News 2002年11月12日 06:11 PM 更新

競争力強化を図るNEC、その秘密兵器は?

NECが、独自の「VCM(バリューチェーンマネジメント)」を本格稼働させる。この新SCMと国内工場の効率化により、大幅赤字のPC事業を黒字へと転換させる計画だ。徹底した効率化を進めるNECカスタムテクニカの米沢事業場を訪ね、その取り組みを見てきた

 NECは、「VCM(バリューチェーンマネジメント)」を11月25日から本格稼働させる。VCMは顧客視点での価値を高め、全体の最適化を図る思想で構築されたSCM(サプライチェーンマネジメント)の一種で、顧客ニーズに素早く対応できるスピードと高い価格競争力を実現できるという。

 同社はこの新SCMと国内工場の効率化により、昨年来続くPC事業の大幅赤字を黒字へと転換させる計画だ。NECソリューションズ執行役員常務の片山徹氏は新SCPの導入により「需給計画のプロセスを1週間短縮できる」と話す。

 新SCMシステムは、販売店からの受注、納期回答、パーツおよびコンポーネントのサプライヤーへの調達フォーキャスト提示、納期・価格・品質回答などをネットワーク化するのはもちろん、NECグループ内でNECカスタマックスおよびNECカスタムテクニカの連携を強化することで、受注から製品出荷までのプロセスを短縮した。システムの核となる部分には、i2 Technologiesの提供する「i2 Demand Planner」「i2 Supply Chain Planner」を使用している。

 例えば週末の売り上げ集計データは即座に処理され、月曜日には流通在庫や実売を確認できるようになっている。実売数は全数を追跡するわけではないが、全国売り上げの90%以上の実績が判明するという。

 続いて火曜日の午前中には、シミュレーションを行いながら需要予測や出荷計画の立案を行う。シミュレーションにはi2 Demand Plannerを利用。23種類の予測法を用い、過去の実績を参照しながら確度の高い予測法を選択、予測と実績をオーバーレイしてグラフ化する。

 ここまでを火曜日の午前中までに終わらせることが可能なため、生産・発注計画の立案も火曜日にできてしまう。販売予測に応じて、必要数を供給できるかどうかの可能性を検討し、工場での生産計画を練って各生産拠点へと振り分ける。結果、翌週の水曜日までには生産・出荷を完了できるようになった。片山氏によると、2−3日分の流通在庫圧縮も図れるという。

 今年9月から徐々に動き始めたこのシステムは、今年11月25日に本格稼働し、2003年3月には計画しているすべてのシステムが稼働するという。また部品調達と製品物流に関しては、調達、配送を両方同じ系列便を用い、グループ共同で物流管理を行う。これにより生産拠点にパーツやアセンブリユニットを運び、完成品を配送する空荷の少ないロジスティクスネットワークを実現した。

 NECは昨年度通期で300億円、今年度上期も100億円を超える営業赤字を出した。しかし、工場の生産性見直しや今回の新SCP導入効果により、今年度下期は黒字になる見込みという。本格的にその効果が現れるのは来年度になるが、生産、営業など全コストに対して2%の効果があるとNECは試算する。


NECカスタムテクニカの米沢事業場

 もちろん、同時に生産工場の徹底した効率化も進めている。NECカスタムテクニカの米沢工場では、生産ライン革新に取り組む前(2000年)に比べて、工員一人あたりの生産性は4倍に向上した。キーワードは「間締め」「リレー方式」「自働化」「ミックス生産」だ。工員一人が生産する台数は日に35台。NECが発注する台湾ODM先の平均が15−20台というから、実に2倍の生産性を誇ることになる。


米沢工場近くにあるコロケーション工場兼パーツ倉庫。協力ベンダーが管理する倉庫も兼ねている。雑然としているように見えるが、共通部品と専用部品を機種ごと機能的にまとめることで、最小限の動線でパーツを取り出せるよう工夫している

 例えばノートPCの生産ラインは、従来17メートル11人だったものが、現在は7.5メートル6人に短縮。また、互いの役割を明確に分担せず、状況に応じて助け合うリレー方式で生産ライン効率の最適化を図っている。そのほか、パーツや完成品、在庫などを自働搬送する傾きのある棚の利用や、複数機種の生産を素早く切り替えられるミックス生産など、さまざまなアイデアで効率化を進めている。


コロケーション工場のデスクトップPC生産ライン。完成までを6人でまかなう。生産協力会社もNECの敷地内にラインを持ち、生産効率も同レベルを維持していた


ミックス生産の例。生産機種の変更がかかると部品補充担当が部品棚を取り除き、別製品の部品棚へとラインの頭から順に交換していく。その間、ラインが止まる時間はほとんどない


梱包台を工夫した例。重量計内蔵のボックスホルダに載せ、左右にスライドする仕組み。すべての同梱物を一人が担当し、出荷状態にまで仕上げることが可能

 さてその効果が収益性のV字回復につながるか否か。結論について語るのは時期尚早だろう。しかしNECは今年、商品戦略においてもユーゼージモデル(利用形態)を重視した新しいアプローチを展開している。従来の主力だったパーソナル性の高い製品に加え、ファミリー向け、AVネットワーク指向と、3つのベクトルに対して異なるデザイン、異なる機能の製品を投入した。こうしたNECの“本気”が継続するならば、数百億円という悪夢のような赤字の解消も難しいことではないはずだ。


デスクトップPC生産効率化の例。作業台を工夫し2段重ねにしている。あらかじめ部品供給の担当者がシャシユニットのカバーとベース部を分けて置いておくことで効率を向上させた


ラインごとにいる部品供給専任者は“ミズスマシ”と名付けられており、工場内をまさにミズスマシのように動きながらパーツを調達、ラインに供給していく


生産ラインの効率化はカンバンを回すいわゆるトヨタ方式を徹底して導入。写真は生産指示書のポスト

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[本田雅一, ITmedia]

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