News 2002年9月13日 11:59 PM 更新

「ナノテク」がムーアの法則を延命させる

半導体製造技術は既に“ナノ”の領域に入り始めたが、そこここで限界も見えてきている。しかし、Intel製造部門のトップは、最先端のナノテク技術を応用することで、2010年以降もムーアの法則が存続できると話す

 Intel CTO、Pat Gelsinger氏の基調講演は、「ムーアの法則」を拡張することで、これまでより広範な製品分野に適用できるようになるという話だった。だがそれも、ムーアの法則が破綻してしまうと単なる絵空事で終わってしまう。しかし、製造技術を担当するIntel上席副社長のSunlin Chou氏によると、ナノテクを応用することでムーアの法則の継続はまだまだ可能であるという。


「ナノテクでムーアの法則は存続できる」と話す上席副社長、Sunlin Chou氏

 Intelは来年の後半に90ナノメートル(0.09ミクロン)へと製造プロセスを移行させる予定だ。このときのゲート長(トランジスタサイズ)は50ナノメートルで、これはインフルエンザウイルスの半分しかない。数十ナノメートルレベル以下のスケールを扱う技術を“ナノテク”と呼んでいることを考えれば、半導体製造技術は既にナノテクの領域に入っているといえる。

 現在、こうした微細な半導体を透過光マスクによるリソグラフにより製造しているが、現在のリソグラフは露光に用いる光の波長において限界に達している。Intelの90ナノメートルプロセスで用いられるリソグラフの波長は193ナノメートル。つまり、生成したいゲートよりもはるかに長い波長で露光していることになる。Chou氏によると、これは「太い筆で細かい線画を描くようなもの」だ。

 そこでIntelが取り組んでいるのが、非常に波長の短い光を用いたリソグラフによる露光技術である。Intelの計画では、90ナノメートルの次の世代(65ナノメートル)で波長を157ナノメートルにまで短縮するが、その先、2007年には13ナノメートルの波長しかないEUV(極紫外線)を用いて露光を行う。IntelではEUVによる露光技術を、業界コンソーシアムを結成して数年前から研究開発しており、すでに研究成果として露光装置の試作モデルが完成し、50ナノメートルの精細な線を描けているという。

 Chou氏によると、EUVは従来の露光技術では扱うことができないという。透過光による露光技術では、マスクを通過する時にEUVが吸収されてしまうためである。そこで透過光ではなく、反射光で回路を描くEUV Reflective Maskを開発した。これは温度による膨張が少ない基材に、シリコンとモリブデンのコーティングを“八十重”にも施して作成している。シリコン層は4.1ナノメートル、モリブデン層は2.8ナノメートルで、それが40対コーディングされていることになる。このマスクを用いることで、大幅な歩留まりの向上を図ることに成功した。


EUVでは透過光による露光が不可能になり、凹面鏡の反射により露光を行うようになる

 今後も、新素材を用いたり、トランジスタの構造を改良して1トランジスタで3ゲートを持つようにするなど、さまざまなアイデアを用いて半導体の性能を強化できる見込みという。3つのゲートを持つTri-Gateトランジスタは、9月17日に日本で開催されるISSDMカンファレンスにおいて発表される予定。この新しいトランジスタにより、性能が大幅に向上する可能性があるという。

 また、超微細なプロセスになってくると、シリコンをパッケージに実装する技術も困難さを極めてくる。特に問題なのは、熱によりシリコンが膨張するとダイに歪みが発生し、半導体内部の配線(インターコネクト)部分で不良が発生することだ。

 さらに絶縁体の改良による消費電力の抑制や、原子レベルで均質なコーティングを行う新技術、カーボンナノチューブやカーボンナノワイヤといった将来のナノテクを用いることで、2010年よりも先の進化にも対応できる見込みであるとChou氏は強調する。

 Intelはすでに300ミリウェハ、65ナノメートルの半導体プロセスを開発、製造するD1Dと名付けられた工場をオレゴン州に建設している。この工場には隣接して、次世代のプロセスを開発する研究所があり、研究成果を素早く製造部門にフィードバックできる体制を整え、製造技術の進歩速度を維持することにつとめている。

 またGelsinger氏が話したワイヤレスモジュールのシリコン化に関しても、すでにアナログ回路、RF回路を統合したWCDMA対応のシングルチップデバイスなどの試作に成功しているという。


Intelのラボで試作した統合チップたち。WCDMA機能を統合したチップもある

 どうやら、Gelsinger氏の話す輝かしいシリコン技術の未来は、少なくとも2010年以降までは続くようだ。半導体技術の可能性をビジョンとして語ったムーアの法則は、これからの真理として生き続ける。

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[本田雅一, ITmedia]

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