News 2003年3月4日 07:40 PM 更新

Bluetoothの開花予報――「今年の春は咲く」

これまであまりぱっとした話のなかったBluetoothだが、ようやく開花の兆しが見えてきたという。これまであまり知られていなかった認定作業の様子を含め、その現状と今後の見通しを、認定会社BTQの幹部に聞いた

 IEEE802.11bに代表される無線LANは普及に弾みがつき、より高速なIEEE802.11gの策定も間もなく終わるなど、話題に事欠かない。一方、同じ2.4GHz無線バンドを使用するBluetoothは、これまではあまりぱっとした話題がなかった。だが、やっと遅まきながら開花の兆しが見えてきた。

 今回は、Bluetoothの現状と今後の予想を、日本におけるBluetoothの認定を業務とするビーティーキュー(BTQ)にうかがってきた。

Bluetoothの知られざる認定体制

 「ビーティーキュー(BTQ=Bluetooth Qualification Body)」は、今から2年前の2001年2月15日に創立され、ちょうど3年目の創立記念日を迎えたところだ。BTQの設立時の株主は、東芝、日本アイ・ビー・エム、太陽誘電の3社で、今年からこれにソニー、富士通、松下電器産業の3社が加わった。これらの出資会社のなかで、おやっと思うのが、太陽誘電だろう。

 CD-Rメディアのリファレンスメディア生産で知られる同社だが、BTQの他の出資会社はすべてパソコンや携帯電話などのIT機器メーカー。そう考えると、ここに名を連ねているのがちょっと意外である。まず、このあたりをBTQの酒井五雄取締役に尋ねてみた。  


BTQの酒井五雄氏。実は筆者、酒井氏とは10数年前に、とあるメーカーで一緒にMSXの仕事をしていたことがある。というわけで、取材後は復活した『MSXマガジン』の話に花が咲いた

 同氏によれば、太陽誘電がBTQの出資会社となっているのは「Bluetoothの認定に必要な検査機器を所有しているのが最も大きな要素です。また、あまり知られていないようですが、太陽誘電では、Bluetooth用のトランシーバモジュールの生産も行っているのですよ」とのこと。ちなみに、太陽誘電が所有しているBluetooth認定用の検査測定器は、価格が約2億円もするものなのだという。

 また、Bluetoothの認定を行うには、BQTFと呼ばれるBluetooth SIGの試験にパスした設備での認定作業が必要となり、太陽誘電のEMCセンターが、アジア地区では最初のBQTF(Bluetooth Qualification Test Facility)として認定されたという経緯もある。

 現在、全世界には20カ所のBQTFがあり、日本には3カ所のBQTFがあるのだが、今月中には太陽誘電の新BQTFがオープンし、ここが国内最大規模の設備を誇っているという。

 なお、BQTFでの認定作業を行うには、認定人もBluetooth SIGの試験に合格する必要があり、現在日本には4人の公認されたBluetoothの認定人(BQB:Bluetooth Qualification Body)がいる。ちなみに、全世界には35人のBluetooth認定人がおり、うち日本人は3人だそうだ(日本にいる認定人の内の1人は、ドイツ人だとか)。今回お話をうかがった酒井氏は、3人の日本人のうちの1人である。

 Bluetoothの機器認定には、BQTFの認定に加えて、電波法による特定小電力機器の認定を受ける必要もある。これは各国によって異なり、日本ではTELEC(テレコムエンジニアリングセンター)により行われている。米国ではFCCが行っている。

 加えて、電話機器に組み込まれるBluetooth機器であれば、国内の場合、JATE(電気通信端末審査協会)の認定を受ける必要も発生する。認定作業は現状、かなり複雑といえそうだ。

 実際、電波法上からいうと、海外で認定を受けた機器は、国内ではそのままでは使えないのである。これはIEEE802.11無線LAN機器や携帯電話なども同様。携帯電話の場合、接続キャリアのサポート範囲もあるので、ほとんどの場合、使用できないが、無線LANやBluetoothでは海外の機器も簡単に使用できてしまう。これらは厳密に言えばすべて電波法違反ということになるわけだ。

 今後は、各国の電波監理局などと調整し、相互運用条約などを結ぶことで、無線LAN機器やBluetooth機器がワールドワイドで利用できるよう、働きかけてゆく必要がありそうだ。携帯電話も海外ローミングが可能な時代になってきている。電波法の根本的な見直しも、今後議論されるべきだろう。

Bluetoothの「現状」と「今後」

 酒井氏によれば、昨年末でのBluetoothのワールドワイドでの認定の累計実績は、1000件を超えているという。しかし、われわれが眼にするBluetooth機器は、その数値よりもずっと少ない。

 これはBluetoothの認定がハードウェアだけではなく、ソフトウェアやドライバ、プロファイルなど、多岐に渡って行われているためだ。ハードウェアとしてのBluetooth機器は累計認定実績の1/10程度ということなので、製品としてわれわれの眼に触れる機器は100程度になる。

 これまで日本のメーカーでは、Bluetoothに使用されるトランシーバやICチップなどの比重が高い傾向にあったようだ。しかし、Bluetooth認定機器の数は、着実に毎月増加しており、今後さまざまなBluetooth機器が登場してくることは、間違いない。酒井氏によれば、傾向としては電話機器や音声機器に加えて家庭用電化製品や、自動車機器などが増えているという。

 電話機で言えば、現行機種でBluetoothを内蔵しているのは、NTTドコモのPHS、633Sだけだ。auの3G携帯では、メニューにはBluetoothがあるにも関わらず、内蔵モデルはない。このため、かなり大型のBluetoothアダプタを使用しなければならないし、他のキャリアに至っては、Bluetoothのメニューすらない。寂しい限りの現状だが、今後Bluetooth内蔵のモデルが登場することも期待できそうだ。

 Bluetoothと無線LANの差別化については、酒井氏によれば、「Bluetoothの特徴は、なんと言っても低消費電力であり、同じ無線機器でも無線LANとは共存できること」だと言う。これは、筆者も同感だ。現実に633Sでは、常時Bluetoothの電源をオンにしてあっても、電池はFOMAよりはずっと長持ちするし、パソコンやPDAでの無線LANとBluetoothを比べれば、より消費電力が大きいのは、無線LANカードなのだ。


Bluetoothの低消費電力は、IEE802.11bとのスペクトラム拡散変調方式の違いに加えて、電波の電力差も大きく影響している。ちなみに、IEEE802.11bの10mWに対して、通常は1mWの機器が多いBluetoothだが、最大電力100mWを持つBluetooth用PCカードもあるという

 また、来年には現在のBluetooth V1.1の機能強化バージョンであるV1.2が登場し、更に次世代の高速バージョンとしてBluetooth V2.0も計画されているという。このBluetooth V2.0では、現在のIEEE802.11b無線LANと同等の11Mbpsが可能になる予定だ。しかも、Bluetoothの特徴である低消費電力はそのまま持ち合わせる規格だというから、楽しみである。

 4月17日からは、Bluetooth関連の展示会となる、「Bluetooth Expo 2003」も開催され、多くの最新Bluetooth機器が公開される。昨年比で倍以上のBluetooth機器が、既にBTQによって認定されているというから、多くのBluetooth新製品や、サービスなどが公開されるのはまず間違いないだろう。

 なお、取材後、酒井氏から「今度はBQTFの認定現場を見に来ませんか」とのお誘いを受けた。というわけで、2億円のBluetooth認定装置があるというBQTFの、これまで秘密のベールに包まれてきたその様子を次回はレポートすることにしよう。

関連リンク
▼ ビーティーキュー
▼ Bluetooth SIG
▼ テレコムエンジニアリングセンター
▼ 電気通信端末機器審査協会

[清水隆夫, ITmedia]

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