News 2002年12月10日 05:44 PM 更新

CD-Rの「音」を考える
「良い音のCD」はどうやって作るか(2/2)


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 「高速なスイッチを置き、符号が0か1、1か0の安定した部分のみ信号を伝送して、それ以外の不要な部分ではスイッチを切ってしまって、(信号を)伝播させないという仕組みを取っています。こうすると、ジッタやリップルなどの不要な成分が伝播しません」(桑岡氏)。


ENC K2では、リップルやジッタなどの符号外成分を伝送しないようにする

 また、桑岡氏によるとその際、「受信側はそれ(受け取った符号)を再度組み立て直して、もとの電圧波形による符号を生成しています。これによって、符号のみ伝播して、それ以外のものをは伝播しないということになります。今までの『線』から、『点』という形で考えているわけです」。

 EFMエンコードされて出てきた符号(信号)をカッティングマシンに送る時に常時(回)線をつないでおくと、必要な符号情報だけでなく、ジッタ/リップルまで一緒に伝送されてしまい、それによって音質が変化してしまうのだという。

 もちろん、昔から言われていることだが、ジッタを減らしたいなら、すべてのデータを一度メモリ上にキャッシュし、独立した高精度のクロックで信号を叩き直してしまえばよい。こうすれば、ジッタを極限まで減らすことができる。

 「(そういった形で)ジッタやリップルがきちっとなるのは当たり前。ただ、こうした波形整形によって見かけ上の波形はきれいになるのですが、(リップルやジッタなどの)成分は、電源やグランドなどの回路に流れていきます」。

 ENC K2がやっているのは、その先のこと。つまり、信号をいくら高精度に叩き直しても、次の場所、例えば、再生機ならDAコンバータに、伝送するときに線が接続されているだけで必ず混入されてしまう「音質変化要因」を排除することなのである。

 「ジッタやリップルがあっても、ENC K2では瞬間的な伝播のみ、細かく言うと10ナノぐらいのわずかなリップルのみが伝播するだけです。つまり、音質変化にまつわるジッタやリップルはほぼ除去して、符号のみ伝播させています」(桑岡氏)。桑岡氏によるとこうすることによって、負荷変動の影響を受けないというメリットもあるという。

 結果として、ENC K2を導入したこのシステムでは、「マスターテープ再生、それからフォーマットエンコーダ、レーザーカッティングでガラス原盤という流れを取りながらも、マスターテープの音がいかなる変化要因を伴うことなくそっくりそのまま、ガラスマスターに符号として送れるというわけです」(桑岡氏)。

ENC K2によって、音はどう変化したか

 「われわれから見れば、ノーマルCDもマスターに比べて音は変わっているんです。これは、絶対に変わります。ですが、今回、エンコードK2ができたことによって、低域の量感や解像力、歪み感、質感とかがすごく良くなったんじゃないかなと思います」。

 高田氏は、ENC K2の導入による音質向上についてこう話す。同氏によるとデジタルの音の変わり方というのは、「帯域バランスの中で低域の量感とか、デジタルで音が濁った場合、“さしすせそ”の“し音”成分ですとか、あるいは上の歪み感とかが増すとか。ちょっと“ザラつく”という表現をわれわれはするんですが、そういう形で変わりやすい」という。ENC K2導入で、こうした影響が取れ、音が良くなったというわけだ。

 また、最近では、プロの製作現場もProtoolsなどのHDDベースでのマスタリングが主流になった。高田氏は、それに対する1つの音質改善策が取れたのではないかという。

 「従来、デジタルK2、K2インターフェースが登場した中での最初の改善というのは、やっぱり、テープ、つまり、帯に対してのデジタルベースの音質改善だったのです。しかし、ここにきて、われわれはProtools、ソニックを含めて“HDDベース”で仕事をしています。ですから、“高速回転”による音質変化要因というものがかなり出てきていると思うんです。それが、今回のENC K2というもので、基本的な改善のポイントが作れたのではないかなと感じています」(高田氏)。

 加えて、高田氏は「やっぱり、マスターは、私個人としてはUマチックの方がよいと思っています。それはイメージで言うと、高速によるデジタル変化の要因を吸収できる技術がなかったということだと思うんです。それが、今回このENC K2でできました」とも話し、ENC K2はHDDベースの作業にも有効でかつ、その導入による音質改善のメリットが大きいことを喜ぶ。


ENC K2を使用して作成されたCDに付けられている「ロゴマーク」。ENC K2は、CCCDとセットで使用されているため、CCCDとK2の2つのロゴが付けられている

音質向上の手立てはまだまだたくさんある

 究極ともいえるENC K2だが、桑岡氏にかかると「まだまだ、音質向上の手立ては一杯あります。地道にやっていきたいと思っています」となる。

 「これ(ENC K2)はあくまでも“きれいな世界”の話なんです。実際これをきちっと働かせるためには、当然システムですから、電源からケーブルまで色々あって、インピーダンスのマッチングとか、電源とか。いずれにしても“東京電力”さんと一緒に、になってしまいます。ループのとりかたとか、それに対して、電源を他のものをかますとか作り直すとか……」(桑岡氏)。

 高田氏は、こういった桑岡氏の存在を「こうやってソフトとハードが一緒になってできるというのは、嬉しいですよね。これは、なかなかできないことです」と笑いながら話す。「ハードの人が自分たちの思いや音に対して理解していただけるかどうかというのが、すごいポイントなんです。ハードの人っていうのは、どうしてもハード中心になりがちで、最終的には、なかなか接点が見つからない。逆に(音に)こだわってくれているんで大変助かります」(高田氏)。

 さらに高田氏は、「ビクタースタジオは、再生基準は変えない」から、こういった音質向上の手立てが色々やりやすいともいう。


試聴をさせていただいたビクタースタジオのマスタリングエンジニア、川崎氏(FLAIR)の使用する通称“川崎ルーム”

 「ADコンバータとかは、それぞれのエンジニアの方が作る手段ではあるんですが、DAコンバータに関してはすべて、JVCのDAでやっています。あと、全スタジオにデジタルK2を入れてます。デジタル伝送系での音質変化要因はなくすということで。それが音の今の基準なんです。そういう環境があればあるほど、基準がぶれないので、こういうことに対しては、やりやすくなりますね」(高田氏)。

 「20bitK2」シリーズや、「xrcd2」など高音質な音楽CDをリリースしてきたビクターエンタテインメントでは、音質改善の努力を「これからも地道ながらどんどんやっていきたい」(桑岡氏)と話す。もちろん、その姿勢は今後も変わらない。

 「われわれはある技術を使えば良いというのではなく、そういう技術を使って少しでもよい状況でお客様に音楽そのものをお届けすることが重要です。そうしないと、こちらの高田とかが一生懸命マスタリングをしても、“あさって”の音が出てしまう。これでは『なんじゃいな、あれは』と言われてしまいます。そういう意味で、DVDになっても、クオリティが高いものを作るという姿勢でどんどんやっていきたいと思っています」(桑岡氏)。



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[北川達也, ITmedia]

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