News 2003年4月21日 01:04 PM 更新

ウェアラブルコンピューティング
ヒトもカラスも――次のステップへ進むウェアラブル技術(2/2)


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 志水教授は電子回路、オプトエレクトロニクス、光コンピュータ、立体テレビ、ウェアラブルコンピュータの研究に従事し、イメージ情報科学研究所ハイパーイメージメディア研究グループリーダーでもある。当然、ウェアラブルの強力な実践者の一人だ。

 志水教授は、「ウェアラブルシステムをコンピュータから衣類へと位置付けることが、21世紀の基幹技術となるウェアラブルコンピューティングを実現するだろう」として、既成概念から脱却した新しいウェアラブルコンピューティング像を提示した。

 新しい衣装としてのウェアラブルコンピュータは、生理センシング、パートナーコンピュータとして動作し、人間自身の能力──例えば記憶、コミュニケーションなど──を拡大してくれる。

 服に光ファイバーを埋め込んで傷の位置、具合などがわかるTシャツ(軍事用)や靴にコンピュータを埋め込んで歩数や活動状況などを把握するような技術も考えられている。


軍事用では、光ファイバーを埋め込んだTシャツによって傷の場所などがわかるというような研究も進んでいる

 軍事技術は実用になっているのかどうかが不明だが、靴のなかのコンピュータは、マラソン大会でゴール時間や順位を自動収集するシステムが株式会社アクティブライフ社やテクノプラン社、シチズン時計などによって開発され、すでに「東京・荒川マラソン」などで使われた実績がある。

 RFID(Radio Frequency IDenitification:非接触型ICタグ)によるマラソン情報では、ランナーズ社が参加選手のラップタイムやゴール予想時刻をiモードやインターネットに流す「GTメールズ」というサービスを始めているほどだ。数千人から1万人規模の大会で、スタート位置などにかかわらず正確なタイムをほぼリアルタイムで計測できる「ウェアラブル・マラソンシステム」は、これからのスポーツにはなくてはならない存在となるだろう。

 ウェアラブルの衣装の多様性では、大きく分けて2つの方向性があることを志水教授は指摘した。

 ディスプレイでは、(1)そのディスプレイで自分を演出し他人に情報を提示するのか、(2)自分で見るのか、という方向性の違いがあるというわけだ。

 ディスプレイで自己を演出するためには、LEDのような光るディスプレイや少量の文字を表示するディスプレイを使うだけでも十分に主張が可能である。ディスプレイを付ける場所も胸とか腕とか、あるいは背中といったような位置になる。


靴も光る

 一方、自分で何か情報を見るのだとすれば、文字にしろ映像にしろ、それなりの大きさで解像度のディスプレイが必要になる。代表的なものはHMDだが、それ以外にも腕に付けるなどの方法もとれる。

 腕に着ける場合でも、腕時計の文字盤のように、他人に見せるのと自分が見るのとでは、ディスプレイの位置は反対向きになるだろう。

 しかし、他人に見せるか自分が見るかの違いはあっても、ウェアラブル機器を身に着ければ、そこにはこれまでになかった新しい機器を付けている、という自己表現ができることになる。このとき、これまでは「自分で見る=HMD」という位置付けばかりが注目されていたが、実際には、「見られる」ことを意識した衣装としてのウェアラブルという方向性が大切だというのだ。


袖のディスプレイ。確かにHMDよりも自然で見やすい

 ただし、こうした可能性を示したものの「HMDはシンボル的な存在ではあるが、現場に行くとボロクソ」と手厳しい指摘も行われた。

 実際の使用では耐久性や使いやすさを加味した研究も重要であり、「学生は一度動けば動くというが、それでは広まらないし価値もない」と実装テストの重要性を歯切れの良い言葉で強く訴え、会場の賛同を得ていた。



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[美崎薫, ITmedia]

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