News:アンカーデスク 2003年4月28日 09:51 PM 更新

進化しない家電は無意味だ(1/2)

かつて家電は進化しないことこそが大事だとされてきた。一般のコンシューマーに家電のソフトを更新させるのは容易ではないし、それゆえ高価になり勝ち。つまり売れなかったのだ。だが、これからはそうした家電のあり方も変わってくるだろう
顔

 先日思うところがあって、PC周りのオーディオ配線をやり直した。今まではPCにストックしたMP3をオプチカルデジタル出力でAVアンプに送っていたのだが、サウンドカードにはアナログながらも5.1ch出力があるので、そっちも配線してみようと思ったのだ。

 普段筆者は原稿を書くときに、BGMとして音楽をかけっぱなしにしている。だが2chで鳴らすと音楽がまっすぐに聞こえすぎてしまい、集中力を削がれる時があるので、いつもはAVアンプで疑似的に5.1chに振り分けて聴くことにしている。

 試しにPCのサウンドカード側の機能を使って疑似5.1chを試してみたところ、これが思いのほかいい。AVアンプの疑似5.1chでは単にそれを選択するだけだが、サウンドカードのほうはサブウーファのリダイレクション周波数やリバーブ音の付加、それらを含めた環境設定など、非常に充実した設定が楽しめる。

 2年前に7万円もしたAVアンプよりも、2カ月前に9800円で買ったバルクのサウンドカードのほうが、バーチャルサラウンド技術では明らかに優れているのである。エンコード/デコード技術は、PC上で日々進歩する。それに対して進歩が固定されたハードウェアは、たった2年足らずで時代遅れになってしまったのだ。

 この事実からすると、PCベースで開発が進められているコーデックやアルゴリズムのようなものをハードウェアに載せることは、メーカーにとってリスキーだということになる。

 例えばビデオ/オーディオコーデックとしてWindowsMedia9などは出所もしっかりしているし、割と期待していいんじゃないかと思われる。今年初めのCESでは、Polaroid社がWM9で映像をエンコードしてCD-Rに書く、というハードウェアを参考出品していたのを思い出す。


Polaroid社のブースに展示されていたWM9ベースのビデオレコーダ

 だが日本の家電メーカーでは、松下電器産業(Panasonic)のDVDプレーヤーが再生機能の一つとしてWM9をサポートしている程度で、今ひとつ業界全体として積極的になれないようだ。1年足らずで劇的にパフォーマンスがアップして次のバージョンへ移行してしまうようなソフトウェアコーデックをシリコンチップに焼き込んでしまうというのは、コストとしてはかなり厳しい話だろう。

 この現象をいち早く察知し、経営戦略的に大成功を納めたコーデックがある。Dolby Laboratoriesのオーディオコーデック、Dolby Digitalだ。

Dolby Digital成功の秘密

 Dolby Laboratoriesは、基本的にはハードウェア屋さんである。アナログ時代からDolbyA〜Cといった音質補正技術は、評価も高かった。コンシューマーでは、カセットデッキにDolbyCあたりが載っていたのを覚えていらっしゃる方もいるだろう。プロのほうでは、海外からインポートした映画のマスターとなる1インチテープは、たいていDolbyAでエンコードされていたものだ。

 現在彼らの主力商品であるDolby Digitalは、NTSC用DVDフォーマットでは標準オーディオコーデックの座を占めている。あまり意識されていないようだが、コンシューマーのHDD/DVDレコーダでは、テレビ録画時のオーディオはDolby Digitalで記録している。

 多くの人が昔のDolbyという名前のイメージで誤解しているのではないかと思うが、Dolby Digitalのオーディオ品質は、決して良いものではない。試しにDVDレコーダで録画したテレビ番組をヘッドホンで聴いてみるといいだろう。オリジナル(放送中)の音声に比べて著しくS/Nが低下しているのが聞き取れるはずだ。

 Dolby Digitalという圧縮技術は、DVDの規格が決まった1996年の時点ではベストな選択だったかもしれない。しかしそれから7年も経った今では、もっといいオーディオコーデックが沢山ある。

 彼らの商売のうまいところは、たとえ技術が進歩しても、すでに世の中に出回っているコーデックをバージョンアップしようしないところだ。ある時点での完成形で製品化したら、その時点で成長を止める。だからハードウェアメーカーは採用しやすいのである。

[小寺信良, ITmedia]

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