、「燃料電池」にも注目が集まっている。

 小型二次電池市場でトップシェアを誇る三洋電機ソフトエナジーカンパニーが8月7日に行った事業説明会で、二次電池市場の動向や同社の取り組み、二次電池代替としての燃料電池の可能性について語った。


事業説明にあたった同カンパニー社長の井植敏雄氏

 同社は1964年に国内初の量産化ニッカド電池「カドニカ電池」を市場に投入して以来、ニッケル水素電池「トワイセル」、リチウムイオン電池、リチウムポリマー電池など、さまざまな小型二次電池を業界に先駆けて製品化。現在では小型二次電池分野で、国内・国外ともにトップシェアとなっている。

 同カンパニー社長で三洋電機副社長の井植敏雄氏は「当社の二次電池の国内シェアは、ニッカド電池が75%、ニッケル水素が65%、リチウムイオン電池が34%で、いずれも業界1位の占有率だ(電池工業会調査による2002年第1四半期の販売金額ベース)。世界市場でも数量ベースでニッカド、ニッケル水素、リチウムイオンともにシェア1位を確保している」と語る。


小型二次電池市場ではトップシェアを誇る

 同社の売り上げは、1995年の約1500億円から2000年には約3000億円へと倍増した。この大躍進の原動力が、携帯電話用の小型二次電池だ。携帯電話の出荷台数は2000年をピークに減少傾向にあるが、同社はこの携帯電話用二次電池市場で着実にシェアを伸ばしており、1995年には30%弱だった占有率が2002年には60%強になっている(同社調査による全世界でのセル数量ベース)。


携帯電話出荷台数(棒グラフ)と、同社シェア(折れ線グラフ)の推移

 同社の小型二次電池が支持されている理由の1つが“高容量化”だ。ノートPC用の円筒形リチウムイオン電池では競合他社が2100mAhなのに対して同社では2200mAh、携帯電話用の角型ニッケル水素電池では競合他社が650mAhに対して700mAhと、量産ベースの小型二次電池で、ライバルメーカーよりも高容量の製品を常に市場に提供しているのだ。

 しかし、エレクトロニクス機器の高機能化によって、二次電池にもより高いエネルギー密度が求められてくる。携帯電話を例にとっても、液晶ディスプレイのカラー化やカメラ機能、Javaアプリケーションなど携帯電話が高機能になるにつれ、消費電力は確実に増えている。動画や高速通信が当たり前の機能となる次世代ケータイではさらに消費電力は増え、それがバッテリ寿命に影響してくるのは必至だ。

高容量化に向け、R&D強化

 このような二次電池の高性能化要求の高まりに合わせて、同社はR&Dを強化。昨年7月にそれまで3拠点に分かれていた電池の開発拠点を集約して、神戸市に新研究施設を建設すると発表した。この世界初の小型二次電池専門研究施設は、今年4月から稼動しており、二次電池向けの新材料開発や次世代電池の研究などが行われている。

 二次電池の研究は、材料の研究、つまり化学的な要素が強い。電気を蓄えることができる材料はたくさんあり、これら材料の組み合わせや新材料の発見によって、二次電池の高容量化が進んできた。例えばリチウムイオン電池の材料は、負極にカーボン、正極にコバルト酸リチウム(LiCoO2)を使うのが一般的だが、別の材料を使うことでさらに高容量化を図る研究が盛んに行われている。

 「負極材料にスズ(Sn)やシリコン(Si)のような“IVa族元素”を使えば容量が大きくなるというのは、これまでの研究で理論的に分かっていた。しかしSnやSiは、充電によって3−4倍も膨張するため活物質が割れて脱落し、蓄電能力が落ちてしまうため、リチウムイオン電池の材料には不向きといわれていた」(同社ソフトエナジーカンパニーR&D事業部エナジー研究所所長の米津育郎氏)。

 カーボンは充電しても膨張が少なく、繰り返し利用に向いているため、現在の主流になっているのだ。しかし同社では、従来不向きといわれたSnをリチウムイオン電池の材料に使う技術を開発した。

 「従来は集電体表面が平滑だったため、集電体が不規則に割れて脱落していた。この集電体表面に凹凸をつけることで、活物質が凹凸に沿って割れ、脱落が防げるようになる。この技術によって、SnのようなIVa族元素を負極材料に使えるようになった」(米津氏)。


集電体表面に凹凸をつけることで、活物質の脱落が防げる

 このようにIVa族元素を負極材料に使った場合、カーボンを使った従来型リチウムイオン電池に比べて、50−60%のエネルギー密度向上がはかれるという。

 米津氏は、リチウムイオン電池よりもエネルギー効率が高いといわれている燃料電池についても触れた。

 「いずれ燃料電池がリチウムイオン電池を駆逐するといわれているが、現在最も有望といわれているメタノール型燃料電池の場合でも、現状の技術レベルでは水素密度が3%程度の燃料しか使えないため、エネルギー密度はリチウムイオン電池にかなわない。水素密度が50%ぐらいになって、やっとリチウムイオンを超えられる。実用化には、多くの技術的なブレークスルーが必要」(米津氏)。


現時点の技術では、燃料電池のエネルギー密度はリチウムイオン電池にかなわない

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[西坂真人, ITmedia]

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