News | 2002年12月16日 08:27 PM 更新 |
米半導体ベンチャーのMoSysは12月16日、SoC(システムオンチップ)向け高集積メモリアーキテクチャ“1T-SRAM”の新技術「1T-SRAM-Q」を発表。同社副社長兼IP部門本部長のMark-Eric Jones氏が来日し、新技術の説明を行った。
エレクトロニクス製品の小型化・高性能化に伴って、プロセッサやメモリ、ビデオチップ、DSPなど複数の機能を1チップに集積した「SoC(システムオンチップ)」の採用が増えている。特に、組込み機器の分野ではSoCによるシステム設計が主流となっており、携帯電話やPDAなど小型情報機器、高速処理が求められるゲーム機などでは、SoCなしでは語れないといっても過言ではない。
そして近年は省電力化・高性能化のさらなる要望から、より多くのメモリをSoCに搭載するという傾向が増えている。SoCの中で、多くの実装領域を占有するメモリの集積度を上げ、いかにコンパクトにするかが、携帯電話など高性能化が著しい組み込み機器には欠かせないポイントなのだ。
「1999年頃からSoCロジック内でのメモリ占有率が増え始め、現在では実装領域の半分以上がメモリで占められるようなった。メモリのニーズは今後もさらに高まり、2005年には70%を超え、2010年には90%に達するという調査報告もある。SoCは近い将来、ロジックにメモリが搭載されるというよりもメモリ上にロジックが載るというような状態になるのだ。そしてこのような大容量で高集積なメモリのニーズに対応できるのが当社の1T-SRAMテクノロジー」(Jones氏)。
同社の開発した“1T-SRAM”は、任天堂の「ゲームキューブ」に採用されて話題となった高性能メモリアーキテクチャ。“SRAM”と名乗っているが、実際にはメモリセルなどがDRAMと同様の構造を採用しているいわゆる「擬似SRAM」だ。
1T-SRAMの特徴は、リフレッシュ(再書き込み)動作などDRAMの面倒な部分をユーザーから見えなくし、使いやすく高速なSRAMインタフェースを提供する点。SRAMは通常6個のトランジスタから構成されるが、DRAMは1個のトランジスタで済むため、集積度を上げやすく大容量化に向いている。つまり、“DRAM並みの大容量”と“SRAM並みの高速アクセス”を両立したのが、1T-SRAMというわけだ。
MoSys日本総代理店であるスピナカーシステムズ取締役の片桐徹氏は「日本では任天堂での採用例が有名だが、それ以外にもソニー、松下通信工業、ハドソンソフト、日立製作所、日立インフォメーションテクノロジーなど、大手SoC開発メーカーで1T-SRAM採用が活発になっている」と語る。
さらなる高集積化を実現した新技術「1T-SRAM-Q」
今回発表された新技術「1T-SRAM-Q」は、“高集積化”という1T-SRAMのメリットをさらに伸ばしたのが特徴だ。
「1T-SRAM-Qの“Q”は、QUAD DENSITY(4倍の集積度)の意味。6トランジスタSRAMの“4倍”の集積度を誇り、1T-SRAMに比べても集積度は2倍となる。0.13マイクロメートルのプロセスルールで最大128Mbitまで搭載可能」(Jones氏)。
さらなる高集積化を可能にしたのが、新しいロジックプロセス技術「Folded Area Capacitor(FAC)」だ。FACはその名の通り、1T-SRAMのゲート酸化膜上のキャパシタを側面に“畳み込む”ことでキャパシタ水平面積を減らし、ビットセルサイズを小さくできる技術。
「畳み込むためのエッチングに追加マスクを1枚使うだけで、標準のロジックプロセスを使って製造できるため、製造コスト面で有利。また、シンプルな製造プロセスには熱処理の工程がなく、ロジックのトランジスタに熱の影響がなくて済む。これは集積度の高いメモリにとって重要。さらに配線が短くなるということは、高速化や省電力化といったパフォーマンス向上につながる」(Jones氏)。
日本のコンシューマーエレクトロニクス市場に期待
今回の新技術は、世界のどこよりも早く日本で初めて発表された。その理由は、コンシューマーエレクトロニクス市場で世界をリードする日本企業の優位性に期待するからだ。
「1T-SRAM-QはすべてのSoC組込みシステムで有効なわけではなく、小容量メモリで十分なケースでは、従来の6トランジスタSRAMの方が適している場合もある。1T-SRAM-Qは、デジタルカメラ、DVカメラ、家庭用ゲーム機、第3世代携帯電話、PDAなど“省電力”で“高速”な大容量(高集積)メモリを必要とする製品で実力を発揮する。つまり、これら製品分野で世界をリードする日本メーカーに最も適したメモリソリューションなのだ。現在でもMoSysの売上げの半分以上は、日本メーカーで占められている」(Jones氏)。
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[西坂真人, ITmedia]
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