News | 2003年2月19日 09:34 PM 更新 |
「ぼくは、宇宙に行きたいと思わない。なぜ、危険を冒してまで行かなければならないの?」――。
スペースシャトル コロンビア号の事故から2週間。宇宙飛行士の毛利衛氏が講演先で聞いたのは、宇宙に夢を見ることができなくなった少年のこんな言葉だったという。
「事故の報道を見て、一般の人々がさまざまな思いを抱いている。多額の費用がかかる宇宙開発は、もともと(宇宙に行くという)意義を明確にしなければいけない。コロンビア号の事故以来、それがあらためて問われている」(毛利氏)。
今秋、日本で初めて開催される「第18回世界宇宙飛行士会議」の概要説明会が、2月19日に科学未来館で行われた。実行委員会委員長として説明会に出席した毛利氏は、その中で、シャトル事故が一般の人々に予想以上の影響を与えている状況を、このように述べた。
「世界宇宙飛行士会議」は、各国の宇宙飛行士で組織される宇宙探検家協会(ASE:Association of Space Explorers)が毎年世界各地で開催している国際会議。実際に宇宙飛行を行った宇宙飛行士の貴重な経験を、人類共通の財産として広く共有することを目的としている。今回の概要説明会では、同会議の役員を務める6人の宇宙飛行士が会議の説明を担当。また、1992年から会議に参加しているという日本初の宇宙飛行士・秋山豊寛氏も説明会に出席した。
日本での会議は、今年10月12−17日の6日間で行われる。そしてこの会議が、シャトル事故後に初めて世界各国の宇宙飛行士が一堂に会する場となるわけだ。当然、今回の事故がどのように話し合われるかにも注目が集まる。
「今回の会議は5つのセッションテーマが予定されており、その中には事故についての話し合いも用意されている。だが、非常にセンシティブな内容も含まれるため、非公開のセッションとする」(毛利氏)。
具体的にはどのような話し合いが行われるのだろうか。米国宇宙飛行士のJohn Fabian氏は「10月の会議では、事故の調査にあたった専門家を招いて、調査結果についてスピーチしてもらう予定。これが、今回の会議のハイライトにもなっている。その内容で、今後NASAがスペースシャトル計画の変更を行うべきなのかが分かるだろう。もちろん、調査で良い結果が出て、宇宙開発計画が再開することを願っている」と説明する。
このように今回の会議では、事故調査の報告とそれに基づくテクニカルな話し合いが行われるという。だが、宇宙飛行士も人間だ。冒頭の少年の例ではないが、事故を乗り越えて再び宇宙へ出て行くための“メンタルな部分”での話し合いはあるのだろうか。
「もともと宇宙飛行士側は、こういうこと(事故)は覚悟しているので精神面での話し合いはないと思う。だが、今回の犠牲者の中には宇宙飛行士というよりも“旅行者”として参加した人がいる。このような人たちが会議に参加するならば、精神面での議論はあるかもしれない」(毛利氏)。
今回の事故で、宇宙開発の意義が再び問われているが、米国宇宙飛行士のBo Bobko氏は「未開の新天地開拓には必ずリスクが生じる。だが、リスクを犯さないことが、大きなリスクにつながることもある。宇宙開発は人類すべてに恩恵をもたらす。10月の会議では、問題点や成功事例を話し合って、宇宙開発を推進していきたい」と語り、リスクは覚悟の上で宇宙開発の必要性を説く。
だが、日本初の宇宙飛行士である秋山豊寛氏の意見は、ちょっと違うようだ。
「現在の宇宙飛行計画は、危険が伴うからある程度の犠牲はやむをえないというレベルではない。もはや開発段階ではないので、安全は最優先されるべき。今回の事故調査も、安全第一で進めてもらいたい。人命はなにものにもかえがたい」(秋山氏)。
「宇宙飛行士は個々にさまざまな思いを抱いており、会議ではいろんな意見が集まる。それがいろんな人に伝わることで、日本の宇宙開発の意義にもつながる。われわれの経験が一人でも多くの人に伝われば、会議は意味あるものになる」(毛利氏)。
[西坂真人, ITmedia]
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