News | 2002年12月2日 11:59 PM 更新 |
情報化社会の発達は、われわれの生活を便利にしてくれたが、その一方で、地域性や伝統、企業の個性などを同質化/均一化していき、結局は価格競争に陥ってしまうというジレンマを生じてしまっている。これを食い止める手段は、企業がどこにも真似のできない“価値”を付加し、ユーザーにとってかけがえのない“経験”を生み出すこと――つまり“経験価値”(Customer Experience)」の提供が求められている。
日立製作所デザイン本部がこのほど開催した「DESIGN FRONTIER 2002」では、経験価値を提供する“デザイン”の果たす役割が紹介された。
“経験価値”――抽象的な言葉だが、日立ではそれを“コーヒー1杯の値段”で言い表す。
「価格競争の世の中では、安いものしか売れないような風潮がある。だが、高いから売れないのではなく、高い値段に相応の価値がないから売れない。豆の状態では数十円でしかしないコーヒーも、缶コーヒーになると120円、カフェでは数百円、ホテルのラウンジでは1100円となる。ここでの価格差が“経験価値”。つまり、経験価値は売れるのだ。逆にこれを提供できない企業は生き残れない」(同社)。
日立では、どのようにしてこの経験価値を“デザイン”へと具体化していくのだろうか。
「例えばデザイナーが、“自分のためだけにいつでもどこでも道案内してくれる案内板が足もとに表示される”というアイデアを簡単なイラストで表現する。そのアイデアに対してイラスト化したりアニメーションを作ったりして肉付けを行っていくことで、そのデザイナーだけではなく、多くのスタッフでイメージを共有できるようにしていく」(同社)。
それでも足りない時は、実際のシステムを作り出して、抽象的なアイデアを具現化してしていくのだという。例えばこのデザイナーの事例では、空港での利用を想定した情報提供システムを実際に作り出している。
空港では、なかなか目的の場所にたどり着けないことが多いが、このシステムでは、飛行機のチケットをポケットから出すと、足もとに搭乗ゲートの方向や搭乗時間が表示される。チケットを持ちながら歩いている限り、搭乗に伴う行動をしているとシステムは判断して、ユーザーの足もとに情報を提供し続けるのだ。逆にチケットをポケットにしまうと、表示も消えるという仕組みになっている。
そのほかの事例として、画面が沈み込む機構でボタンの“押し込み”を表現するタッチパネルや、洗濯中は青い光、乾燥中は赤い光を発するなど作業状態を“デザイン”で表現する洗濯乾燥機などが紹介された。
このようにユーザーニーズを満たすためには何が必要かを考え、設計に着手する前の早い時期にそれを具現化することで、結果的に目標が明確になって製品開発の期間が短縮できるという。
WaterScapeは相互関係を“デザイン”
“実世界指向端末”として話題となった「WaterScape」も、マルチメディア認識機能付きモバイル端末として同社デザイン本部が中央研究所と共同で開発したものだ。
「気になる情報を何気なくピックアップして楽しむことができる“暇つぶしゲーム感覚”のWaterScapeを、当社では最近“受動型モバイル情報ブラウズ端末”と呼んでいる。人と情報、もしくは人と人のよりよい相互関係をデザインする“インタラクションデザイン”という発想からできたのが、このWaterScape」(同社)。
発表から1年半が経過した“息の長いコンセプトモデル”のWaterScapeだが、製品化へ向けて少しずつ改良が加えられているのだという。最新バージョンでは、スクリーンと連動してWaterScapeの画面がスクリーン上に拡大されるというソリューションが加わった。
「開発がスタートした2年前には、3年後には誰もが持ち歩いて使うものを想定していた。だが、開発するにつれ、通常のエレクトロニクス製品のように説明して購入してもらうモノではないのでは、と考えるようになった。最近では、情報に敏感な人々が集う“カフェ”と連携した展開を模索している」(同社)。
これも、同社が目指すデザインの1つだ。
関連記事
[西坂真人, ITmedia]
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.