News 2003年3月17日 09:53 PM 更新

マヤ遺跡のVRツアーが家庭でも――TAO、「マヤ文明展」でSVR技術を披露

国立科学博物館で開催される「神秘の王朝―マヤ文明展」で、通信・放送機構(TAO)が世界最大規模のVRシアターを設置。そこで取り入れられたSVRと呼ばれる新技術によって、将来的には家庭でも博物館のVRシアターを体験できるという

 通信・放送機構(TAO)は、東京・国立科学博物館で3月18日から開催される「神秘の王朝―マヤ文明展」に世界最大規模のVR(バーチャルリアリティ)シアターを設置、SVR(スケーラブル・バーチャル・リアリティ)コンテンツ生成および共有技術の研究成果を発表する。一般公開に先駆けた3月17日、マスコミ向けにVRシアターの説明会が行われた。


東京・国立科学博物館で催される「神秘の王朝―マヤ文明展」。開催期間は3月18日から5月18日まで。

 「マヤ文明」と聞いて、どんなことを想像するだろうか。

 紀元前3世紀から後9世紀頃に中米諸国とメキシコ南部で開花したこの文明は、優れた天文学・数学の知識や高度な建築技術、想像性豊かな芸術センスなど、高い文明を持っていた。だが解明されていない部分も多く、その謎を取り入れたミステリー物も少なくない。30代の筆者が小中学生の頃は、手塚治虫のコミック「三つ目がとおる」や、日本ファルコムのAVG「太陽の神殿」などで、マヤの古代神秘に思いをはせたものだ。

 “謎の文明”といわれていたマヤ文明の研究が、近年急速に進んでいるという。理由は、難解といわれていた「マヤ文字」の解読が1980年代以降の研究で進み、現在約8割が解読し終えたからだ。それに伴い、マヤ文明の解明に科学的なメスを入れようという試みが行われている。


マヤ王の儀礼の姿を描いたマチャキラ石碑。王のまわりに描かれた四角い模様がマヤ文字だ。儀礼で行う一連の儀式が記録されている。815年頃のもの。

 今回の「マヤ文明展」では、このような“新しいマヤ考古学”をベースにした展示を実施。さらに従来の考古展にはない「バーチャル考古学」を取り入れている。考古学の研究成果をバーチャルリアリティによって可視化するこの研究手法は「仮想考古学」と呼ばれ、近年注目を集めている。

 このバーチャル考古学の1例として用意されたのが、TAOの「コパン遺跡VRシアター」だ。


TAOの「コパン遺跡VRシアター」

 コパン遺跡VRシアターは、参加者があたかも専門家に先導されながら本物のマヤ遺跡を歩いているかのような臨場感を体験できる。13.5(幅)×4(高さ)メートルの曲面スクリーンを装備した高精細VRシアターが設置され、SGIのグラフィックスワークステーションOnyx3400を使って大型スクリーンに滑らかな映像を表示。ゲーム機の操作パッドのようなコントローラーを使ってスクリーンに広がるCG映像を自在に操作し、マヤ文明最盛期に栄華を誇ったコパン王朝の遺跡内を、VR技術を駆使して意のままに移動することができる。


巨大曲面スクリーンを装備した高精細VRシアターを設置

 このVRシステム自体は、凸版印刷が2000年4月にトッパン小石川ビル内に設置したVRシアターと同じもの。中国・故宮博物院の文化遺産をVR技術を使って体験できる「故宮VR」といったプロジェクトで実績のある凸版印刷が、今回のVRマヤ遺跡のコンテンツ制作にも協力している。


コントローラーを使ってスクリーンに広がるCG映像を自在に操作し、遺跡を散策できる

 今回のポイントは、VRシアターの外部にネットワークで接続された小型VRシステムが複数台設置されている点だ。家庭用PCを使ったこの小型VRシステムでは、シアター内と同じVRコンテンツを体験することができる。これは、TAOが研究を進めるSVR(スケーラブルバーチャルリアリティ)技術によるものだ。


VRシアター外部に小型VRシステムを複数台設置。シアター内部とはギガビットイーサネットで接続されている。小型VRシステムは家庭用PCをベースにしており、Linuxで動作。デモ機はXeonのデュアルCPUだったが、Pentium 4/2GHzでも十分に動作可能という。ただし、グラフィックボードは高性能なものが必要とのこと。デモ機ではGeForse 4 Tiシリーズを使用。

 SVRプロジェクトのプロジェクトリーダーを務める東京大学先端科学技術研究センター教授の廣瀬通孝氏は「SVRとは、VRによる疑似体験をあらゆる大きさ(スケーラブル)のコンピュータ端末で可能にする技術。今回の展示会のように大規模なVRシアターを設置できる施設は少なく、また小中学校などにVR設備を置いていこうとするとPCレベルでの動作が不可欠となる。今回のVRシアターは、SVRの実証実験の1つとして出展した」と語る。

 マヤ文明展の会期中には、シアターの大型システムにネットワーク接続された複数台の小型システム(PC)を、博物館と学校とを接続した新教育システムに見立てて、教育現場へのVRシステム適応を探る予備的実験も行われるという。「将来的には、家庭でも博物館のVRガイドツアーを体験できることを目指している。今回のコパン遺跡のコンテンツは、ホンジュラスで撮影した写真3000枚をテクスチャとして貼り付けている。コンテンツの容量はちょうどCD1枚に収まる程度(約700Mバイト)。ADSLでは難しいが、FTTHが普及すればネットワーク経由で楽しめる」(TAO)。

 従来の博物館は、さまざまな出土品をギャラリーに並べるという手法だった。これでは、遺跡全体のスケールやその時代に営まれた生活の様子などを想像するのが難しかった。コンピュータのシミュレーション技術を使って、このような問題を少しでも解決しようというのがVRシアターが目指すところだ。

 「本格的なVR技術を博物館に導入したのは、世界的に見ても今回が初めて。コンピュータというエレクトロニクスの最先端技術と、考古学という過去を研究する技術という、両極端な技術・学問分野が融合したという点でも意味深い」(廣瀬氏)。

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[西坂真人, ITmedia]

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