News 2003年3月7日 04:08 AM 更新

求めたのは「ずっと触っていたいもの」――Microsoftエルゴノミクスデザインの秘密(1/2)

Microsoftでただ一人のエルゴノミスト ハードウェア開発者であるHugh McLoone氏が来日。マウスやキーボードといった同社のエルゴノミクスデザイン製品がどのように開発されているのか、その秘密を明かした

 「エルゴノミスト・キーボード」というと、ほとんどの人は曲線、そして左右にキーが分割して配列された「Natural KeyBoard」を思い出すだろう。Microsoftでただ一人のエルゴノミスト ハードウェア開発者であるHugh McLoone氏が、初めて日本のプレスに姿を現し「人間工学的入力デバイス開発」の現状を語ってくれた。


米Microsoft ハードウェア部門 プロダクト エルゴノミスト、Hugh McLoone氏。趣味は動物園に遊園地に庭園巡りとか

開発は実践的なトライ&エラーで行う

 McLoone氏が言うには「エルゴミスとはギリシャ語でエルゴ=仕事、ノモス=法則の二語が合わさった言葉。広義では仕事に関する法則、となるが、Microsoftではより具体的な任務が与えれている」(McLoone氏)。

 この「具体的な任務」とは、Microsoftの製品に「高性能」「快適性」「クライアントから望まれる」の3つの要素を付加することだ。

 彼が開発に携わっているのはキーボード、マウス、そしてトラックボール。これらの入力デバイスで、「3つのゴール」を獲得するのが、すなわちMcLoone氏の任務というわけだ。

 「人間工学に基ずく」となると、「こうするべき」という理論なりルールなり定石なりが存在して、それに則ったデザインがなされると思いがちだ。しかし、彼が話す実際の開発プロセスは、そんなスマートなものでなく、“リサーチ→思索→テスト”を繰り返す、地道なトライ&エラーの積み重ねだ。

 例えば、マウスの開発では、まずマウスの快適性を満たす要素を分析するために、多くのユーザーに対してアンケートを行い、そのアンケートで示された「手のひらとマウスが接触する部分が多いほど快適と感じるユーザーが多い」という結果に基づいて、マウス形状のデザインを行う。


手の接触面積を測るために、使った直後にサーモグラフィで撮影する。接触面積が多いと、マウス表面の温度の高い面積も多くなるわけだ。ユーザーテストの結果、一番接触面積が多くなる「サイズの大きいマウス」で快適度が一番高くなった


マウス形状の時系列変化。丸みを帯びてサイズが大きくなってくる形状変化が分かるだろう

 Mobile Optical Mouseでは、セールスターゲットであるノートPCユーザーのために、形状を小さくすることが求められた。そのため、まず、実現可能な最小ホイールサイズを技術セクションと議論した上(マウスのサイズがこの段階で決定する)で、大量のモックを作成し、数段階の試用テストを重ねながら最終的なフォルム、重さ、色、表面質感を決定していった。


今回McLoone氏が持ってきてくれたMobile Optical Mouseのモックの「3分の1」(McLoone氏)。一番手前の列は第1段階モック。次いで列ごとに第2段階、第3段階、第4段階と試作を重ねていく。モックの素材は初期試作にポリウレタン、後期試作ではしっかりした質感のある「レンフォーン」を使っている。重量再現試作には鉛粒が仕込んである

 とくにMobile Optical Mouseは日本向け製品でもあったので、日本ユーザーの好みもリサーチされている。その結果、欧米では非対称フォルムを好み、マウスにあたる手の位置を気にするユーザーが多いのに対し、日本では対称フォルムを好み、手のあたる位置については寛容に対処するユーザーが多いなど、ここでも、日本の特殊傾向が出てきている。

目指すのは「触って一番気持ちがいいもの」

 トラックボールの開発プロセスになるともっとユニークだ。

[長浜和也, ITmedia]

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