News | 2003年5月30日 10:37 PM 更新 |
「レッツラー」と呼ばれる熱烈なるファンの声に答えるべく、トラックボールモデルを最後まで残していたLet'snoteシリーズ。
Let'snoteの開発陣は、これと思い込んだら、どこまでもこだわりどこまでも突き詰める。ただし、彼らの「こだわり」は、古いものにしがみつく頑迷なものではない。ノートPCの新しい使い方を創出してきたのも、また彼らである。最新のパーツをいち早く取り入れるのはだれでも出来るが、時代を先取りした新しい使い方の提案は、それなりの技術と知識とひらめきがないと出来ることではない
今のように、ワイヤレスLANが流行するはるか昔から、PHSを使った野外ネットワーク機能を取り入れたのもLet'snoteならば、1.6kgというB5ファイルサブノートのきょう体に光ディスクドライブを内蔵して、業界をあっと言わせたのもLet'snoteだった。
そんなLet'snote開発陣が今夢中になっているのが「軽量化」と「長時間バッテリー駆動」の両立。例によってその入れ込みは思いっきり激しい。製品発表会で「世界最軽量」を謳うために、はたまた、1kgを1円玉1枚分軽量化するために、開発現場で行われる重量コントロールは非常に厳しい。開発者自身も身を削るような思いでいるに違いない。
そんな、厳しい開発現場でLet'snote LIGHT T/Rシリーズ、W2を設計してきた松下電器産業 テクノロジーセンター ハード設計第1チーム主任技師 星野央行氏と同機構設計チーム主席技師 島田伊三男氏に、Let'snoteの軽量化を実現させる「匠の技」を紹介していただいた。
ノートPCで軽量化を実現する場合、基本的に2つのアプローチで挑戦することになる。一つはフットプリントの削減。サイズを小さくして軽量化を図る方法だ。Let'snoteシリーズは、競合他社製品と比べて少々厚く見えるデザインを採用しているのはそのためだ。
ほかのメーカーが薄型化を極めているなか、このアプローチは異質に感じるかもしれない。「でも、ここまで薄型化が進んでくると、ちょっとだけ薄くしても軽くなるのはほんのわずか。多少厚くても、底面積を詰めていくほうが、効果的に軽量化できる」(星野氏)
もう一つのアプローチが、きょう体を構成するパネルの厚さを薄くすることだ。従来、Let'snoteのきょう体パネル厚は0.8ミリ。これはB5ファイルサイズで強度を維持するにぎりぎりの厚さである。ところが、Tシリーズで要求された「12.1インチ液晶パネルを搭載して1kgを切る軽さ」を実現するには、パネルの厚さを0.55ミリにしなければならなかった。
薄いパネルを作るだけなら大したことではない。問題は、薄さとトレードオフの関係にある強度にあった。日本の都市圏で使うノートPCには、ユーザーが鞄に入れてに満員電車で通勤しても、十分耐えられるだけの強度を持たせなければならない。
「体中に圧力センサーを巻きつけて、満員電車に乗り込みました」(島田氏)といった過程を経て、調べられた必要強度を実現するために、Let'snote LIGHT Tシリーズではクロスディンブル構造を採用している。これは、0.6ミリ厚の部分と0.5ミリ厚の部分を格子状に配列したもの。このおかげで「均一な0.55ミリ厚のパネルにするよりも強度が増しています」(星野氏)。
ノートPCのパネル素材は、通常、強度が大きい最高規格のAZ91D(アルミ含有率9%、耐性160MPa)が採用される。Let'snote LIGHT T/RシリーズもこのAZ91Dを使っている。
ところが、本体に光ディスクドライブを内蔵したために、より厳しい軽量化が求められたW2は、AZ31B(アルミ含有率3%程度、耐性150MPa)を採用した。これは、比重1.81のAZ91Dより、比重1.74のAZ31Bのほうが軽量化に有利なためだ。
強度が劣るAZ31BのパネルでAZ91D相当の強度を出すため、W2のパネル形状はT/Rシリーズのボンネット構造をさらに複雑にした「ダブルボンネット構造」を採用している。AZ31Bの成型は、素材を加熱してプレスする「プレスフォージング」で行われているが、複雑な形状のプレスを成功させるには「加熱温度とプレス時間を最適化するために100パターン以上のテストが必要だった」(島田氏)。
また、マグネシウム純度が高いAZ31Bは、腐食しやすい特性がある。これを防ぐために表面に防錆剤を添付するが、「この薬剤も新しく開発している」(島田氏)。なんと、W2の軽量化は新しい防錆剤の開発までも必要としたのである。
新しい薬剤を開発してまで、Let'snote開発陣は「1g単位の軽量化」にエネルギーを注ぎ込むのか。
その理由は「技術者のプライド」にあると、記者は感じ取った。もちろん、軽量化の方向はユーザーの声を反映したマーケティングの結果である。しかし、いったん軽量化というアプローチが決定した後は、「そのナンバー1を達成しないと意味がない」(島田氏)という思いが、文字どおり身を削るような困難な開発に立ち向かう原動力になっているという。
「次の開発が始まるとき、実現不可能な課題が必ず要求される。途方に暮れるときもあるが、結局最後は製品が出来上がっている」(島田氏)という技術者がイニチアチブを取るLet'snote。次は何で我々を驚かしてくれるだろうか。
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[長浜和也, ITmedia]
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