News:アンカーデスク 2003年5月28日 08:33 AM 更新

モナーはFlashに乗って海を渡る(2/2)


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 ウェブログ文化は表向き伝えられているイメージよりは、よほどギーク(オタク)的である。一般的な市民の関心がフットボールの結果に向いているときでさえ、彼らは新しいWebテクノロジーやAppleの新製品、トイレットペーパーで作られた奇怪な芸術作品、日本製のネコ用ドレスetc――にこぞってリンクを張り、あるいは最新のニュース画像を面白おかしくコラージュして、そのデタラメぶりを競い合っている。

 もちろん、フットボールの結果や政府の経済政策について意見を述べる個人ウェブログも増えてはいるが、相変わらずアクセスを集めるウェブログはこの種の風変わりなものだ。

 「ニューヨーク・タイムズが指摘したように、Slashdot(*)はアメリカのギークの駆け込み寺となった。それはリトルトン事件(**)の後に浮かび上がってきたサブカルチュア現象であり、ネットとウェブのお陰で、広く議論の対象となったものだ。アメリカでは、他人と異なる、個性的な子供たちが辛い目に遭うのは当然、と見なされている。」(ジョン・カッツ著、松田和也訳『ギークス GEEKS』217頁)。

(*) ウェブログムーブメント以前から存在したNerds(オタクたち)のためのコミュニティサイト。

(**)1999年、米コロラド州リトルトンのコロンバイン高校で起きた銃乱射事件のこと。犯人の生徒がマリリン・マンソンを愛聴するオタクであったことから、事件以降、全米各地でオタクバッシングが巻き起こったとされる。

 ネットカルチャーについて考えるとき忘れてはならないのが、「どのクラスにも1人はいる、パーティやスポーツよりも教室の片隅で風変わりな本を読んだりマニアックな音楽を聴いたりすることを好む人種」が大いに幅をきかせている世界だということだ。

 ネット上であれば、教師やクラスメート、スーツ姿のホワイトカラーたちが顔をしかめるようなトピックについて、世界中に散らばる「クラスに1人」の変わり者たちと自由にやりとりができる。

 初期ウェブログカルチャーがジャーナリストたちによって子供じみたものと攻撃されていたのは、必ずしも偏見のせいばかりとはいえない。そこでは健全で当たり障りのないトピックより、一般のメディアが取り上げないような風変わりな物事や奇をてらったように見える意見のほうがもてはやされ、ミーム(文化的遺伝子)となってネット上を駆け回る。

 ある日本の識者は「日本の個人サイトはオタク系ばかり」と嘆く。

 確かに、プロのジャーナリストや大学教授による“見識ある”ウェブログが注目を集めているような現象は日本ではまだ起きていない。しかし日本の識者たちがジャーナリズム性を意識して、まじめなウェブログ論を打ち立てている一方で、バカバカしいトピックを画像入りで矢継ぎ早に見せる日本の個人ウェブログは、英語圏のみならずスペイン、イタリア、ブラジル等々各国のウェブログから参照され、貴重な情報源として愛されているという事実がある。

 2ちゃんねるでやりとりされている内容やそこに集う人々は、やはり健全な人々からはさげすまれてはいるけれども、既存の社会から疎外されがちな彼らが作り出す奇妙な文化は、言語の壁を乗り越えて、ある種の人々を確実に魅了している。

 FraserくんはFlashを見るだけでは飽き足らず、筆者を含む日本人に「なぜモナーはこれほどまでに人気があるのか」「モナーとはどんな生き物なのか」といった質問メールを送信し、返ってきた答えをもとに「モナーの歴史」を書き上げた。

 さらに99個の日本製Flashを集めたページ「Mona and Giko Cat」を作成した。まったく理解できない日本語の壁を乗り越えて、彼はFlashムービーを1つ1つ吟味し、意味を理解しようとしているのだ。その労力は並大抵のことではない。

 こうした動きを見て、「外国人が馬鹿げた日本文化を見てあざ笑っているだけだ」と恥じいったり、「侮辱された」と怒りをあらわにする向きもあるだろう。

 確かにそういう面もあるだろう。しかしただバカにしたいだけなら、大掛かりなコスプレをしたり、リンク集を作る手間をかけるまでもない。そこには近くて遠いシュールな外国文化を笑うとともに、「クラスに1人」の感性を世界中に見出そうとする切実ささえ感じられる。

 もちろん、風変わりな文化こそがウェブログの本質だ、とまで言うつもりはない。しかし現実社会ではあまり省みられることのない感性が共有されることは、Webカルチャーの持つ看過できない側面のひとつである。

 さらに情報の流通を効率化させるウェブログは、言語や国籍を超えた文化間交通をネットユーザーたちにもたらしている。そういったことに一切の価値を見出さない人々が大半であろうとも、映画『ボウリング・フォー・コロンバイン』を見た人なら、画一化された価値観から逃げるすべのない社会が深刻な事態を引き起こしうるということは容易に想像できるだろう。

 ウェブログのジャーナリズム性や社会学的な価値が論じられるときに、こういった話が語られることは少ない。とはいえ、ウェブログ論に熱心な人々を横目で見ながら海外のサイトを読み漁るネットユーザーたちにとっては、あらためて長々しい文章を読むまでもなく、わかりきったことではあるに違いない。

堀越英美氏は、とあるIT会社でコツコツ働くフツーのOL。



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[堀越英美, ITmedia]

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