News 2002年11月28日 11:36 PM 更新

“立ち退き料”の負担で課題が残る「電波の再配分」

無線LANなど新規電波需要の高まりから、大規模な「電波の再配分」が必要になっている。だが、既存の免許人の“立ち退き料”をどう負担していくかなど課題も多い

 移動通信システムや無線LANなど、新規の電波需要が高まっている。一方で、国内の無線局数は7800万局を超えるなど、“電波のひっ迫”が深刻化している状況がある。このような無線利用の広がりや広帯域化による周波数不足を解消し、限られた電波資源を有効に活用するためには、大規模な「電波の再配分」が必要になっている。

 電波産業会(ARIB)は11月28日、「電波有効利用政策研究会」が11月19日に公開した最終報告書案について説明会を実施。総務省総合通信基盤局調査官の炭田寛祈氏が説明にあたった。


総務省総合通信基盤局調査官の炭田寛祈氏

 電波有効利用政策研究会は、電波の再配分の方法について検討するために総務省が今年1月から開催しているもの。電波の再配分には、既存の免許所持者(免許人)に経済的負担が発生することから、同研究会では電波の円滑な再配分の実施方策、技術革新の推進方策、その他電波有効利用方策などについて検討を行ってきた。

 「電波法が制定されて50年。これまで既存の免許人との相互努力の中で時間をかけて電波の有効利用を図ってきた。しかし、電波の利用が広帯域化する中で、迅速な対応が求められている。ある意味、“今の免許人に早くどいてもらう”といった荒っぽい手法が必要になっている」(炭田氏)。

 従来、電波の再配分は、代替周波数を用意して10年以上の準備期間を設けて実施してきた。だが今回の最終報告書案では、代替周波数は用意せずに光ファイバーなどへの転換を免許人に求めていき、準備期間も3年程度に短縮するとしている。

 ただし、これには免許人側に多大な損失が生じるケースがでてくる。なぜなら、免許人は無線事業のために中継用固定局や鉄塔などを設置しており、電波の再配分によって、これら設備の残存簿価や撤去費用といった負担が発生するからだ。そこで最終報告案では、短い準備期間での再配分については、免許人の損失を補償する「給付金制度」を導入することが提示されている。

 炭田氏によると、研究会では「給付金制度導入」というシナリオまではスムーズだったものの、同制度における費用負担のあり方で多くの議論が交わされたという。「免許が必要で参入数も限定されている携帯電話事業者などは徴収しやすいが、免許が不要で参入が自由な無線アクセスなどのケースになると費用徴収のシステム作りが難しくなる」(炭田氏)。

 最終報告案によると、携帯電話事業者などの場合は、新たに電波を再配分された新規免許人に最低でも5割を負担してもらい、残りの金額も新規免許人からの申し出によってさらに負担してもらうなど、基本的に新規免許人が負担するのが適当だとしている。「研究会のメンバーには電気通信事業者も数多く参加しているが、この費用負担の方法に対しては問題ないとのコンセンサスは得られている」(炭田氏)

 問題は、免許を要しない無線局の場合だ。

 「無線LANやBluetoothなど免許が不要な無線局も、貴重な電波資源を利用してその恩恵を受けているわけだから、一定の費用負担はあって然るべき」(炭田氏)。しかし現行の電波法では、これら免許不要局は届け出も必要ないため、費用の徴収方法が難しくなり、それが課題となっているのだ。

 研究会ではさまざまな徴収方法が議論され、最終的に「電気通信事業者および大規模な自営利用者から徴収する方法(A案)」「製造メーカーなどから徴収する方法(B案)」という2つの案が残ったという。

 「電気通信事業者やホテルなど大規模な設備で無線サービスを展開するケースなどは、受益者が明確なので徴収もしやすい。研究会ではもともと、このA案で話し合いが進んでいたが、Bluetoothを利用した情報家電といったケースになるとA案では対処が難しくなり、不公平感が生じてしまう。そこで、徴収先のメーカーが製品価格に費用を転嫁することで最終的には消費者が負担することになるB案が浮上してきた」(炭田氏)。

 だがこのB案も、メーカーからお金をとるというこれまでにない方式だけに、果たしてコンセンサスが得られるかという点や、相互承認協定(MRA)した海外メーカー製品に対して徴収しづらく、国内メーカーとの不公平感が生じるといった問題もある。

 「どちらの案もメリット・デメリットがあり、結局は課題が残る。それならいっそ、電波の再配分は止めてしまおうという選択肢もある。ただしその場合はBluetoothや情報家電はあきらめるしかない。研究会でも、A案/B案で意見が分かれ、結局はまとまらなかった。この問題は、メーカーにも一緒に考えてもらいたい」(炭田氏)。

 新たな電波の需要に応えるためには、既存の免許人の“立ち退き料”をどう負担していくかという問題は避けて通れない。「この問題は国民的な検討が必要。電波行政においても大きなターニングポイントとなる。総務省では現在、ホームページ上でパブリックコメントを求めている。寄せられた意見を踏まえて、年内に最終報告書を取りまとめていく。来年以降、具体化について検討していき、2004年の2−3月に閣議決定して国会で承認されるというタイムスケジュールになる予定」(炭田氏)。

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[西坂真人, ITmedia]

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