News | 2002年10月11日 11:15 PM 更新 |
ちょうど20年前の今頃、のちに“国民機”と呼ばれるPCが産声を上げた。
「98(きゅーはち)」の愛称で一世を風靡したNECの16ビットPC「PC-9801」が発売されたのが、1982年の10月13日。日本語処理の優位性などから多くのユーザーに支持され、全盛期は個人向け国内PC販売台数で60%前後のシェアを確保していた。海外PCメーカーのDOS/V機が台頭してきてからも50%前後のシェアを維持し、DOS時代はまさに“国民機”と呼ぶにふさわしい地位を築き上げていた。
NEC神話が崩れ始めたのは、AT互換機のアーキテクチャをベースにしたOS「Windows95」が登場した頃からだ。それでも同社は、98アーキテクチャを捨ててまでもシェア確保に努め、30-40%前後を維持して「国内ナンバー1 PCメーカー」の地位を堅持していた。
同社の不動の地位が揺らいだのが、昨年の第1四半期。VAIOシリーズで攻勢をかけるソニーに、PCメーカー首位の座を明け渡してしまったのだ(コンピュータ・ニュース社の市場調査部門・BCN総研の発表)。それ以降ソニーがトップを走り続け、2割前後にまでシェアが落ち込んだ同社は後塵を拝している(ちなみに同社は、独自調査による現時点でのシェアは32%で、トップを確保していると述べている)。
その同社が、昨日、個人向けPCの秋冬商戦モデルを発表した。
NECカスタマックス社長の片岡洋一氏は、新製品発表にあたり「PC-9801の発売から20周年という節目に、われわれのPCは大きな変化を遂げる。今回の新製品は、スペックありきの従来の製品開発から、ユーザーニーズを考えた製品作りを行った」と語る。
「1998年に“インターネット”という新しいバリューをユーザーが見つけ、PCが大きく普及した。メーカーとして反省すべき点は、この普及期にスペックアップというカタチで製品開発を行ってきたことだ。新製品の開発に当たっては、ユーザーの目線で、ユーザーのニーズに合わせた商品の提供をしていくという原点に立ち返り、121wareの130万人のユーザーデータベースや、PCショップ店頭での出口調査など通じて、ユーザーが本当に求めているPCの姿を分析した」(片岡氏)。
家族全員が共用できるPCを
PCの世帯普及率は6割を超えたと言われているが、片岡氏は「個人ベースでのPC利用者は、まだ少ない」という。
総務省が発表した2001年度のPC利用者に関する調査では、単身世帯(1291万世帯)でのPC利用者は約500万人と、全体の約4割ほどしか普及していない。一方、複数人世帯(3387万世帯)でのPC世帯普及率は65%と高いが、その内訳はというとPC普及世帯の約7400万人中、半数の約3600万人がPCを使っていないという調査結果が出ている。
つまり、家庭にPCがあっても、父親や息子だけが使うなど、一部のユーザーにしか利用されていないという現実があるのだ。
「ユーザー全体からみると、家庭でのPC利用者は3割にも満たない。そのユーザーも、PCの扱いに不慣れな初心者が大半を占めている。スペックだけでなく、ヒューマンインタフェースに優れ、使って楽しい商品にしていかなくてはならないという認識を新たにした」(片岡氏)。
「当社独自の調査によると、複数人世帯でPCを利用している65%の世帯の中で、1台のPCを共用して使いたいという世帯が4割以上を占めていた。一方、われわれメーカーは、PCを“Personal”、つまり1人ひとりで使うことしか考えていなかった。今回は“共用できるPC”という視点で、新製品を開発した」(片岡氏)。
同社の取り組みがもっとも具現化された商品が、デスクトップPC「VALUESTAR」およびノートPC「Lavie」の新しく加わったファミリー向けの「Fシリーズ」だ。
Fシリーズでは、1台のPCを家族全員で利用するための機能にフォーカス。家族一人ひとりのPC環境がボタン1つで切り替わる「ファミリーボタン(LaVie Fではファミリーチャンネルスイッチ)」をキーボードに装備した。
利用するユーザーが、それぞれに割り振られた個人別のボタンを押すだけで、壁紙やメールソフト、WEBブラウザの「お気に入り」など設定が変わる。つまり、Windows XPに備わった「ユーザーの切り替え」機能が、ボタン一発でできるというわけだ。ファミリーボタンには、ログインしていないユーザーがメールを受信するとボタンが光る機能も装備する。
Fシリーズはそのほかにも、家族のスケジュールやメッセージを個々のPC環境から共有できる「ファミリーウインドウ」や、教育/家計簿/ゲーム/実用ソフトなどを収録した「ファミリーソフトDVD」、有害サイトへのアクセスを制限できるホームページ閲覧制限ソフトなどを標準で備えるなど、PCを家族で共用するための機能・ソフトを数多く盛り込んでいる。
昨年からのPC需要の低迷で業界全体が伸び悩んでいる中、既存のユーザーを奪い合うのではなく、新たな提案を行って需要を掘り起こし、ユーザーの裾野を広げることでシェア獲得を狙う同社。独創的な新規開発商品を次々と投入してトップをひた走るソニーの牙城を崩し、“定位置”へ返り咲くことはできるのだろうか。
[西坂真人, ITmedia]
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