News 2003年3月6日 06:45 PM 更新

インタラクション2003
顔アイコンはアイコンを超えるか?

「顔」を、人を認識しコミュニケーションを取る手段にする。そんな試みがソニーコンピュータサイエンス研究所のグループから発表された。使ってみると、顔アイコンは、単なる普通のアイコンとは異なるものであることがわかる

顔をアイコンにする「顔アイコン」

 脳には、顔を認識する場所がある。脳内の血流量を測定するMRIやPETなどの機器の発達によってわかってきたことで、チャールス・グロス、チャールス・ブルースらが1981年に論文発表して広まり、現在では広くポピュラーとなっている(*1)。

 この仮説は「おばあさん細胞仮説」と呼ばれている。単一ニューロンのみに脳の機能を分担させる考え方には、異論もあるが、「顔細胞」があるというのは、興味深い仮説だ。

 顔への関心は深いが、そんな「顔」を人を認識しコミュニケーションをとるためのキーとして使おうというのが、Namazuの高林哲氏、慶應義塾大学の塚田浩二氏、POBoxの増井俊之氏による「顔アイコン」である。


顔アイコン。デスクトップ上に顔があり、それがコミュニケーションのきっかけとなるシステム。大変直感的である

 このグループの高林哲氏と増井俊之氏は、以前にQuickMLを立ち上げたメンバーでもあり、お手軽で、しかも実用になる小粋なコミュニケーションを語らせたら、向かうところ敵なし、って感じもする。


顔アイコンの開発者、ソニーコンピュータサイエンス研究所(CSL)/奈良先端科学技術大学院大学の高林哲氏

 論文中には、顔アイコンの背景については多くは語られていないが、従来のコンピュータで使われる図案化したアイコンに比べて、顔をアイコンにした場合の視認率というか、認知度というか、表現力は、大変高いものになっている。そんなことは、使ってみれば、一目でわかる。

 顔アイコンでは、メールアドレスやファイル転送先、メッセージ転送先などを示すために、顔のアイコンを用いる。

 顔アイコンにファイルをドラッグ&ドロップすれば、ファイルが添付メールとして転送され、顔アイコンをダブルクリックすれば、ショートメッセージを送信できる。「この人とコミュニケートしたい」という感覚が直接的にユーザーに伝わってきて、システムのお手軽さ以上にユーザーのエモーションに強く訴えてくるところがある。

顔のアイコンはアイコンを超えるか

 携帯電話で写真を登録して電話がかかってくると写真が表示されるようなシステムも出てきているが、究極のエージェントは自分自身の顔をもった「仮想人格(アバター)」なのかもしれない。

 仮想人格にメールを送ってもらったり、愛を語ってもらったり。ついでにうまくコミュニケーションできないときには、そのアバターに八つ当たりしたり。

 コンピュータ内でのエージェント/アバターには、ポストペットやオンラインゲームでのキャラクターなどがよく知られているが、そこに自分自身の顔をつけることができれば、一体感はずっと増すだろう。それこそが、本当の仮想人格という気持ちもしてくる。

 顔アイコンが単なるアイコンではないなと強く感じたのは、高林氏のデモのなかで、いたずらしたいときに、相手の顔のアイコンをゴミ箱に捨てる、という行動を目にしたときだった。

 いったい、この行為はなんなのだろうか。アイコンが顔の形をしているだけで、ひとはそのアイコンに対して、過剰に人格を投影してしまうようだ。単なる図案などとは思えなくなってしまうのである。例えば、話しかけたりしてしまうのである。これって、ちょっと変だろうか?

 コミュニケーションする相手が大勢の場合、デスクトップは顔で埋め尽くされて、モブシーン状態になると思われる。そう尋ねると、「そんなに友達いませんから」と高林氏は冗談をいう。ま、実際に相手が増えたら、顔アルバムとか建物アイコンとか、そんな拡張をしていくことだって考えてもいいのかもしれない。

 というわけで、この顔アイコン。現在はまだソフト自体は公開されていないようだが、QuickML同様に、早々に公開されることを期待する。面白いモノは、みんなで使うともっと面白いと思うからだ。


*1 リタ・カーター/養老孟司監修の『脳と心の地形図 ビジュアル版 思考・感情・意識の深淵に向かって Mapping The Mind』(原書房)や、立花隆の『サル学の現在』(平凡社)の「サルの脳でヒトを知る」に詳しく出てくる。



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[美崎薫, ITmedia]

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