News 2002年12月19日 07:13 PM 更新

スピーカーの開放感&立体音響を“普通のヘッドフォン”で

松下通信工業が立体音響再生の新技術を発表した。5.1チャンネルサラウンドや2チャンネルステレオのサウンドを普通のヘッドフォンで聴く時に、スピーカーで聴くような“開放感のある音響”で楽しめるという

 松下通信工業は12月19日、ヘッドフォン向け高臨場感立体音響再生技術を神戸大学と共同で開発したと発表した。普通のヘッドフォンでも、DVDの映画など5.1チャンネルサラウンドや2チャンネルステレオのコンテンツを、スピーカーで聴くような“開放感のある音響”で楽しめるという。

 5.1チャンネルのサラウンドを楽しめるヘッドフォンシステムは、パイオニアやソニーなどがすでに製品化している。また、SRS Labsの「TruSurround」やダイマジックの3Dサウンド技術「DVX」など、ヘッドフォンや少ないスピーカーシステムで立体感のあるサウンドを実現するソリューションは他社でも提案している。これら他社製品と今回の新技術とは、どんな点が違うのだろうか。

 「ヘッドフォンやイヤフォンをしながらも、あたかもスピーカーで聴いているような開放感ある音を再現できるのが当社独自の特徴で、この部分で特許も申請している。また普通のヘッドフォンで、3次元方向での高精度な“音の方向感”を可能にしているのもポイント」(同社)。

 従来、ヘッドフォンで聴く音は、頭の中で直接感じるような感覚で圧迫感、閉塞感があり、長時間聴いていると疲れるといった課題があった。これは、他社のサラウンドヘッドフォンでも同様で、サラウンド効果は再現できても、聴こえてくるサウンドはあくまでも“ヘッドフォンの音”だった。

 「スピーカーで音を聴く場合、音源(スピーカー)から出た音は、部屋の中を通過していく段階でさまざまな特性が加わり、耳の入り口に到達する。耳孔から入った音は外耳道と呼ばれる管を通って鼓膜に届くのだが、この時、外耳道が鼓膜に対して共鳴管として働く。このような過程を経て初めて“開放感ある音”に聴こえる」(同社)。


音源から鼓膜まで届く過程

 「だが、耳に直接装着するヘッドフォンやイヤフォンでは、外耳道がふさがれるカタチとなり、共鳴特性が変化してしまう。ヘッドフォンだと、頭の中で音がするように感じるのはこのため」(同社)。


ヘッドフォンやイヤフォンでは外耳道がふさがれてしまう

 今回の新技術では、ヘッドフォン装着時の外耳道の音響伝播特性をデジタル信号処理で補正する「外耳道音響伝播特性整合技術」を開発した。「ヘッドフォンで耳の入り口が閉じられている状態でも、信号処理によって耳孔があたかも開放されているかのようになる。これにより、頭の外に開放感のある音を感じることができる」(同社)。

 臨場感あふれる立体音響はどのように実現しているのだろうか。

 音は鼓膜に届くまでに頭や耳の形状によって特性が変化する。この変化量を「頭部伝達関数」というが、人間はこれを手がかりにして音の方向を判断しているのだ。この頭部伝達関数に基づいて音を制御すれば、臨場感あふれる立体音響になるのだが、実際にはそう簡単にいかないらしい。

 「人の頭や耳の形状は前と後ろとで違うので、音源がどちらにあるかでも音の変化量は違ってくる。また頭や耳のカタチ自体の個人差もある。さまざまな方向の音像を人間に知覚させるには、頭部伝達関数の精密な測定が必要」(同社)。

 同社では、オーダーメイドのデジタル補聴器で培った耳孔型採取技術を生かして、聴取者の耳孔にピッタリ収まる超小型マイクロフォンを独自に開発。このマイクロフォンを使うことで、頭部伝達関数を精密に測定し、その係数をもとに3次元方向の“音の方向感”を高精度に再現している。

 「頭部伝達関数は個人差があるので、できるだけ多人数からサンプルを取って、個人差の少ない係数を導き出した」(同社)。


デジタル補聴器で培ったノウハウを生かして精密測定技術を確立


発表会場では、5.1チャンネルのサラウンド音源が入ったDVDの映画を使って新技術のデモンストレーションを実施。インナーイヤータイプの普通のヘッドフォンを装着すると、恐竜の鳴き声が後ろから聞こえたり、ヘリコプターが周囲を飛び回るような臨場感がちゃんと体験できた

 この新技術は、ヘッドフォンやイヤフォンを用いる商品/システムに幅広く応用可能という。松下通信工業が開発したとなれば、携帯電話などモバイル分野や、カーAVシステムなどへの展開にも大いに期待したいところ。現在すでに、この新技術を動作確認できるLSIと、PC上でソフトウェア的にシミュレーションするアプリケーションを開発している。


ヘッドフォン3D再生用LSI

 「実際の商品化の時期は未定だが、LSIの大きさは9×9ミリほどで、このままでもモバイル機器に組み込める大きさになっている。数世代前の古いPCでもソフトウェアシミュレーションが動くので、処理能力が低い携帯電話などにも搭載可能。今回のシステムはヘッドフォンやイヤフォンに頭部伝達関数などを最適化しているが、スピーカーにも基本的には応用できる。カーAVなどへの展開も考えている」(同社)。


発表のデモンストレーションで使われた立体音響再生ボード。右上の黒い部分に3D再生用LSIが入っている

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▼ 松下通信工業

[西坂真人, ITmedia]

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