News | 2003年2月25日 10:32 PM 更新 |
秋葉原のPCパーツショップ街に隣接する千代田区立昌平小学校で2月25日、Bill Gates氏による特別授業「ビル ゲイツ 子供たちに科学の夢を語る」が開催された。授業には、講堂に集まった昌平小学校や同区立練成中学校の児童・生徒たち以外に、インターネットで接続された岡山県の岡山市立西小学校の児童も参加。さらに授業の様子は千代田区の各学校に配信された。
千代田区はマイクロソフトなどと連携し、区内すべての小中学校で、児童・生徒1人に1台ずつ設置しているPCをIEEE802.11aの無線LANで接続、さらに各学校をFTTHネットワークで結ぶ「千代田区ブロードバンドスクール」を推進し、コンピュータの教育利用を積極的に実践している。
「コンピュータはみんなの可能性を広げてくれる」
Bill Gates氏の登場前に流れたのが「コンピュータでいろいろな疑似体験する子どもたち」のムービー。実はこの「いろいろな体験ができるコンピュータ」が、今回Gates氏が一番アピールしたいメッセージだったようだ。
ムービーが終わって登場した同氏が子どもたちに語り始めたのは「コンピュータの持つ可能性」だ。
「最初はとても高くて、誰もが使えるわけでなかったコンピュータも、だんだんと安くなってきて、今ではみんながコンピュータを使えるようになった」。
「医療の分野では、コンピュータによって複雑な薬を開発するのに役立っている。そして障害者はコンピュータを使えば普通の人のように社会で働けるようになる」。
彼のスピーチにはビジネスの話が1つも入らない。マイクロソフトがコンピュータ業界に与えている影響力をアピールするのでもなければ、これからのビジネスにおける「.NET」の可能性も出てこない。彼がひたすら訴えるのは「何でもできるコンピュータは素晴らしい」という、ある意味抽象的なメッセージだった。
マイクロソフト広報によれば、Gates氏が日本で出席するイベントは、各企業、団体からオファーされたものの中から、彼の来日日程に合わせてマイクロソフトが選択。それをGates氏に提案し、「本人がその気になれば」決定する。
今回の特別授業を提案されたBill Gates氏は大変乗り気だったそうだ。それは、「企業人」「開発者」ではなく「文化人」としての側面をアピールしたい、最近の彼の意向がそれなりに影響しているらしい。
子供たちはBill Gatesに何をみたのか
15分ほどのスピーチでコンピュータの夢と希望を子供たちに熱っぽく語った彼は果たして「文化人」になれたのだろうか。
スピーチが終わって日本の子どもたちからの質問に答える時間だ。事前に選ばれた代表の生徒がBill Gates氏に質問する。
「なぜ、マイクロソフトという会社をつくろうと思いましたか」。
「なぜ、こういう便利なソフトをつくろうと思いましたか」。
「xBOXとかWindowsは作るのにどれだけかかりますか」。
今回のイベントは授業なのかアピールなのか。
有名人が特別授業を行う様子はテレビ番組などで、すでに馴染みのものになっている。その中で先生になった有名人は授業内容に工夫を凝らし、自分が経験してきたノウハウなり経験なりを参加した生徒に体験させ、それが参加してる生徒の感動を引き出している。
今回のイベントは授業ではない。確かに生徒よりも多い報道陣に、テレビカメラとカメラのフラッシュに取り囲まれた状況では不可能だろう。それではアピールなのだろうか。導入のムービー、スピーチ、そして生徒からの質問、と一連の流れを見ていると、1つのストーリーがあらかじめ組み立てられ、演出が施されたIT関連イベントのキーノートスピーチを想起させる。
これはわれわれの考えすぎかもしれない。純粋にBill Gates氏は子供たちにコンピュータの素晴らしさを伝えたかっただけかもしれない。ならば、もっと工夫した「授業」といえる(イベント案内には「講演」とあったが生徒たちには「特別授業」と説明されていた)内容を生徒たちは期待していたのではないだろうか。
講堂で授業に参加した児童・生徒は昌平小学校から60人、練成中学校から150人。講堂のステージ寄り半分に腰をおろした彼らを、多数の報道陣とテレビカメラが取り囲んでいる。世界最大のIT企業トップであるGates氏の登場に興奮気味の報道陣に、彼の偉大さを繰り返し述べる講演者。しかし、児童・生徒たちは、こんなにも大勢の報道陣でごった返している訳を理解しているのだろうか。残念ながら、先に述べた質問以外に、参加した児童・生徒たちの「生」の声がこちらまで伝わることはなかった。
30分ほどで特別授業は終わり、報道陣に「文化人 Bill Gates」をアピールしてGates氏は会場を立ち去った。彼の特別授業は生徒たちにどんな印象を与えたのだろうか。
[長浜和也, ITmedia]
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