News:アンカーデスク 2003年6月23日 10:15 PM 更新

米富士通PCに学ぶ「不況下のPC販売」のコツ(1/2)

PC市場の落ち込みが激しい。デルを除く多くの大手PCベンダーは赤字に転落したとも言われている。そんななか、規模は小さいもの10%に達する利益率を出しているベンダーがある。富士通の米PC販売会社「Fujitsu PC」だ。彼らはなぜ「稼げて」いるのだろうか。
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 低調だった昨年のPC市況。日本ではコンシューマー市場の落ち込みが顕著だったが、米国では企業ユーザーの買い換え需要が予測ほどに伸びなかったことが、PCベンダーの利益を奪った。製品単価の下落とともに、デルコンピュータ以外のほとんどのPCベンダーが赤字を計上した。  そうした中、ビジネスの規模は小さいものの、PC販売子会社として堅調な利益を挙げている日本企業がある。富士通の完全子会社「Fujitsu PC」(本社=カリフォルニア州サンタクララ)」だ。

 同社はここ数年、確実性の高いバーティカル(垂直)市場向けのペン型コンピュータで利益を上げている。最近はノートPC販売も好調だという。

 ニューヨークで開催されたIT技術の総合展示会CeBIT Americaのために訪れていたFujitsu PC社長兼CEOの諸星俊男氏に話を伺った。

不況下に過去最高益

 Fujitsu PCは、富士通が持っていたペンコンピュータ専門のコンピュータ販売子会社と、PCの販売子会社を統合して生まれた、富士通100%出資の販売子会社。日本では富士通と言えばITに特化した巨大なグループ企業として高い認知度があるが、米国でのブランド力はほとんどなかった。

 現在でも日本での富士通ブランド、欧州での富士通シーメンスブランドに比べると、米国でのFujitsuは「PC雑誌に広告を打っているパソコンメーカー」というイメージが最近どうにか定着した程度。巨大なPCビジネスを展開しているというわけではないという。

 サンタクララにある本社は150人程度の規模にしか過ぎない。具体的な数字は公開していないそうだが、Fujitsu PCの事業規模は日本や欧州の数分の1だ。

 ところがFujitsu PCはここ数年確実に利益を上げ、今年は10%を超える利益率を達成している。「昨年は過去最高の業績を残すことができた。われわれは非常に小さなビジネスユニットで、確実に利益の出る分野にフォーカスしたビジネスを展開することで業績を引き上げている」(諸星氏)

 従来からのバーティカル向けソリューションと共に、Web販売ビジネスが軌道に乗ったためだ。同社は個人や小規模事業者を対象にしたWebダイレクト販売を行うと共に、大手顧客向けのポータルサイトを提供するなど、現代的なWebベースのPC販売およびCRMシステムを整備している。

 実はこれだけの厳しい状況下において、PC事業単体では、富士通は日本、米国、欧州のすべての地域で黒字を達成した。富士通全体の経営状態が悪化し、財務体質が悪くなっていく中で、突出した数字ではないものの堅実な数字を残す。

 一見、Fujitsu PCのやり方に「他とは違う」ところは見受けられない。ではなぜ、彼らのビジネスに確実性があるのか?

“損を出さない体質”の徹底

 諸星氏の話をまとめると、その極意は“損を出さない体質”の徹底にある。例えば、Fujitsu PCは店頭販売において、無理な戦略を絶対にとらない。

 「大手販売店のBestBuyなどは、毎月のように取引条件が変化する。彼らは彼ら自身に都合のいいように条件を変えようとするから、BestBuyでの展示数や販売量を維持しようとすると、どうしても月によって大きなリスクを背負う場合が出てしまう。だが、われわれは彼らの方針変更にいちいち付き合うことはしない」と諸星氏。

 そのため、BestBuyにおけるFujitsu PC製品の売り上げは月ごと極端に上下する。「それでも損をするよりはマシ。BestBuyでの展示面積を確保するために損を出してまで商品を並べるのは愚かだ。商売において“損をしても構わない”場面などない」(諸星氏)

 こうした例と同様に、Fujitsu PCは販売チャネルの拡大を狙って、大手流通、販売店などが出す不利な条件の契約を飲むといったことを一切してこなかった。

 米国において新参のベンダーが、有利な条件で流通・販売業者と契約できるケースはほとんどない。市場規模拡大を目指して、不利な条件でも大量の製品を店頭にまくといったやり方は、とんでもなく大きなリスクを背負い込むことになる。

 例えば大量の仕入れをした上で、販売報奨金を受け取り、商品の箱を従業員が空けて全部返品するといったことは日常茶飯事に起こる。誰もが知る大手業者でも、販売現場のマネージャレベルが、報奨金目当てにそうした不正を行ってしまう。

[本田雅一, ITmedia]

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