News 2003年6月10日 02:06 PM 更新

「元祖」と「本家」で引き裂かれる.zip圧縮フォーマット

圧縮フォーマットの事実上の標準である.zipの拡張で、混乱が生まれている。このフォーマットを開発したPKWareと、現在の市場リーダーであるWinZipとの間で実装に食い違いが出ているからだ。

 .zip圧縮フォーマットは安定性と互換性の高さで古くから知られているが、その評判は変わるかもしれない。PKWareとWinZip Computingは圧縮・暗号化製品の競合メーカーだが、現在、.zip標準を巡って争っている。これは、片方のプログラムで作成された.zipアーカイブファイルが他方からはアクセスできないということを意味する。

 両社とも最近になって.zipフォーマットの実装方法を変更したばかり。WinZipはこの5月にWinZip 9のβ版をリリースし、.zipフォーマットを変更している。PKWareはこれに先立ち変更を加えているが、最近になってフォーマット変更に関する規格の詳細を公開している。

 PKWareは.zipフォーマットの考案者であるフィル・カッツ氏が設立した会社で、カッツ氏は2000年に亡くなっている。カッツ氏は.zipフォーマットをオープンスタンダードにすることを決め、プログラムを作ろうとする人なら誰もが仕様を読み、利用することができるようにした。このオープンスタンダードにより、PKWareの競合製品であるWinZipが開発され、いまや市場では大勢を占めている。

変更自体はポジティブなもの

 .zipフォーマットもずっと変わらないままではいられない。適切な暗号化技術が欠けているという大きな問題が存在する。長い歴史を持つ.zip 2.04g規格が持つパスワードプロテクションは、手慣れたハッカーを食い止めることはできない。

 PKWareはこのニーズに応え、認証ベースのセキュリティや256ビットAES暗号化といったオプションを徐々に提供し始めた。

 最近リリースされたばかりのWinZip 9にも256ビットAES暗号化が含まれている(認証はない)。どちらのプログラムもAESを使っているが、暗号化されたアーカイブに互換性はない。

詳細は公開せず?

 PKZipの暗号化が市場に先に出たのに、WinZipはなぜ互換性を保とうとしなかったのか? それは、PKWareがWinZipにその方法を教えなかったからだ。PKWareが最近になってリリースするまで、同社が提示する.zip規格は2001年から更新されていなかった。暗号化の詳細は公開されていなかったのだ。

 「互換性を確保するために、われわれは長い時間をかけてきた」とWinZipテクニカルコンサルタントのケビン・カーニー氏。「そうしたらPKWare自身が何か(暗号化)規格にないものを組み込んできた」ため、WinZipでは独自でやることに決めたのだという。

 PKWareの新しい規格も十分ではない。認証ベースの暗号化に関する重要な情報が抜けているからだ。この機能は1年前のPKZip 5.0 for Windows登場時に組み込まれたが、PKZipは他のプラットフォーム(特にメインフレーム)向けには未実装である。そして、PKWare自身、この技術は未完成だと考えている。

 「認証ベースの暗号化はまだ作業中だ」とPKZipの最高技術責任者であるジム・ピーターソン氏は語る。「内容を公開していないのは、まだ付け加えるものがたくさんあるからだ」とピーターソン氏。

 WinZipのカーニー氏は、この主張に懐疑的だ。

 「彼らはこの技術を自分たちだけのものにしようとしており、圧力が強まれば、その情報を小出しにしていく……。オープンスタンダードだと主張するのなら、それに反することをすべきではないと、われわれは彼らに対し、正当に要求できると考えている」とカーニー氏。

 対照的に、WinZipは5月12日に新しい規格をリリースし、同日、暗号化を実装したバージョン9のβ版を公開した。

 しかし、製品が完成しないうちに規格が出てくることはあってはならないとPKWareの最高マーケティング責任者、スティーブ・クロフォード氏は反論する。同氏はPKZipにWinZipの追加機能を組み込むかどうかについては述べなかった。「たとえ、β製品だとしてもだ」。ならば、製品版が出たら? 「それは、そうなってから考えることにしよう」とクロフォード氏。

ほかに選択肢は?

 この2社以外にも.zip互換プログラムを販売しているところはあり、彼らは妥協点を見いださなければならない。しかし、WinZipと同様、PKWareの意図に疑いの目を向ける会社もある。

 「われわれの調査で分かったのだが、PKWareは拡張部分すべてを明らかにしているわけではない」と、圧縮プログラムのStuffItで知られるAladdin Systemsのプロダクトマネジャーであるマシュー・コビントン氏。

 同社の戦略は? 「われわれは、両方のバージョンを完全にサポートすることを目標としている。PKWareが情報を提供しないというのであれば、当社は明らかに(PKZipを)サポートできない」とコビントン氏。

 PentaZipのメーカーであるPentaWareも、Aladdinと同様に暗号化を選ぶか、互換性を選ぶかのジレンマに陥っており、高度な暗号化オプションには.zipの拡張子を使わないという道を選んだ。

 例えば、PentaZipでPGP暗号化を選択すると、そのファイルには.zip.pgpと、拡張子が二重で付くことになり、Windowsでこれが.zipファイルとして開かれることはない。PentaZipでは暗号を解除し伸張するプロセスを1ステップで実行できる。最初はPGPをサポートするプログラム(たくさんある)で暗号解除し、.zipに対応したプログラムで伸張するという、2ステップの方法も利用できる。

 Aladdinと同様、PentaWareではWinZipの変更部分をサポートする予定だ。PKZipの新しいアプローチもサポートする計画である。

よいニュースも

 PKWareもWinZipもファイルをアーカイブする際に暗号化オプションをデフォルトにしてはいない。つまり、いましばらくのあいだは大多数の.zipファイルが古い、共通フォーマットを引き続き使い続けるということだ。

 しかし、95%は問題ないとしても、残りの5%は混乱が起きるかもしれない。

 「.zipファイルは.zipファイルであって、やっぱり.zipファイルだということはずっと引きずらなければならない問題だ」とAladdin Systemsのコビントン氏。「普通のユーザーにとって、開けない.zipファイルは、壊れた.zipファイルを意味する」と同氏。

[Lincoln Spector, IDG News Service]