News 2002年12月6日 08:11 PM 更新

「PCゲームは映画になる」──GeForce FX

NVIDIAの最新チップが来年早々にも投入される。目指したのはPCゲームが映画CG並みの品質で楽しめる「シネマティックコンピューティング」だ

 米NVIDIAは12月6日、最新グラフィックチップ「GeForce FX」の国内メディア向け説明会を都内で開いた。ベンチマークでは「GeForce 4 Ti4600」を数倍上回る性能を持ち、リアルタイムレンダリングによる映画クオリティのPCゲームを実現する「シネマティックコンピューティング」が誕生するという。


「5」ではなく「FX」としたのは、NVIDIAが買収した旧3dfxの技術が融合していることを示すため。ただし「どこに3dfxの技術が採用されているかは公開していない」(米NVIDIA・Geoff Ballew・ハイエンドGPU担当シニアプロダクトマネージャー)

 同チップは開発コードネーム「NV30」で知られ、米国で11月に発表された。同社としては初めて0.13μメートルの銅配線プロセスを採用し(製造は台湾TSMC)、GeForce 4とPentium 4を2倍以上上回る1億2500万個のトランジスタを集積。計算能力は200GFLOPSに達する。


1億2500万個のトランジスタを集積したダイ。200GFLOPSの性能を持ち、これは同社によると「ENIAC」の5億6022万4089台分に相当する。同台数のENIACの重さは米海軍の空母「ニミッツ」17万3000隻分=全人類の合計体重の約36倍=フォルクスワーゲン「ビートル」約110億台分に相当。これをGeForce FXに詰め込むとブラックホールと4分の1マイルの事象の地平ができる、という。つまりすごい

 コアクロックは500MHz。フィルレートは1クロック当たり8ピクセルと従来比 2倍になり、毎秒3億7500万プログラマブルバーテックス、毎秒40億ピクセル、毎秒160億AAサンプルと世界最高のグラフィック性能を誇る。AGP 8xにも完全対応した。デュアルRAMDACのクロックも400MHzに向上している。

 ビデオメモリ(VRAM)には初めて次世代メモリのDDR IIを採用した。メモリクロックは1GHzに引き上げられ、ピーク帯域は最大で毎秒16Gバイトと2倍に向上。DDR II採用には韓国Samsung Electronicsが協力した。

 ベンチマークでも基本性能の高さは示されている。同社が示した「Quake III」でのフレームレート比較では、GeForce 4 Ti4600と比べ約2倍に、「3Mark2001」の「Nature」では約2.5倍となっている。


Quake IIIでの「FX」と「4 Ti4600」の比較。Pentium 4/3.06GHz、512Mバイトメモリ、Windows XP


「Doom 3」「3DMark2001(Nature)」「Unreal Tornament」(左から)での比較。マシン環境は上記と同じ

「シネマティックコンピューティング」を実現する「CineFXエンジン」

 細かさを感じさせない髪、のっぺりした表情、しわのない服──PCゲームの3Dキャラクタのこうした特徴がリアリティを損なってきた。「1フレームずつ時間をかけてレンダリングできるCG映画と異なり、PCゲームは毎秒数十フレームをリアルタイムにレンダリングしなければならない」(NVIDIA日本支社の東正次支社長)ためだ。

 GeForce FXなら、人間味ある表情に質感も豊かな映画クオリティのキャラクターをリアルタイムにレンダリング、多彩なエフェクトと共に意のままに動かすことが可能になるという。NVIDIAが「シネマティックコンピューティング」と呼ぶ新しい3D表現の誕生だ。


デモのために用意された妖精「Dawn」。感情に合わせて表情が生き生きと変わる。デモムービーでは髪に光が当たるたびに髪の筋も浮かび上がる。Conan Doyleなら「これは本物だ!」と叫んでくれそう

 核となるのが同チップに搭載された「CineFXエンジン」だ。同エンジンはDirectX 9.0とOpenGLに完全に対応。グラフィックスパイプラインはRGB+アルファの各チャンネル32ビット合計128ビットカラーを扱えるプロ水準の性能を持つ。

 バーテックスシェーダとピクセルシェーダはそれぞれ「2.0+」にバージョンアップした。バーテックスシェーダの最大命令数は6万5536とGeForce 4 Tiの128から大幅にアップ。ピクセルシェーダもテクスチャマップ数が16(GeForce 4 Tiは4)、最大テクスチャ命令数/最大カラー命令数がともに1024(同4)へと向上させている。

 アンチエイリアス技術も「IntelliSampleテクノロジー」に一新。Z圧縮と色圧縮をサポートし、「すべての解像度で真に迫る色と滑らかなエッジが実現する」という。


ドイツの映画スタジオが製作したオーガ。硬そうな肌の質感が表現されている

 リアルさが増した分、プログラミング技術の要求も重くなる。開発者の負担を軽減しながら同チップの能力を活かし切ってもらうためにNVIDIAが用意したのが「Cg」だ。C言語ライクな記述が可能なグラフィック専用の高級言語で、アセンブリ言語に比べて少ない命令数でシェーダを扱うことができる。

 NVIDIAによると、コナミがGeForce FXに対応したゲームの開発を計画している。「FINAL FANTASY XI」で同社との緊密な関係を表明したスクウェアも同チップを評価中で、近く推奨カードとしてアナウンスされる見込みという。MicrosoftやElectronic Arts、id Softwareら海外の大手ゲームメーカーも同チップを活用した3Dゲームの開発を表明している。

冷却機構「FX Flow」はパイプライン動作も検知

 だが1億を超えるトランジスタを集積した破格のチップだけに、実際にPCに装着して性能を発揮させるにはチップの廃熱が極めて重要な問題になる。

 GeForce FXには新型の冷却機構「FX Flow」を採用した。チップの動作に応じて冷却機構をコントロールするものだが、温度と電流の感知に加えてチップ内のグラフィックスパイプラインの動作とも連動する。

 オフィスソフトなど2D中心の使用の際はファンのスピードを落とし、さらにインテルの「SpeedStep」のようにコアクロックも下げる。3Dグラフィックスなどでパイプラインがフル稼働する場合はクロックは上昇、ファンもフル回転してサポートする。「オフィスでの使用時に消費電力とノイズを最小限に抑える」のがねらいだ。

 ただし冷却機構は巨大で、PCに装着する場合には2スロット分を、つまりAGPスロットと直下のPCIスロットを占めてしまう。さらに外部電源も必要だ。

当初は1モデル


ドライバは従来通り、これまでの全チップに対応する統合型

 サードパーティ各社のGeForce FX搭載グラフィックカードは、2003年1月から順次発売される予定だ。当初はコアクロック500MHz/メモリクロック1GHzの1モデルのみとなり、GeForce 4のようにハイエンドからローエンドまでラインアップをそろえることはないという。ワークステーション用のOpenGL版は未定。GeForce 4は今後も併売される。

 気になる価格だが、「各メーカーが決めること」(東支社長)としてNVIDIAはコメントしなかった。0.13μメートルプロセスへの移行に手間取って出荷予定が8月からずれ込んだこともあり、当初の供給量はやや気になるところだ。

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[小林伸也, ITmedia]

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