News 2003年7月22日 08:17 PM 更新

自社開発の“新撮像素子”とは?――ニコン「D2H」発表

ニコンがレンズ交換式一眼レフデジタルカメラ「ニコンD2H」を発表。プロ向けでは約2年半ぶりとなる今回の新製品には、自社開発のイメージセンサー「LBCAST」が搭載された。CCDともCMOSセンサーとも違うという、新しい撮像素子とは?

 ニコンは7月22日、同社独自開発の撮像素子(イメージセンサー)を使ったプロ向けのレンズ交換式一眼レフデジタルカメラ「ニコンD2H」を発表した。10月下旬に発売し、価格は49万円。


独自の撮像素子を使ったプロ向けレンズ交換式一眼レフデジカメ「ニコンD2H」

 2001年2月に発表したD1X/D1H以来、プロ向けでは約2年半ぶりの新機種投入となる今回のレンズ交換式一眼レフデジカメ新製品には、さまざまな噂があった自社開発の撮像素子「JFETイメージセンサー“LBCAST(Lateral Buried Charge Accumulator and Sensing Transistor array)”」が搭載された。


自社開発の撮像素子「JFETイメージセンサー“LBCAST”」

CMOSセンサーとは、どう違う?

 デジカメの代表的な撮像素子には「CCD」と「CMOSセンサー」があるが、D2Hに搭載された新撮像素子「LBCAST」は、構造的にはCMOSセンサーと同じ「XYアドレス方式」の増幅型イメージセンサーとなる。この方式は、画素情報(電荷)をバケツリレー式に順次転送する「電荷順次電送方式」のCCDと違って、各画素のアドレス(X-Y)を指定して個々のデータを読み出すため、高密度な画素のデータを任意に取り出せるメリットがある。キヤノンのレンズ交換式一眼レフデジカメ「EOS-Dシリーズ」などは、このCMOSセンサーを採用している。


CMOSセンサーのXYアドレス方式(左)と、CCDの電荷順次電送方式(右)。新開発のLBCASTは、CMOSセンサーと同じXYアドレス方式を採用

 従来のCMOSセンサーは、画素データを取り出す検出トランジスタにMOSFET使っていたが、LBCASTは検出トランジスタに「JFET(Junction Field-Effect Transistor:接合型電界効果トランジスタ)」を使用し、単位画素内に埋め込み型の電荷蓄積部(フォトダイオード)と検出トランジスタ(JFET)を装備。二つの素子が必要だったCMOSとは違い、一つの素子で電子を電荷に変え、増幅することができるようになった。

 また、電荷蓄積部を横埋め込み型にすることで、JFETがゲートに挟まれた横型チャンネル構造の理想的な増幅素子となり、CMOSに比べて高感度で低ノイズという特性を発揮する。

 「特にCMOSセンサーに比べて暗電流が少なく、ダークノイズ(暗部のノイズ)を削減できる。画素信号は2チャンネル同時に読み出せるため、高速処理が可能。撮像素子の構造は、CMOSセンサーよりも配線構造がメタル1層分少ないほか、配線密度も小さく、コンタクトホール数も少ない。このような簡易な構造は、製造プロセス時のトラブルに強く、歩留まり向上に大きく貢献する」(同社)


LBCASTの画素構造

新撮像素子は“スピード重視”

 D2Hに搭載されたLBCASTは、23.3×15.5ミリサイズ(約1.8インチ)のニコンDXフォーマットを採用し、有効画素数は410万画素となる。スペックだけ見ると、撮像素子のサイズ的には従来のモデルと変わらないほか、画素数も昨年2月に発表したハイアマチュア向け「D100」に搭載されたCCD(有効600万画素)にも及ばない。だがD2Hのターゲットは、報道分野やスポーツ撮影でのプロユーザー。最大の“売り”は、その「スピード」だ。

 D2Hは、LBCASTの持つデータの高速読み出し/転送性能を生かして、410万画素の最大記録画素数(2464×1632ピクセル)のJPEG画像を1秒間に8コマ撮影でき、最大で40コマ(RAWデータで最大25コマ)までの連続撮影が可能。従来の高速撮影モデルであるD1Hが274万画素(2000×1312ピクセル)で5コマ/秒だったので、高速撮影と高画素化を両立させたカタチとなる。


D2Hの背面

 また、従来のD1シリーズでは約58ミリ秒だったレリーズタイムラグを、D2Hでは約37ミリ秒まで高速化。一瞬のシャッターチャンスに機敏に反応できる実力を持つ。

 「約37ミリ秒という速さは、銀塩カメラのハイエンド機F5と同じレベル。レンズ交換式一眼レフデジカメとしては世界最速となる。電源スイッチを入れた瞬間から撮影が可能になるなど、起動時間も大幅に短縮した」(同社)

 撮影画像から情報を取得するLBCASTのほかに、測光用の「1005分割RGBセンサー」と、環境光の計測を行う新開発の「環境光センサー」という3つのセンサーで、AWB(オートホワイトバランス)とATC(オートトーンコントロール)を高精度化。さまざまな撮影条件下/被写体で、的確な色再現と豊かな階調表現が行える。


ペンタカバー上部に設けられた新開発の「環境光センサー」。自然光と人口光の識別や、照明光の色温度も測定できる

 そのほか、電子回路設計の最適化によって大幅な処理の高速化を図った「画像信号処理エンジン」を新たに開発したほか、「マルチCAM2000オートフォーカスセンサーモジュール」を搭載した高速・高精度の11点測距AFシステムを採用した。

 同時にデジタルカメラ専用交換レンズ「DXニッコール」の新製品として「AF-S DX ズームニッコール ED17〜55ミリ F2.8G」(35ミリ判換算で25.5〜85.5ミリ相当、22万円)と「AF DX フィッシュアイニッコール ED10.5ミリ F2.8G」(同16ミリ相当、9万8000円)もリリースされた。両製品ともに、発売時期は未定だ。


デジタル専用ではないが、手ぶれ補正機構と超音波モーターを備えた大口径超望遠ズーム「AF-S VR ズームニッコール ED200〜400ミリ F4G」(98万円)も発表された。D2Hに装着すると、35ミリ判で300〜600ミリの超望遠ズームが手持ちで撮影できるのが魅力

 ボディ材質はマグネシウムを採用。PCインタフェースとしてUSB 2.0を備え、またオプションのトランスミッターを装着すれば無線LAN(IEEE 802.11b)を使ってFTPサーバにワイヤレスでデータ転送が可能。Type IIのメモリーカードスロットを装備し、コンパクトフラッシュのほかにマイクロドライブにも対応する。


Type IIのメモリーカードスロットを装備

 「LBCASTによって、D1X/D1Hと比べて撮影可能枚数が2倍になった。約1000枚撮影できた低消費電力のD100と比べても撮影可能枚数は1.5倍になっている。LBCASTをコンパクトデジカメに応用していくことは技術的には可能だが、現時点ではその計画はない。簡易構造なため製造プロセスも簡略化でき、しかも歩留まりも良くなるほか、CMOSと同様のプロセスで製造できるため、コストダウンもしやすい。CCDやCMOSセンサーに続く、第三の撮像素子として普及していくだろう」(同社)

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[西坂真人, ITmedia]

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