News 2002年8月26日 11:31 PM 更新

新たなヒット作を求めて――英国のゲーム投資会社が日本進出

「人気タイトルの続編だけでは業界は衰退する」――。英国のゲーム開発者向け投資会社が、新たなヒット作を求めて「独創的なアイデアを持つ」独立系デベロッパーを対象にしたファンドを展開している。この8月には国内での事業を本格的に立ち上げる

 「人気タイトルの続編しか売れないようでは、ゲーム業界は衰退してしまう」。英国のゲーム開発向け専門投資会社、START!gamesでディレクターを務めるMichael Perry氏はこう訴える。

 START!gamesは、ゲーム開発の「初期段階」に特化したインキュベーター。タレント管理事務所のICM、通信メディアグループのTelewest、ならびに投資会社であるExtreme Finainceという3社の合弁で2001年6月に設立された。同社は、家庭用ゲーム機向けソフト開発ツール「ProDG」の英SN Systemsと提携し、資金不足に悩むアーリーステージのゲームデベロッパーに対して、開発資金や開発用ソフトウェアの提供から、プロジェクト管理、ならびにビジネス支援まで包括的なサポートを行っている。

 「ヒットシリーズの新作タイトルの製作費用を証券化するという試みは既に実績があるが、全く新規のゲームに投資するというファンドはほとんどない」(Perry氏)。すなわち、START!gamesの役割は、「全く新しいゲームの発掘と、それに関わる投資というゲーム開発における最もリスキーな部分を請け負うこと」(同氏)である。

 「ゲーム業界が行き詰まりを感じているのは、積極的にチャレンジしようというリスクを敬遠しているためだ。欧州では、ゲームパブリッシャーとデベロッパーが資本関係にないことのほうが多く、優れたアイデアであるにもかかわらず、埋もれてしまうゲームも少なくない。また、携帯ゲーム向けソフトを開発しているデベロッパーが、家庭用ゲームコンソールに参入するにも障壁があったりもする。われわれは、そういったデベロッパーたちの手助けをしたい」(同氏)。


「スペースチャンネル5」が大好きというSTART!gamesディレクターのMichael Perry氏(右)とSN Systemsの大野智弘氏

「アイデア一発」はNO

 START!gamesの支援は、原則として「初期段階」に限定されたものである。具体的には、デモバージョンを開発するまでの管理を行い、その後は、ゲームパブリッシャーに権利を売り渡すことになる。

 プロセスで説明すると、まず、「イノベイティブなゲーム」(Perry氏)の原石を探し出すところから始める。同社には、ヒットしそうなゲームであるかどうか判断する専門の目利きが在籍し(Perry氏によれば目利き担当は、元SEGAヨーロッパ社員とのこと)、数多くのデベロッパーから送られてくるアイデアがヒットを期待できるものかどうか判別するという。

 「最近、オンラインゲームが注目を集めているが、内容はといえば、RPGばかり。もはやオンラインであるというだけではイノベイティブとは言えない、もっと新しい、今までに全くなかったようなオンラインゲームが出てきたら投資するだろう」(Perry氏)。

 アイデアが認められたデベロッパーには、「一般のインキュベーターに投資を求めるベンチャー企業と同じくらいのボリュームのあるプレゼンテーション資料」(Perry氏)を提出させる。これは、“アイデア一発”の企画をふるいにかけることが狙いである。

 「プレゼンテーションでは、リスク管理まで含めてゲーム開発のプロセスをトータルに分析してもらう。50ページ以上に及ぶことも珍しくない。これからは、単なるプログラマーではなく、実際に売る立場になって考えることが必要だからだ。例えば、一般のユーザーがGoogleに5つのキーワードを入れて検索するとしたら、そのゲームはどんなキーワードでヒットするのか考えてもらったりもする」(同氏)。

 プレゼンテーションが通過すると、実際に投資を行うステージに移る。「昨年は、200件以上の申込の中から60件を候補として選出し、その中から有望な9件に投資を行った」(同氏)。

 デベロッパーは、START!gamesから数千万円の資金提供を受け、約6カ月間でゲームのデモ版を製作する。デモ版といっても、「プレイアブルであることは当然で、ムービーも製作する。さらに、店頭で見かけるようなセールスパッケージまで用意する。パブリッシャーが、製品化を現実的にイメージできるようにするためだ」(Perry氏)。 s  START!gamesでは、デモ版をパブリッシャーに売り込み、ディールが成立した場合はプロジェクトから手を引く。製品化はパブリッシャ―に引き継がれるわけだ。この段階でSTART!gamesはプロジェクトに直接的に関わることはなくなるが、一部の権利は引き続き保有しており、市場に出回ってからは、そのタイトルの販売枚数に応じてロイヤリティを受け取ることになる。

 「デモ版をパブリッシャーに売った段階で初期投資分を回収する。売れ行きに応じて、ロイヤルティが変わってくるため、販売力のあるパブリッシャ―に買い取ってもらうのがベストだ。こういったプロセスは映画製作では珍しくない。制作費が高騰しているゲーム業界でも、同様のプロセスが必要だろう」(Perry氏)。

 なお、ゲームデベロッパーには、パブリッシャーにデモ版を譲渡した段階で譲渡価格の一部が入ってくるほか、販売後のロイヤルティも得ることができる。ただし、「契約内容は個々によって異なるため、一概にゲームデベロッパーにどのくらいの収入があるかは言えない」(Perry氏)。また、パブリッシャーに権利を譲渡する際に、当初のゲームデベロッパーがそのプロジェクトから外れるケースもあるという。

国内大手ゲームパブリッシャーと交渉中

 START!gamesとSN Systemsは、この8月に日本に本格的に進出する。国内の大手ゲームパブリッシャーと提携し、投資活動を展開していく計画だ。

 「このビジネスをやっている以上、日本市場は外すことができない。交渉しているパブリッシャーについて明言することはできないが、ワールドワイドで協力していくことになるだろう」(Perry氏)。また、SN Systemsで日本・アジア地域を担当する大野智弘氏(事業開発部長、経営企画担当役員)は、「ProDGの日本でのシェアは15%にとどまっている。日本進出でより多くのデベロッパーにわれわれのツールを使ってもらえるような環境を作る」と意気込みを語る。

 国内での事業は当初、大野氏がマネジメントすることになるが、「将来的には日本のゲーム市場に詳しくて、目利きができる人物をプロデューサーにしたい」と言う。ゲーム開発のアーリーステージに投資するにあたっては、目利きが勝負を決めるといっても過言ではない。いくら技術支援やプロジェクト管理を徹底したところで、もともとの素材が悪ければ日の目を見る可能性は低くなるからだ。

 もっとも、START!gamesのビジネスモデルは、手掛けたプロジェクトが全部成功しなければ利益が出ないというものではないが、「全てのゲームをヒットさせるつもりでやっている。日本で本格的に投資活動を行うには、やはり鼻の効く日本人プロデューサーが必要だろう」(同氏)。

 なお、両社は今後、ゲームアイデア募集のためのイベントやプログラムなどを実施し、国内で初年度に5―10件の投資を行う計画だという。

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[中村琢磨, ITmedia]

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