News 2003年3月10日 10:21 PM 更新

国立情報学研、“純国産”の情報共有支援システムを無償提供

国立情報学研究所が、インターネット上での教育/市民活動を支援する新システムを開発。4月からモニターを募集して100団体に無償提供する。安全かつクオリティの高い情報共有サイトを運営できるのが特徴という

 文部科学省 国立情報学研究所(NII)は3月10日、インターネット上での教育/市民活動を支援する新システム「NetCommons」をNTTデータポケットと共同で開発したと発表した。4月からモニターを募集し、NIIが公共性の高い100団体を選定してNetCommonsを無償提供する。「コミュニケーション支援型のe-ラーニングシステムが容易に構築でき、専門知識を持たない市民団体などでも安全かつクオリティの高い情報共有サイトを運営できる」(NII)。


「NetCommons」の画面構成と機能

 インターネットの普及によって、電子メール/メーリングリスト/電子掲示板/チャットなど新しいタイプの情報共有手段が一般ユーザーの間に急速に広がっている。そして、ネット上の活動を母体にして興味分野を共有する市民運動も生まれている。

 だがその一方で、ウイルスの流布やサーバへの攻撃といった“インターネット上の不正行為”も増加し、またITの知識を持たないために情報の共有/発信の機会を持てない“デジタルデバイド”の問題も浮き彫りになっている。

 NetCommonsの開発に携わったNII情報数理研究部門助教授の新井紀子氏は、「現実の世界で優れたノウハウやコンテンツを有している人材が、IT技術を持たないというだけで情報発信できないことは、これからのインターネット社会にとって大きな損失。ネット上で誰もが情報を共有するためには、柔軟性を備え、安全かつ簡単な仕組みの情報共有システムが必要」と語る。


NetCommonsの開発に携わったNII情報数理研究部門助教授の新井紀子氏

 「講演会や電話などで話した内容は共有しづらいが、インターネット上で交わした内容は、テキストデータとなって残る。つまり活動すればするほど、資料や教材となるテキストデータが情報として蓄積される。またネット上での活動によって、紙媒体によるニュースレターの発行経費や事務所管理維持費、会議などのコストを削減できる」(新井氏)。

 新井氏らが開発したNetCommonsは、全国の小中高生を対象にカリキュラムによらない学びの場として2001年5月から提供されているe-ラーニングシステム「e-教室」が前身となっている。


NetCommonsの前身となった「e-教室」

 「現在e-教室には、海外から参加者も含めて約250人が子供が、ネット上で学びのコミュニティを形成。遠隔教育のインフラとしての有効性が証明された」(新井氏)。

 そのため現在では、国立大学図書館協議会、神奈川ゆめコープ、一橋大学経済研究会、WILL(日本商工会議所マスターからなる情報通信技術指導者団体)など教育分野以外の各種団体が、e-教室に使われているシステムのプラットフォームを試験的に利用しているという。

 NetCommonsは、このように“導入する団体の性質や目的を選ばない”というe-教室の特徴を受け継いでいる。

 「参加者がコミュニケーションを交わすことで、新たなコンテンツを自動的に創造していく。また、すでにネット上に存在しているフリーのデジタルコンテンツや関連サイトが発信する情報を、効率良く簡単に活用するための仕組みが取り入れられている。このようなシステムは、これまでのe-ラーニング/情報共有システムにはなかった」(新井氏)。


NetCommonsが構築する情報共有システムのイメージ

 NetCommonsでは、OS、Webサーバ、データベース、アプリケーションサーバ、情報共有用の各種アプリケーションが1パッケージに統合。利用団体はこのパッケージをサーバにインストールするだけで、すぐに情報を安全にやりとりできる会員制情報共有サイトを開設することができる。

 OSにはLinux(RedHat Linux)を使い、WebサーバはAppache、データベースはPostgreSQL、LDAPサーバはOpenLDAPと、下層レイヤはオープンソースで構成されている。会員管理システムと情報共有アプリケーションをNIIとNTTデータポケットが共同開発し、アプリケーションサーバはNTTデータポケットが販売する「Wonder Portlet」を使用。


NetCommonsのプラットフォーム構成図

 「唯一、有償のアプリケーションサーバも、NTTデータポケットから格安でNIIに提供してもらった。会員管理システムと情報共有アプリケーションも、将来的にはオープンソース化していく予定」(新井氏)。

 このようにNetCommonsは、上層レイヤの部分がすべて“純国産”なのが特徴。従来のe-ラーニングシステムやコミュニティ支援システムは、米国製や韓国製など“外国産”が中心だった。

 「特に教育コミュニティを支援するシステムの開発と導入において、日本は欧米に遅れをとっている。NetCommonsは、“コミュニティ形成機能”という従来のシステムにはない機能を持った純国産のe-ラーニングソフト。前身となるe-教室で1年間以上実績を積んできた。この分野で外国産システムをしのぐクオリティを持つ純国産システムが開発されたことは意義深い」(NII)。

関連リンク
▼ 国立情報学研究所(NII)

[西坂真人, ITmedia]

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