News 2002年11月7日 03:59 AM 更新

2003年、「番犬」はロボットになる

テムザックと三洋電機が“番犬代わり”になるロボットを発売する。その名も「番竜」。12月に50台の先行予約販売を受け付け、2003年度には一般販売を開始する予定だ

 賊が侵入したら音や光で威嚇。焦げ臭い匂いをかぎつけたら、飼い主に早速知らせる。離れたところにいる飼い主の指令をPHSで受け、4足歩行で現場に直行。その状況を動画像で伝える――そんな頼りになる“番犬”ロボットが、いよいよ一般ユーザーの手に入ることになった。古代の恐竜を未来的にアレンジしたというデザインで、名前は「番竜」。もちろん、「留守番をする恐竜」から来たネーミングである。

 これは福岡県のロボット開発ベンチャー、テムザックが三洋電機と2001年から共同開発していた家庭用ユーティリティロボットで、12月には50台の先行限定販売の受け付けを開始。来年度中には一般販売がスタートする計画だ。先行販売分は「来年3月には納入を開始できるだろう」(テムザックの高本陽一社長)という。設計とメカニズムの開発はテムザックが行い、三洋は電池、音声認識、外装デザインを担当。一般販売用の量産設計と生産も三洋電機が行う。


古代の恐竜を未来的にアレンジしたデザイン、という新型「番竜」。2台は色違い

 このロボット自体は、今年3月すでに1号機が発表されていたが、そのときはメタリックなカメやアリクイのような外観だった。今回の新型機「T72S」ではそれが竜になり、メタリック感がなくなっているが、変わったのは外観だけではない。機能面でも大幅な性能の向上が図られている。

 まず駆動性能は、3月時点では3m/分程度の歩行速度だったのが、15m/分と大幅にスピードアップ。光センサーで段差を検知、現地点では10センチ程度の段差なら乗り越えることもできる。階段の上り下りは「今のところ考えていない」(同氏)が、このレベルの機能があれば、住居内の同一フロアならほぼ自由に動き回れるだろう。製品化段階では15センチ程度の段差を乗り越えられるようにするという。


発表会場で行われた段差を乗り越えるデモ。光センサーで段差を検知し、1足ごとに上っていく


ロボット業界の中ではその人ありと知られるテムザックの高本陽一社長

 番竜にはこのほか加速度センサーや温度センサー、距離センサーなど数多くのセンサーが搭載されているが、新型の売り物の1つは匂いセンサーを搭載したことだ。これはボヤなどを発見するためのもの。

 火事の発見には温度センサーを搭載するのが一般的だが、これでは「相当燃えてから出ないと、火事を発見できない」(高本氏)。焦げ臭い匂いを検知すれば、早期発見が可能というわけだ。この匂いセンサーはテムザックと金沢工業大学の南戸研究室、新コスモス電機が共同開発したものだが、金沢工大の南戸秀仁教授によれば「現時点ではまださほどインテリジェントなものではない。今後、いろいろな機能を盛り込んでいける可能性がまだまだある」という。

 飼い主からの操作はテレビ電話機能付きのPHS「LOOKWALK」で行う仕組みで、もちろん番竜にもPHSが搭載されている。操作モードには遠隔操作モード、留守番モード、ペットモードの3つのモードがあるが、留守番モードでは、賊やボヤを発見した場合、番竜はPHSで離れたところにいる飼い主(オーナー)に連絡。オーナーは番竜を遠隔操作し、テレビ電話で異常の有無を視覚的に把握できる。

 開発にあたっては警備保障大手の綜合警備保障から警備ロボットに関わる技術や警備ノウハウの提供を受けており、製品化段階では番竜と連動した警備サービスの提供についても交渉中だという。

 なお、3月の時点では操作用にFOMAを使うと発表していたが、「現時点でのエリアと料金を考え」(高本氏)、LOOKWALK(PHS)に変更している。機能的にはFOMAや無線LANを搭載することも可能だ。また、サーバを利用し、インターネット経由で操作したり、機能をアップデートすることも考えられる。しかし、「セキュリティを考えると、インターネットを使わないほうがよい」という判断から、現時点での採用は見送っている。

 高本氏によると、製品化に向けた機能向上は現在も進められており、例えば「OSは現在搭載しているものと、製品化段階のものは変更される可能性がある」と発表されなかった。その他の細かい仕様も公表されない部分が多かったが、バッテリーは三洋電機製のニッケル水素電池(20HR-D)7000mAhを搭載しているという。

飼い主になるには覚悟も

 音声認識ボードも搭載しており、デモでは高本社長の“お手”や“立て”といった指示に素直に芸を披露して見せた。外見はごついが、このあたりはかなりかわいいヤツといったところ。1台欲しくなるが、飼い主になるには、大型犬を買うぐらいの覚悟は必要そうだ。


デモで高本社長の指示に合わせてお手などをする番竜


人と比べると、番竜の大きさがわかる。新しいステータスシンボルか?


真横から見た。けっこう愛嬌がある

 まず問題はそのサイズ。1000×800×700ミリ、つまり体長1メートルで高さ、幅ともにかなりある。狭い部屋でウロウロされたらうっとうしいこと間違いないレベルだ。体重も40キロと、大型犬並みの重量がある。彼(あるいは彼女)が動き回れるだけの、それなりのスペースは必要だ(ちなみに今回の番竜は全天候型ではない。“室内竜”である)。

 もう1つの問題は、価格だ。3月時点では軽自動車1台ぐらいとされていたが、さすがにそう安くはできず、製品は「200万円は超えないレベル」になってしまうという。購入者層は「それだけのお金をかけても守るべきものがある人たちでしょう」(高本氏)とのこと。家の中で一番金目のものが番竜そのものになるような人たちは、(記者を含めて)残念ながら想定ユーザーの対象外というわけだろう。

 飼い主の資格ではもう1つ。遠隔操作が可能なロボットだけに、悪用の可能性もある。今回の販売では「基本的に改造するようなユーザーは想定していない」と言う高本氏は「将来的には購入に際して登録制のようなものも必要ではないか」とも指摘していた。家庭用のロボットを買うために、お役所にでも行って申請する――そんな、かなりサイバーな風景は、そう遠い先の話ではなくなっているようだ。

関連リンク
▼ 番竜ホームページ
▼ テムザック

[唯有杜康, ITmedia]

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