News 2002年11月22日 00:03 AM 更新

Microsoft古川氏、「SPOT」を語る

COMDEXで披露されたSPOT(Smart Personal Object Technology)。パシフィコ横浜で開催されている「Embedded Technology 2002」の基調講演で、Microsoftの古川享氏がこの新技術について、Bill Gates氏よりも“もう少しだけ詳しく”語ってくれた

 米ラスベガスのCOMDEX基調講演で、MicrosoftのBill Gates氏が紹介した「SPOT(Smart Personal Object Technology)」。身の回りの日常的なデバイスを“よりスマートにする”という新技術だが、COMDEXでのGates氏によるアナウンスは短いものに終わり、その詳細は、来年1月に開催されるConsumer Electronics Show(CES)まで“オアズケ”となってしまった。

 11月21日、パシフィコ横浜で開催されている「Embedded Technology 2002」のためにCOMDEXから日本にかけつけた同社アドバンスドストラテジー&ポリシー担当副社長の古川享氏が、基調講演の中でSPOTについて触れた。


SPOTについて語る同社アドバンスドストラテジー&ポリシー担当副社長の古川享氏

 COMDEXでは、Gates氏の展示ブース案内役もしていた古川氏は、SPOTの詳細をよく知る人物の1人であることには間違いない。同氏が今回、基調講演を行ったEmbedded Technology 2002は、組み込み技術の展示会。講演では、同社が現在開発を進めている組み込みテクノロジーの1つとして、SPOTが紹介された。

 「Bill GatesがCOMDEXの基調講演で発表した内容は、Smart Display、Tablet PC、Media Center PCなどが中心だったが、組み込み機器関連での新しい発表もあった。それがSPOT。実際のCOMDEXでは、SPOTに関する説明は2、3分のほんのわずかな時間だったので、もう少しだけ詳しく紹介したい」(古川氏)。

 SPOT向けのチップセットは、National Semiconductorと同社で共同開発していることが先日発表された。同社の研究部門Microsoft Researchで開発が始まり、National Semiconductorは2年以上前からレシーバとCPUからなるSPOT向けチップセットの設計開発に携わってきたという。

 このチップセットとMicrosoftの組み込みOSおよび関連技術を組み合わせて使い、日常生活でよく目にする製品をインテリジェント化しようというのがSPOTだ。

 「SPOTで使うOSは、カーネルのサイズが32Kバイトぐらいと非常に軽いものになる。この技術を搭載したデバイスは、最終製品で50−100ドルというマテリアルコストを可能にする。最終的には30ドルぐらいになるかもしれない。具体的な製品イメージとしては、冷蔵庫に貼り付けるマグネットに小さな液晶パネルが付いているようなデバイス。安価なので、キャンペーンの景品やオモチャのようなものにも気軽に搭載できるのがポイント」(古川氏)。


SPOTの製品イメージ。置き時計/腕時計/キーホルダー/USBドングルなどが紹介された

 Gates氏のCOMDEX基調講演では、SPOTを使った置時計の例が紹介された。この置時計はSPOT技術によって常にネットワークに接続され、絶えず情報を受け取りながら動作しているため、電源を入れた瞬間に時刻が自動で設定されたり、天気予報や渋滞情報を簡単に引き出せる機能を持つという。

 ただしこの程度なら、同社の電灯線ネットワーク規格「SCP(Simple Control Protocol)」などですでに実現しているテクノロジーだ。CPUや専用OSまで搭載したSPOTは、さらにインテリジェントな機能をわれわれに提供してくれるという。

“気を利かせてくれる”インテリジェンス機能

 古川氏は具体的な事例で、その最新技術を説明してくれた。その内容はこうだ。

 置時計に明日の起床時間をセットしようとする。すると、ネットワークに常に接続されているデバイスは、会社や家庭のPCからスケジュールをチェックして、明日の9時にシアトル空港から飛行機に乗らなければいけないことを自動で認識。いつもの生活パターンから、出発の2時間半前にアラームを鳴らさないと出発準備が間に合わないことまで計算し、6時30分というアラーム設定時刻が自動的に最優先候補に入ってくるというのだ。


SPOTを使った置時計「Smart Personal Alarm clock」

 SPOTのインテリジェンス機能は、これだけではない。自宅からシアトル空港まで通常35分の道のりが、その日の朝は交通渋滞で45分かかっていたとする。SPOTの置時計はこの渋滞情報も自動的に取得し、“気を利かせて”10分早い6時20分にアラームを鳴らすのだ。

 「明日のスケジュールを確認し、いつもの生活パターンを考えて起こす時間を決めてくれたり、その日が渋滞だったら早めに起こすといった気の利いたことは、ガールフレンドやワイフでもなかなかしてくれない。ネットワークによって相互のデバイスが情報を共有し合う将来のウェブサービスでは、こういうことも可能になる」(古川氏)。

 このデバイスのポイントは、インターネットの情報を全部ブラウズしているわけではない点だ。

 「起床した瞬間に欲しい情報、例えば自分が住んでいる地域だけでなく出発先の天気予報まで表示されたり、好きなスポーツの結果や自分がチェックしている銘柄の株式最新市況などが出てくる。このような専門化した情報なら、SPOTの置時計にインターネットのフルブラウジング機能は必要ない」(古川氏)。

 同社では、Windows CEやWindows XP Embeddedのような高機能な組み込みOSを開発する一方で、より小さなカーネル上にネットワーク接続機能や表示機能を盛り込み、少ないメモリの中でどんなことまで可能なのかということの実験を3年前から繰り返し行ってきたという。

 「コンポーネント化されたOSは、今後さらに重要性が増す。Microsoftの組み込みOSの世界は、Windows CEやWindows XP Embedded以外にも、(SPOTなどで)さらに発展していく。ただしこの時、接続方式やプロトコルは、さほど大きな意味を持たない。それによってどんなサービスが提供できるかが重要になる」(古川氏)。

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[西坂真人, ITmedia]

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