News 2003年2月21日 08:57 PM 更新

無線通信は“お天気屋”

GHzクラスの高い周波数帯の電波利用が増えるにつれ、“気象”が無線通信に与える影響が問題視されるようになっている

 「今日は天気も悪いし、家でBS放送で映画でも見ようか」という時、肝心の映像が乱れて放送が見られなかったということは、衛星放送を受信しているユーザーなら誰しも経験があるだろう。無線通信というIT技術のジャマをする犯人――それは、皮肉にも“雨”という自然現象なのだ。

 このような“気象と無線通信の関係”について語ってくれたのは、KDDIネットワーク技術本部アクセスネットワーク部の小野健一氏。都内で開催されている気象関係のイベント「Weather World 2003」の講演での1コマだ。


KDDIネットワーク技術本部アクセスネットワーク部の小野健一氏

 従来の無線通信は、キロ−メガヘルツ帯の低い周波数を使っていた。しかし近年は、低い周波数帯の空きバンドが少なくなったことや、情報伝送容量が大きくなっていることから、マイクロ波やミリ波といったギガヘルツ帯の高い周波数を使うようになっている。冒頭のBS放送もマイクロ波を使用しているほか、「無線LAN」やETC(道路料金自動支払いシステム)などで採用されている「DSRC」(狭域通信)などもそうだ。

 「高い周波数の利用が増えるに従って、気象が無線通信(電波)に与える影響が問題視されるようになった。特に高い周波数帯は“雨”による影響を受けやすいため、この周波数帯を使ってサービスを行う事業者にとっては降雨の把握が重要になっている」(小野氏)。

 もともと降雨の影響を受けやすい周波数帯の通信サービスでは、電波がある程度減衰しても通信が行えるように“マージン”が確保されている。「例えば22GHz帯のシステムでは、50デシベル程度のマージンがもとから用意されている。これは、電波の強さが10万分の1になるまでは通信に耐えられるだけの“余裕”となる」(小野氏)。

 だが、このマージンをあまり取りすぎても都合が悪いようだ。「例えば、この22GHz帯で2キロメートルの通信ができる仕様では、もし晴れていて見通しがあると、距離にして東京から大阪ぐらいまで電波が届いてしまう。そうなると今度は、飛び過ぎで“電波の干渉”という問題が発生する。つまり、雨に負けない程度の最低限の電波レベルを知らなければならない。このことからも、降雨の把握は非常に重要になってくる」(小野氏)。

 雨による電波の減衰量は、どのように決まるのだろうか。

 「まず、雨の地域を電波が通過する距離が長いと減衰も大きくなる。また、降雨場所の雨の強さも影響する。つまり、“時間的”かつ“空間的”に雨の振り方を知ることが重要になる。だが、これが難しい」(小野氏)。

 日本は南北に細長い島国で、山も多く地形もさまざま。多様な環境が存在するため、そこでの雨の降り方は地域によって異なってくる。そのため、各地域での降雨状況の把握には、気象庁が定期的に発表している「AMeDAS」の降雨データを利用する方法ぐらいしかないのが現状だ。

 「だが、気象庁から提供される降雨データは、われわれ通信事業者にとって活用しづらいのが難点」(小野氏)。

 AMeDASが行う雨量測定には、転倒枡型雨量計という測定装置が使われている。これは、1分/10分/1時間の間に枡が何回倒れたかによって雨量を測るという仕組み。「降雨による電波の減衰量を知るためには、“降雨の強度”がどのように変化していったのかが重要になる。だが、AMeDASの測定方法では、雨量は分かっても雨がどれぐらい強く降っているかが分からない」(小野氏)。


AMeDASの雨量測定で使われる転倒枡型雨量計

 KDDIでは現在、AMeDASの雨量データから降雨強度の確率分布を割り出す方法を検討しているが、まだ実用段階には至っていないという。

 「降雨による電波減衰確率の推定方法は、今のところ30年前に作られた原始的な手法を延々と使っているのが現状。温暖化など地球規模で気象環境が変化しており、降雨の状況も以前とはだいぶ違っている。確実な降雨の把握に向けて、継続的な研究が求められている」(小野氏)。

[西坂真人, ITmedia]

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