News 2003年8月18日 09:24 PM 更新

“情緒”や“感動”を表現できる「進化した“ALIS”」――FHP、新PDPを9月量産

富士通日立プラズマディスプレイ(FHP)が、高輝度タイプのハイビジョンPDPモジュール新ラインアップを開発。さらに進化した同社独自のALISパネルは健在だが、シンプル構造のALIS方式とは逆に、生産工程が複雑になる格子状リブ構造の新方式パネルが大画面55V型に採用された。その意図とは?

 富士通日立プラズマディスプレイ(FHP)は8月18日、第3世代ALISパネルの「A1シリーズ」や新方式パネル採用の大画面55V型など、高輝度タイプのハイビジョンPDPモジュール新ラインアップ4機種を開発したと発表した。セットメーカー向けに9月から順次、量産出荷を開始する。「全モデルが業界最高クラスとなる1000カンデラ/平方メートル以上の高輝度を実現した」(同社)


第3世代ALISパネルの「A1シリーズ」。32V/37V/42V型がラインアップされた

 同社のPDPモジュールは、画素を発光させる電極を偶数ラインと奇数ラインで交互に発光させ、同じ電極数ながら倍の精度を可能にする独自の駆動技術「ALIS方式(Alternate Lighting of Surfaces Method)」が使われている。1999年に42V型に採用されたのを皮切りに、2001年5月には32V型や37V型を加えて第1世代ALISパネル(H1)としてシリーズ化されたALIS方式は、翌2002年6月にはピーク輝度やコントラストの向上をはかった第2世代ALISパネル(H2)が開発されている。

 このALIS方式パネルは、高輝度・高精細で長寿命な高性能ハイビジョンPDPが低コストで生産できるため、プラズマTVでシェアトップの日立製作所「WOOOシリーズ」をはじめ、三洋電機、ソニーなどが同社パネルを採用。同社のPDPモジュール市場占有率は、2002年で41%(同社予測)とトップシェアを誇っている。

 同社の森本洋一社長は「2001年は家庭向けが急伸して“プラズマTV元年”となったが、その起爆剤になったのは、業界で“ALIS三兄弟”といわれる当社の32/37/42V型シリーズ。2002年はW杯の影響もあってプラズマTVが本格普及し、世界市場への展開も加速した。2003年は大型LCDや韓国製PDPの台頭で、FPD大競争時代となっている」と、PDP市場の現状を語る。

 ハイビジョンPDPの新ラインアップ「A1シリーズ」に採用された第3世代ALIS方式は、新しい放電ガスと蛍光体セットを採用することで発光効率を高め、輝度が42V型で1100カンデラ/平方メートル(37V型と32V型で1000カンデラ/平方メートル)、色温度が9000Kと、高輝度・高色温度になっている。


従来パネルに比べ高輝度・高色温度になった第3世代ALIS採用のA1シリーズ

 「高い色温度によって、CRTやLCDをしのぐ業界最高の青色純度を再現できるようになった。抜けるような青空や、海の深い青色を忠実に表現できる」(同社)


業界最高の青色純度で、“青”を忠実に再現できる

 そのほか、10ビット入力対応によって色表示能力が従来の1677万色(8ビット入力対応)から10億7000万色と大幅に向上したほか、映像シーンに応じて信号処理を最適化する新開発の高画質化LSIによって、PDP特有の擬似輪郭をなくすなど動画品質の向上を図った。TV表示での輝度半減時間が6万時間以上と、電極を交互に発光させるALIS方式のメリットである長寿命性も健在だ。

 「従来のPDPは情報を伝える機能を盛り込んでいたが、今後はそれに“情緒”や“感動”をプラスしていく段階になってきた。当然、業界最高水準のコストパフォーマンスは確保している。現在、PDP生産は月産3万台規模だが、A1シリーズが投入される9月には月産5万台となり、来年5月には月産7万台、2005年には月産10万台にまで拡大する予定。PDP世界トップシェアは堅持していく」(森本社長)

方針転換?55V型に格子状リブ採用の新方式パネル

 今回、第3世代ALISパネルと同時に発表されたのが、同社初の50インチ以上PDPとなる55V型だ。北米で人気の高い50インチ以上のプロジェクションTV市場を狙ったこの大型PDP向けパネルには、業界初の対角141センチ・WXGAの高精細タイプを使用し、輝度は1000カンデラ/平方メートル、色温度は9000Kと、高輝度・高色温度なA1シリーズと同様の高画質化技術が採用されている。


同社初の50インチ以上PDPとなる55V型パネル

 注目したいのは、同社のフラッグシップとなるこの大画面パネルには、第3世代ALISパネルではなく、新開発パネルが採用された点だ。「e-ALIS方式」と名づけられたこの新パネルは、前面板にこそALIS方式の共通電極構造を採用しているものの、背面板は従来の「ストライプリブ構造」から「格子状リブ構造」に変更している。


背面板を従来の「ストライプリブ構造」から「格子状リブ構造」に変更

 各セルのリブ(隔壁)を井ゲタ状にすることで蛍光体の塗布面積が増え、ストライプ構造よりも発光効率を高めることができる格子状リブ構造は、パイオニアの「(ディープ)ワッフルリブ」などで有名だ。だが同社は、生産プロセスの優位性から、ALIS方式にはコストメリットの大きいストライプ構造を採用していた。製造工程が複雑になる格子状リブを同社としては否定してきただけに、e-ALIS方式での採用は今後のALIS方式の標準仕様になる可能性も含めて注目されるところだ。

 「シンプルなストライプリブの方が、コスト面や生産性だけでなく小型・高精細化にも有利。55V型に格子状リブを採用したのは、発光効率アップという狙いももちろんあるが、プログレッシブ表示にしたかったという方が大きい。ALIS方式もブラウン管などに比べたらフリッカーは少ないものの、インターレス表示である点は同じ。だが、50インチ以上の大画面ではプログレッシブ表示ができるe-ALIS方式の採用が増えるかもしれないが、30インチ台では従来のストライプリブが有利という考えは変わらない」(同社)

 PDPモジュール新ラインアップの主な仕様は以下の通り。

サイズ55V型42V型37V型32V型
奥行き約65ミリ
重さ約30キロ約17キロ約13.5キロ約11キロ
有効画面サイズ1229×691ミリ922×522ミリ814×445ミリ716×399ミリ
画素数1366×768画素1024×1024画素852×1024画素
アスペクト比16対9
画素ピッチ0.90×0.90ミリ0.90×0.51ミリ0.80×0.44ミリ0.84×0.39ミリ
輝度1000cd/u1100cd/u1000cd/u1000cd/u
色温度9000K
表示色10億7000万色
暗室コントラスト1000対1
消費電力350W270W230W170W

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[西坂真人, ITmedia]

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