News | 2003年8月1日 11:21 PM 更新 |
日本科学未来館で8月1日から31日まで開催される「マイクロアート展」では、マイクロ光造形法で作成した微細な「彫刻」が展示されている。
多くは光学顕微鏡で観察できるミリサイズの作品だが、一部の展示品には「小さすぎて光学顕微鏡では観察できません」という注意書きが。これらは3階にある「マイクロマシン常設展示エリア」に設置された電子顕微鏡で見ることができる。
マイクロアート展の関連イベントとして8月1日に行われた「展示の前で研究者で会おう! Meet the Scientist!」で、マイクロマシンのレクチャーを行ってくれたのが、このような赤血球と同じサイズのパーツを生成する技術を開発した生田幸士氏(名古屋大学大学院工学研究科マイクロシステム工学専攻教授)。
医療用マイクロデバイス開発の第一人者である生田氏は、先日、「母校の小学校で著名人が後輩に授業を行う番組」に登場し、これまでのマイクロマシン研究の成果も紹介されているので、ご存じのかたも多いだろう。
レクチャーではマイクロ光造形法によるマイクロパーツ製造方法の解説や、マイクロマシンの駆動方式、マイクロマシンの応用事例の紹介が行われた。
マイクロ光造形法とは、薄いプラスチックをレーザーで形を整えて、何枚も重ねて形を作り上げる「土器を作るようなもの。手を動かして土器を作る代わりに、レーザーを動かして作ります」(生田氏)。
この手法で、生田研究室で開発されているマイクロマシンの特徴でもある「3次元成型」を実現した。従来のマイクロマシンは平面的な2次元成型。生田研究室では1層ずつ成型して積み重ねていく方式で3次元マイクロマシンの製造を可能にしている。
素材として使われるのは「紫外線をあてると固まるプラスチック」。液状の樹脂に紫外線を照射して層状のパーツを形成する。一層分の硬化ができたらその上の層を形成。それを繰り返してマイクロパーツを作り上げる。小学生のときに作った「等高線で区切った型紙を重ね合わせた地図」のイメージだ。
このようなマイクロマシンを動かすには、当然のことながら通常のモーターでは役に立たない。生田研究所が駆動パワーとして使うのはレーザートラップ方式。レーザートラップとは、特定のレーザーで粒子を照射すると、照射された粒子がレーザーの回折波によって発生する力に捕捉される現象。レーザーの照射方向が移動すると、捕捉された粒子も同じ方向に移動する。この原理を利用してマイクロマシンは駆動しているのだ。
生田研究所は、このレーザートラップを駆動力として動作する、マイクロギアやマイクロマニピュレータを開発している。生田氏によるとマイクロサイズになると、水の表面張力や粘性などを考慮しなければならなくなるが、マイクロギアは12rpmで回転するなど、パワーについてはとくに問題はないらしい。
生田氏がマイクロマシンの研究にのめりこむきっかけとなったのが映画「ミクロの決死圏」。この映画を見て「小さい機械で体内に潜りこみたい」という願望を抱き、「科学館に展示されているそこらへんを歩き回るロボットは、個人的には興味ない」(現在、科学館では“ロボットGoGo”という二足歩行ロボット関連のイベントが行われている)生田氏が目指すのは「医療用マイクロロボット」だ。
生田氏は今回のレクチャーで「体内に入って病気を治したり、血管に入り込んで血液の検査をする」マイクロマシンが「5年以内で実用化する」と述べている。人間が乗り込むわけではないが、ロボットが血管の中を自由に動いて病気を治してしまう。「ミクロの決死圏」のSF的世界が、そう遠い将来でなく、もうすぐ実現してしまうらしい。
これ以外にも、生田研究所では、現在開発している基本的なマイクロパーツを組み合わせて、侵襲性の低い医療用小型機械の開発を進めている。例えば、「マイクロポンプ」「マイクロレアクター」「マイクロスイッチバブル」を組み合わせて、超小型の化学反応槽装置を開発しているが、これを改良していくと「体内に埋め込む人工臓器としても使えるようになる」(生田氏)
今回展示されているマイクロアートは「それだけでは何も役に立たないし、学会に持っていってもしょうがない」と生田氏はいう。「でも、すごいのができたら見せたくなるし、それを見せてみんなが驚くととても面白いでしょ」(生田氏)
レクチャーの最中、生田氏から繰り返し出てきた言葉が、この「面白いでしょ」。今回のレクチャーに参加したのは、(夏休みで科学未来館には子どもがあふれ返っていたが)ほとんどが「大人」。なかには、「競合」の研究者や、ロボット開発の現場で活躍する技術者もいた。しかし、生田氏は、数少ない「子ども」の参加者に向かって終始語りかけるようにレクチャーを進めていった。
「出来ているものを見てしまうと簡単に見えるけれど、これを作るには技術の積み重ねと努力が必要。でも、一見無駄に見えるマイクロアートを面白がって作る気持ちが“技術者”に繋がっていくのです」(生田氏)
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[長浜和也, ITmedia]
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